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第2話

天に広がる星空のような少女は尋ねる。

???「ここに誰か来るなんて初めてなの。しばらく人とも会ってないし、ひとりぼっちでここにいたから。だからあなたたちとお話がしたいなって思って。それでね、あなたたちのことを教えて欲しいの。」

エミール「…僕たちのこと?というか、君は誰なの?ここにずっといるって、そもそもいったいここはどこ?」

???」「分からないの。気がついたらここにいたから。お父さんもお母さんもいなくなってた。最初は誰もいなくて怖くなって、泣いちゃって、ずっと独りで震えてたの。でも、少しずつ落ち着いてきた頃にね、ふと上を見たらこんなにも素敵な星空が広がってたから、気がついたらずっとあの星空に夢中になっちゃってた。怖くなってたのことなんて忘れちゃって。それからここでずっと星空を見ていたの。」

ウィリアム「帰ろうって思ったりしなかったのか?」

???「もちろん。でもここから外に向かって歩いてみても、不思議なことにいつの間にかここへ戻ってきちゃうの。だから帰ろうにも帰れなくて…。」

少女の顔が少し暗くなる。俯きながら少し笑う少女の表情からは諦めの感情がうかがえた。しかし、彼女はパッと顔を上げると、状況を呑み込めず困惑している5人に向かってこう告げる。

???「でもね、今あなたたちが何でかは分からないけど、こうしてここにきた。ずっとひとりぼっちだったから、人と会えるのは私にとってすっごく嬉しいことなの。だから、あなたたちのことが知りたいし、お話もしたいの。」

エミール「だからって急にそんなことを言われても…うん?」

どうしようかと頭を悩ませた彼は右手を腰に当て、反対の手で頭をポリポリと掻きながら視線を下に向ける。その瞬間彼の目には妙なものが映った。何やら近づいてひょいっと拾い上げてみると潤沢に輝く広葉であった。彼はその違和感に気づいた。さっきまでいた場所がここと同じであればそんなものあるはずがないのだ。いくら風が吹こうとも、彼らの周りを広く取り囲む木々からは葉っぱが飛んでくるなんていうことはあり得ないのだ。ではこの葉っぱはいったいなんなのだろう。そして彼はある一つの答えに辿り着く。いやそもそもとしてこのことに気づいていないのがおかしかったのだ。星空が目を、この少女が音を奪ったのであろうか。そうでなかったとしてもこのあるはずのないものになぜ誰もがさっきのさっきまで目に止まらなかったのだろう。地面がその影で深く覆われている。堂々と構えているそれは不動のようにも見えるが、よくよく目を凝らすと少しばかり吹いている風がザワザワとその緑色の髪を靡かせる。彼はそれをようやく認識する。先ほどの場所にはなく、その幹が刈り取られてしまったはずの巨木がそこにあった。

エミール「え?」

ジョゼフ「どうしたのエミール?…って、えぇ!?」

ウィリアム「おいおいこれって…。」

エマ「嘘でしょ!?」

サンドラ「どうなってるの…。」

エミールがそれを認識すると、後から4人もその存在に気づく。

???「どうしたの?」

エマ「どうしたもこうしたも!なんなのこの木!?」

???「何って…ずっとここに生えてるわよ。」

ジョゼフ「いやいや、この木があったところ、さっきまで切り株があったよね?」

ウィリアム「すっげぇぇぇ!いつの間にこんなにでっかくなりやがったんだ!?」

サンドラ「そんなわけないでしょ。」

???「切り株?何を言っているのか分からないわ。さっきからずっとこの木はこんな感じだったし、私がここにきてから一度も倒れたり、あなたたちの言う切り株になったりしてないわよ?」

エミール「いったい何がどうなってるんだ…。」

ジョゼフ「頭の理解が追いつかないよ。」

彼らはもう何が何だかわからなくなっていた。さっきまで昼間の森に穏やかな場所を見つけたと思ったら、急に激しいめまいに襲われ、気がつけば夜空に星が煌めく空間に少女が独り、それにさっきまではなかった巨木が突然目の前に現れたりと、意味のわからないことばかりが起きているのだ。

