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三題噺もどき3

晴れの日

作者: 狐彪

三題噺もどき―よんひゃくさんじゅうはち。

 


 外は昨日から変わらず分厚い雲に覆われている。


 やっと桜が咲いたと思えば、こうして雨や風にそうそうにさらわれてしまう。

 桜の儚さに拍車をかけようとでもしているんだろうか。

 今年は卒業の桜ではなく、入学の桜になると思っていたが……式までは間に合わなかったようだ。

「……」

 てっきり四月入ってすぐに入学式だと思っていたが、どうやら二週間目の今日から始まるらしい。妹が昨日教えてくれた。

 小中学校は今日が入学式で、高校は明日らしい。どこからそんなことを知りえるのかという感じだが、職場でも甥っ子の園でも聞いたんだろう。

「……」

 しかし、今日が入学式というのは少々かわいそうな気がするな。

 本人たちは、それどころではないだろうから杞憂もいいところなんだが。

 こう、晴れの日に重苦しい空では、惜しいと言うかなんというか……親的には残念だろうな。

 と、親でも何でもないが思ってしまう。

「……」

 昨日、曇っていたどころか雨が降っていたので、甥っ子に残念な思いをさせてしまったから、そう思うのかもしれないが。

 こういう時に限って、青空は覗きもしないのだから、人生うまくいかないものだ。

 ……うまく行ったことなんてないんだが。

「……」

 先週から、週末―昨日に花見にでも行こうと約束していたのだ。

 しかしまぁ、あいにくの天気で雨が降ってしまっていた。

 ここではなく砂地にでも降ってやればいいのに……なんてことをぼんやりと思ったことをふと思い出した。

「……」

 まぁ、そんな感じの雨だったから。

 外で食事をするわけにもいかず、どうしたものかと……悩んだ挙句に。

 我が家で食事でもということになった。

「……」

 私が妹宅に行ってもよかったのだが……それは無理じゃないかと妹に咎められた。

 まぁ、移動の手段が徒歩でしかない以上雨はそれなりに障害だが。

 甥っ子的にも、花見は出来ずとも車で我が家に来ることが、それなりに楽しいみたいなので。

 我が家に来ることになったのだ。

「……」

 相も変わらず元気いっぱいの甥っ子に。

 我が家に来ると、母というよりは妹という感じが強くなる妹と。

 それに振り回されつつも幸せそうに笑う義弟。

「……」

 久しぶりに三人でそろう姿をこの目にしたが。

 話すだけでもお腹いっぱいになるのに、こんなに幸せを分けてもらっていいものかと思う程にいい時間だった。

 どうしても雨が降ると偏る、この偏屈思考の頭には、良い栄養になる。

「……」

 雨の一日で。

 花見でもしようという約束は守れなかったが。

 うん。それなりにいい一日だったと思う。

「……」

 あぁ。

 やっぱり天気なんて関係ないのか。

 晴れの日に曇っていようが、なんだろうが。

 そんなものは受け取り方の問題でしかないのか。

「……」

 昨日のことも、甥っ子には残念な思いをさせてしまったと思ってはいるが。

 それは勝手な私の思考であって、当の本人はそんなことは思っていないかもしれないし。

 あの楽しそうに食事をしていた笑顔が嘘だと考える方が、なんだか苦しい。

「……」

 確かに、晴れていた方がより良いモノにはなるだろうけど。

 そうでなくとも、よい記憶は残るものだし、いい思い出だと笑えるし。

 きっと今日の入学式も、それぞれいい記憶になるようにと。

 沢山の配慮があったり、教師陣の工夫があったりするんだろう。

「……」

 私自身は、入学式の記憶なんてものはほとんどないが。

 というか、そういう晴れの日と言われるものに対していい記憶がないのだが。

 そうはならないように、たくさんの何かはあったはずなのだろう。

「……」

 そう考えると、記憶にいいモノが残っていないというのは、少々申し訳なさがあるなぁ。

 かと言って、あの頃の私はどうも僻みというか妬みというかが、積もっていたからどうにもならなかっただろうけど。発散しようもなくて溜め込んでいたから……その癖は未だに治りはしないが。

「……」

 ふむ。

 昨日会ったばかりなのに、なんとなくまた会いたくなってきた。

 今日はもう連絡はすまいと思っていたけど……。

 夜に電話してみようかなぁ。







 お題:青空・砂地・約束

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