表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ローレライの奴隷少女を買った話  作者: しらゆき とうか
6/6

アリューシャとフラーナ

「こちらが今回お使いいただくお部屋です」


 ラグナの命を受けたアリューシャは、フラーナを客室へと案内した。


 そこは屋敷の2階にある部屋で、窓からは街と森の景色が一望出来る素晴らしい景観が楽しめる。


 ホテルなどであれば、文句の付けようもなくスイートルームに選ばれるであろう一室だった。


「……ふん、中々に良い部屋だな」

「では、私はこれで……」

「ちょっと待て」


 部屋を去ろうとするアリューシャを、フラーナは呼び止めた。


「……何か?」

「何か、じゃないだろう。……こんなところで何をしている?」

「何の事でしょう? 私は一介のメイドに過ぎませんが……」

「そんな馬鹿げた魔力の持ち主が、ただのメイドであるものか」

「…………」

「……お前、"魔女"だろう?」

「…………ふぅ」


 フラーナの問いかけに、アリューシャは返事をするかのようにため息を吐いた。


「よくお分かりになりましたね、フラーナ様。上手く魔力を抑え込んでいましたのに」

「私とて数百年は生きている魔女だ。同じ魔女の魔力くらい、分からいでか」

「……流石です」


 アリューシャは観念したように振り向いた。


「改めて自己紹介を。私はアリューシャ、人々からは"紅蝶の魔女"と呼ばれています」

「紅蝶か……。……どこかで聞いた話では、紅蓮の炎を纏った巨大な蝶がひとつの村を焼き尽くしたとか……」

「そんな事もありましたね」

「事実なのか?」

「はい」


 淡々と答えるアリューシャ。


 表情一つ変えないメイド姿の魔女に、フラーナは怪訝な表情を浮かべた。


「……どうして、こんなところでメイドなんてしているんだ?」

「ご主人様……、ラグナ様が、私を拾って下さったのです。……あの晩、行く宛ても無く森をさまよっていた私を……」

「……」

「あの当時、私は村を焼き払い、潜伏していた時でした。着る服も無く、皮膚は植物の棘などでボロボロで、虫もたかる程にみすぼらしい状態でした」

「……魔法でも使えば良いだろうに……」

「そんな醜い外見となっていた私に、あの方は、何も気にする素振りさえ無く私にお声をかけて下さったのです。その時、私は決意しました。この方に、精一杯の御恩をお返ししようと……」

「……」

「そうして、私は今、ここでこうして働かせていただいているのです」

「…………」


 ひとしきり語り終えたアリューシャは、どこか満足げな表情を浮かべていた。


 が、それとは対照的に、フラーナの表情は怪訝なままである。


「……ったく、アイツもホントに変わらないな」

「ええ、本当に……」


 フラーナは知っていた。


 ラグナの、お人好し過ぎる一面に。


 かつて、自分もそのお人好しな彼に救われた一人だったから。


 故に、アリューシャの話も概ね理解は出来た。


 が、それで納得出来るかどうかはまた別の話である。


「なるほど、事情は分かった」

「ご理解いただけたようで、何よりです」

「だがな、ひとつだけ言わせてもらう」

「?」

「もしあいつに何かあったら、その時は全力でお前を叩き潰す」

「それはこちらのセリフです」

「……あ?」

「フラーナ様こそ、ご主人様をたぶらかすような真似をされましたら、全力で燃やし尽くして差し上げます」

「は……、はぁあああ?! な、ななな何言ってんだ、テメェ!」

「そのままの意味です。ご主人様の初めては、いずれ私が⋯⋯」

「ふっざけんなよ、この変態魔女が!」


 ぎゃあぎゃあと言い争う2人の声が、屋敷中に響き渡る。


 紅蝶の魔女と氷華の魔女。


 相反する属性の衝突は、夜まで続いた。




 その頃、屋敷の主であるラグナは。


「⋯早速仲良くなったみたいだな、あの2人」


 のんきな感想をつぶやきつつ身支度を整え、フラーナの手紙を届ける為に冒険者ギルドへと向かっていった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