エミール「とりあえず、一旦整理しよう。」

ジョゼフ「僕たちは公園でいつも通り集まった後、今日は何をするか決めるために考え合っていると、夫婦であろう男性と女性が森の中にある星空が綺麗な場所のことについて話していた。気になった僕たちはその場所を見つけようと森へ向かった。」

ウィリアム「今思えば、昼だってのに星空が見える場所探すなんておっかしなはなs。」

サンドラ「うるさい…。」

ジョゼフは咳払いをして話を続ける。

ジョゼフ「えーっと、それで僕たちはずっと森の中を歩き続けて、それらしき丘にたどり着いた。てっぺんにあった切り株に座って休憩していると、急にめまいがして、立っていられることができなくなって、そのまま地面に伏しちゃって。しばらく経つとその痛みは消えていて、目が覚めるといつの間にかここの場所に来てた。すると突然この子が来て。話をしていたら、この木があることに気づいたっていうであってる?」

エミール「あぁ。」

ウィリアム「俺も。」

エマ「私も。」

サンドラ「コ クッ」

ジョゼフ「うん…。」

5人「 “ わ け が わ か ら な い。” 」

???「?」

少女は彼らが何を言っているのか、また何をしているのかわからないといったかんじで首を傾げ、困惑している。

エミール「と、とにかく、今はこれで状況を飲み込むしかないね。」

ジョゼフ「いつまでも悩んでいても仕方ないか…。もう一回、あの子と話をしてみるべきじゃない?」

サンドラ「うん。それがいい。」

エマ「ねぇ、あなた。」

???「どうしたの?」

そういうと少女はニコッと笑って彼らの方を向く。

エマ「急だけど、私たちもあなたとお話ししてみたいわ。」

???「もちろん!嬉しいわ。あなたたちのことを教えて!」

ウィリアム「まずお前の名前を教えろよ。こういうのって、自分から名乗るもんだろ?」

エマ「別に良いじゃない。私の名前はエマ!よろしくね。」

サンドラ「…サンドラ。」

ジョゼフ「僕はジョゼフ、よろしく。」

ウィリアム「俺はウィリアム。」

エミール「僕はエミール、よろしくね。」

???「私はオリヴィア!よろしくね!それじゃあ、あなたたちのこともっと教えてくれないかしら?」

ウィリアム「いいぜ!じゃあ俺からな!俺はな、生き物が大好きで…」

そうして彼らはお互いのことについてしばらく話し合った。時には笑い、時には驚き、時には少し不満げそうに。得体の知れない彼女に対する警戒は少しずつ解きほぐされていき、気づけばただ新しい教室で初めてクラスメイトと話すような時間がすぎていった。

エマ「じゃあ次はオリヴィアの番ね。」

オリヴィア「分かったわ。私はねリーラットっていう小さな村に住んでたんだんだ。お父さんは猟師でいつも森に出かけて鹿とか猪とかを狩ってくるの。お母さんは家で編み物をしたり、水汲みに出かけたりしていたわ。私はお父さんとお母さんからいろんなことを教わってね、いつの間にか弓矢で的を当てたり、編み物もちょっときたないけどできるようになってたの。」

エミール「それはすごいな…。」

オリヴィア「でね、お父さんがとっても大きくていっつも背中に背負ってもらうんだけど、なんだかあったかいんだ。それにお母さんは怪我をして泣いてる私をよしよしっていっつも撫でて優しく慰めてくれたんだ。それにねそれにね!お母さんの作る料理がとっても美味しくて!中でもシチューは本当に美味しいの!一度でいいからみんなに食べてほしいくらい。」

ジョゼフ「そこまで言うんだったら、一口でも味わってみたいね。」

オリヴィア「うん!みんなきっとびっくりするよ。ほっぺがとろけ落ちそうになるの。っと、話が逸れちゃった。私はお父さんにたまに狩りに連れて行ってもらうんだけどね、たまに夜遅くなっちゃう時があるの。私は眠くなっちゃってお父さんの背中でいっつも寝てたんだ。でもね、その時ふと上を見上げるととっても綺麗な星空が広がっていたの。とっても綺麗で、その時から星空がとっても好きになったの。まあ、それと同じくらいにお母さんが育ててた花畑が好きだったけどね。いろんな花がいっぱい咲いていて。ちょうどあんなふうに。」

とオリヴィアが指を刺す方向に彼らは目を向ける。見ると背の低い緑の草のカーペットが敷かれていたであったそこは、辺り一面満開に咲く美しい花々で彩られていた。それも何十,何百と様々な種類があり、鮮やかなグラデーションがそこにある。

エミール「なんだ…これ…。」

エマ「本当に不思議だわ…。」

サンドラ「綺麗…。」

サンドラは思わず、そちらへ歩みを進める。彼女は花畑の中で屈む。情熱のような真っ赤な花,凛としているお淑やかな白い花,夜の空のような少し悲しそうな青い炎をいくつも灯した花,仄かに褪せてはいるがそれが優しさにも見えるような黄色い花。色とりどりの花が彼女の周りでそれぞれの個性を出し惜しみなく表に放ち、刹那を精一杯生きている姿を見せている。彼女はだんだんと目を輝かせ、口を手で覆い、その笑みをみんなに悟られぬよう隠している。

ウィリアム「おいおい、あのサンドラがあんな顔をしてやがるぞ…。珍しいこともあるもんだな。」

エミール「サンドラにもずいぶん可愛らしいとこがあったんだね。」

ジョゼフ「確かに。いつも笑ったりとかしないから、こういうのなかなか新鮮なものだね。」

サンドラ「…うるさい。」

彼女は少し頬を赤らめると、こちらをジトーっと見てくる。どうやら柄にもなく照れているらしい。そうして彼女は花畑をじっくりと堪能し終えるとこちらへ戻ってくる。

サンドラ「悪くなかった…。」

ウィリアム「あぁ、本当にな。まさかサンドラがあんなに可愛い感じになるなんて思いもsうごぇぇぇ!」

彼女の渾身の一撃が彼の腹部目掛けて放たれる。

サンドラ「…うるさい。」

しかし、どこか満更でもなさそうな顔をしている。

オリヴィア「うふふ。仲がとってもいいのね、あなたたち。」

サンドラ「そんなことない。」

ウィリアム「いってぇなぁぁ。何もそこまでするこたぁねぇだろ?」

サンドラ「…バカ。」

ウィリアム「一体なんだってんだよ…。ちょっとからかっただけ…。?なんだ…あれ…?」

彼は気づく。彼は日頃から森の中を歩き回り、何か珍しい生き物がいないか探し回っている。生態については人並み抜けているところがあった。そんな彼だから、おかしいと思うのだ。目の前の花の異様さを。彼はその花に近づく。

エマ「何よ。あんたもあんなこと言っておきながら、もしかしてお花が好きだったりするの?」

ジョゼフ「ウィルも人のこと言えないじゃないか。」

ウィリアム「なんだこりゃぁ。こいつも。」

エミール「何がそんなにおかしいの?」

オリヴィア「私には普通の綺麗なお花畑に見えるけど。」

ウィリアム「やっぱりそうだ。でもなんでこいつらが?」

ウィリアムはしゃがみ込んだまま、なんかをぶつぶつと呟いている。時々四つん這いになったかと思うと何かを凝視するようにしたり、かと思うと今度はあごに手を当てて考え込むようなそぶりをしたり。

エマ「ちょっといったい何を言ってるの?」

ウィリアム「おかしいんだよ。この花がこんなとこにあんのが。」

そう言うと彼は、ある花を指差す。なんだなんだと彼らも彼に近づく。

ウィリアム「こいつはこんな太陽がガッツリ当たりそうなところになんて咲かねぇ花なんだよ。あとこいつも、こいつは基本何本も固まって咲く花じゃねぇ。」

ジョゼフ「あ、この花本で読んだことがある。ウィルの言う通り群生しない花だよ。だとしたらなんで?」

ウィリアム「な?だからおかしいだろ?」

エマ「あんた、そんなことどこで知ったのよ。」

ウィリアム「舐めんじゃねぇよ。いっつも森の中に探検しに行ってるから、こう言うことはあったりまえよ。」

オリヴィア「すごーい。こんなこと気づきもしなかったわ。」

ウィリアム「えっへへ、すげぇだろ。」

エミールは立ち上がると少し考えたような素振りをしてこう言う。

エミール「やっぱり、ここは少しおかしいね。」

ジョゼフ「どこか得体の知れなさがあるよ。」

エミール「ねぇ、一旦帰らない?」

ジョゼフ「そうだね。ここに何があるかもわからないし。オリヴィアには悪いけど、ここは一度帰るのが良さそうだね。」

オリヴィア「えー!もう帰っちゃうのぉ!?」

エミール「ああ。そもそもとして俺たちはどうやってここに来たのかもわかんねぇし、早く帰らないと母さんも父さんも心配するしな。」

オリヴィア「そっかぁ。せっかくお友達になれたのに…。」

少女は少し残念そうな表情を浮かべる。

エマ「そう落ち込むことはないわ。またここに来ればいいもの。」

オリヴィア「本当?」

ウィリアム「ああ。何回だってここに来ればいいじゃねぇか。そうしたら何回も話せるし,遊べるしな。」

サンドラ「私もまたここ来たい。」

オリヴィア「うん、分かったわ。また遊びましょう。」

エマ「うん!」

少女の顔にまた笑顔が戻った。彼らとの約束が彼女に希望を持たせる。たとえそれが叶わなかったとしても彼女は約束を信じ、この場所で彼らを待ち続けるのだろう。彼らもまた同じである。新たな友とまた会えることを信じ、この場所を後にするのだ。

ウィリアム「って言ったものの、いったいどうやってここから帰るんだ?」

ジョゼフ「うーん。やっぱり、森を抜けたほうがいいのかな?」

エマ「でも、オリヴィアが森を向けようとしたらここに戻ってきちゃったみたいなことを言ってなかったっけ?」

オリヴィア「うん。森を抜けようとまっすぐ行ったの。それなのに、いつの間にか戻ってきちゃってて。」

エミール「ものは試し。やってみたほうが早い。」

そう言うと彼らはこの空間を囲む端の木々までやってきた。みてみると先に続いているように見える。

エミール「とりあえず、進んでみるか。」

ジョゼフ「うん。じゃあね、オリヴィア。」

オリヴィア「うん。またね。」

エマ「また来るからね。」

ウィリアム「今度は俺のとっておきのやつ持ってくるよ。」

サンドラ「また、お花見に来る。」

オリヴィア「うん!約束!」

少女はそう送り出すと、彼らは暗い森の中に消えていった。

エミール「とりあえず、まっすぐ進んでみよう。」

ウィリアム「その方がいい。下手に曲がったりしたら、それこそ迷子になっちまう。」

彼らは草をかき分け,一歩一歩強く踏みしめながら先に進んでいく。

エマ「大丈夫かしら?」

エミール「わからねぇ。とりあえず進んでるだけだからな。ともかく森を抜ければこっちのもんだ。」

彼らはどんどんと森の奥深くに足を踏み入れる。深く、深く、深く…。どれほど歩いただろう。彼らには疲れが見え始めた。一体いつになれば森を抜けられるのだろう。それでも彼らは進んでいく。そして、そして、そして…。ようやく光が見えた。彼らは安堵した。ようやく帰れると。そのさきへ向かう。希望がようやく見えたと。そして彼らは光の先の光景を目にした。その先に広がっていたのは…。今まで見たことないほど美しい星空と、悠々とそびえ立つ巨木、辺りを満開の花が彩り、その中に少女がただ1人、寂しそうに星空を眺めていた。さっき出発したばかりの場所に戻ってきてしまった。オリヴィアの言ったことが本当なのだったと実感した。何やら物音がしたので、少女は気になりそちらへ視線を向ける。するとそこには、さっき森に姿を消して行ったはずの友が今にも倒れそうと言った感じで彼らが入って行った方向とは反対のところから出てきた。

オリヴィア「みんな!大丈夫?なんだかとっても疲れた顔をしているわよ。」

エミール「本当に戻ってきた。」

サンドラ「もう…もう…だめぇ。」

エマ「流石に疲れたわぁ。」

ジョゼフ「なかなかにきついね。」

ウィリアム「俺でも流石に疲れたぞ。」

ゼーハーゼーハーと息を切らしながら、5人が崩れ落ちる。

オリヴィア「とっ、とりあえず木のところまで行きましょ。背もたれにはなると思うし。」

とてつもない疲労と嫌な表情を顔に浮かべながらも彼らは重い腰をあげ、ふらふらと巨木の方向へ向かっていくのであった。そしてなんとか辿り着くと、力が抜けるように木にもたれる。

エミール「はぁー。どうしたものか。」

サンドラ「もう私、動けないわよ。」

ジョゼフ「僕も。」

エミールはそんな中でも何一つ表情を変えることのない星空に釘付けになっていた。疲れているはずなのに、もう何の気力もないはずなのに。自分の目がそれを見ることをやめようとはしなかった。星の魔力に当てられたと錯覚してしまいそうなほどに、彼の探究心は今眼前に広がるこの星空に注がれていた。

エミール「やっぱり、綺麗…。」

ウィリアム「よくもそんなこと言える余裕があるなぁ。」

オリヴィア「うふふ。実は私ね、この星空を誰かと見てみたいとも思ってたんだ。こんなにも私の願いが叶う日が来るなんてね。とっても嬉しいわ。」

エマ「私たちは今そんなことを思えるような感じじゃないけどね。」

ウィリアム「でもよ、こんな感じでみんなと一緒にみる星空も意外と悪くねぇもんなんだな。」

サンドラ「珍しく気が合った。」

ウィリアム「本当か!?やっぱりそうだよな!?」

サンドラ「うるさい。」

オリヴィア「アッハハ。ほんとうに楽しいわ。」

エミールはこうしてしばらくみんなと星を眺めていたいと思っていた。この時間がこの上なく幸せだと思っているから。思えばいつも独りで星空をみていた。友だちとみることなんて一度もなかった。だからこそ、こうしていることがとても新鮮に感じるのだろうか。なんて思っていた。しかし次の瞬間、彼らを激しいめまいが襲う。ここに来る前にも感じたあの時と同じ激しさで。さらに彼らの頭に鋭い痛みも走る。急に苦しみ出した友達を前にオリヴィアは戸惑う。

オリヴィア「えっえっ!どうしたのみんな!?何があったの!?」

エミールは理解する。ここにくる前に今と同じめまいと頭痛を感じた。なら、もとの場所に帰る時に感じてもなんら不思議ではない。そう、これは前兆なのだと。

エミール「も…しかしっ…たら、俺…たち…帰れる…かも…知れな…い。」

オリヴィア「えっ?でも、すっごく辛そうよ。本当に大丈夫なの?」

エミール「たぶん…だいじょう…ぶ…。」

オリヴィア「…うん。わかった、信じるね。」

エミール「ああ…。」

その言葉を聞いたからか彼は意識を閉ざす。そうして…。目を覚ますと、彼らは元の場所の切り株のそばで倒れていた。のそっと彼は起き上がる。

エミール「帰ってこれたのか?」

辺りを見渡すとあの綺麗な星空はもうなく、代わりに淡く夕焼けの空が澄み渡っていた。草のカーペットが夕焼けに照らされ、仄かに赤く染まっている。そうしていると、他の4人が目を覚ます。

ウィリアム「?ここは?」

エマ「元の場所みたいね。」

サンドラ「帰ってこれた?」

ジョゼフ「そう…みたいだね。」

エミールは立ち上がって、余韻に浸る。あの美しい星空をもう一度見ていみたい。あの場所でまたみんなと見られたら。そんなことを思っているのだろうか。少しして、彼は振り向き、いまだ起き上がれずにいる4人に言う。

エミール「さーって。こっから帰らないといけないぞ。」

4人はもうくたびれたと言ったような表情で地面に寝転がる。彼らにそんな気力は残っていないようだ。やれやれと思いつつも、全員を叩き起こし、5人は帰路へ着く。そうして街についた彼らは別れを交わし、家に帰る。やっとの思いで帰ってこれたことに安心感と冒険が終わってしまったような物寂しさを覚えることだろう。

その夜、彼らは各々今日のことを振り返っていた。あるものは星空のことを、あるものは花のことを、あるものは新しき友を、あるものは不思議な場所のことを、あるものはあの場所で見た異変のことを。それぞれに思うところがあるのだろう。彼らは今日は眠れない。彼らの目に映る今日の星空はあの場所で見た星空よりもやはり物足りなさを感じてしまうことだろう。そうして彼らは心に決める。“明日あの丘のあの木の下で星空のようなあの少女との約束を果たしに行こう”と。そうして、彼らの意識は深い眠りの世界へと落ちていくのであった。

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