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ローレライの奴隷少女を買った話  作者: しらゆき とうか
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ローレライと訪問客

「エリアナお姉さん、これの買い取りお願い」

「えっと……」


 綺麗な青紫色の水晶玉を取り出し、受付カウンターの上にごとりと置いた。


 今日受けた依頼は墓地周辺をうろつくアンデット型の魔物の討伐。


 オレはその過程で、なんと死霊使いの外道魔術師と遭遇。とっちめたついでにアンデット達を使役する効果を持つ青紫色の水晶玉を回収し、換金しようと持ち帰ったのである。


 ちなみに、先の外道魔術師はすでに奴隷商のところへと売却済み。彼には生き地獄のような奴隷生活が待っている事だろう。自業自得だと思って、心の底から反省していただきたい。


「それで、鑑定額の方は……」

「あの、ラグナ様……」

「ん?」

「この水晶玉は、先程捕らえたと報告のあった死霊使いの方の犯罪に使用された物的証拠品として押収させていただきます。ですので、値段はつけられませんよ?」

「ガーーーン!」


 まさかの換金拒否。どころか、せっかくの水晶玉を取り上げられてしまった。


 非常に悲しいのだが、よくよく考えてみれば当たり前の事であるので、反論する事は出来ない。


「その代わり、犯罪者を捕らえて依頼も達成した事で、特別報酬が与えられます。どうぞお受け取りくださいませ」

「お、おぉぉ……っ!」


 じゃらり…という重量感のある音を上げて置かれる袋。


 中には、たくさんの金貨が入っていた。


「こ、これはいくら入って……?」

「合計45万フロンです」

「!!!」


 45万フロン。これは中々の大金である。


 屋敷の維持費2月分は賄える程の額なので、貧乏貴族のオレにとっては十分大金である。


「よっし! これで屋敷の皆にご馳走が振る舞える……!」

「ふふ、とてもお貴族様のセリフとは思えませんね」


 まるで小遣い貰えて喜ぶ子供を見守るような目で見てくる、受付嬢のエリアナさん。


「本当に、こんなに貰っても良いの?」

「構いませんよ。バレンさんからの指示ですので」

「え?」

「『ラグナが死霊使いを捕らえてくるはずだから、その時は特別報酬を渡すように』…と、仰せつかっております」

「……」


 つまり、ギルドマスターはこの事を予想していたって事か……。


「なぁーんか上手く利用されたような気がする……」

「気の所為でしょう」

「否定が早い……」


 妙に色々引っかかるものの、特に何か損している訳でも無いのでこれ以上言及はしなかった。




 ◆◆◆




「ただいまー」

「おかえりなさいませ、ラグナ様」


 いつものように帰宅すると、専属メイドのアリューシャがいつものように出迎えてくれた。無表情で。


 もうちょっと愛想良くしてくれても…と思わないでも無いけれど、アリューシャはただ感情表現が苦手なだけなのだ。


 なのであまり気にしない。


「夕食の準備はもう出来ていますので、着替えを済ませてきてください。お部屋までお運びします」

「ありがとう。助かるよ」

「いえ」


 今日の夕食のメニューに心を踊らせつつ、オレはウッキウキで部屋へと向かった。






「ふんふふ〜ん♪」


 着替えを済ませ、机の上でお金を数えていると、軽快にドアを叩く音が聞こえてきた。


 ―――タン、タタタンタン、タン。


「はいはい、ノックで演奏してないで、入ってどうぞ」

「失礼します」


 今のリズミカルなノックの主は、当然アリューシャである。


 彼女は感情表現が苦手なだけで、感情が全く無い訳では無い。むしろ豊かな方である。


 無口で愛想も良くは無いが、あれで結構お茶目だったり、時にはおふざけしたりするところもあったりする。


 今回のノックもそのひとつだ。


 ちなみにこのノック音、毎日違うリズムだったりする。


「うーん、いい匂いだ」

「ありがとうございます」


 カートをカラカラと移動させ、その上に乗っている食事を机の上に次々と乗せていく。


 相変わらずの手際の良さに、少しばかり見惚れてしまう。


「本日のメニューはビーフステーキとクリームスープ、三種の野菜の盛り合わせとなっております」

「いやぁ、どれも美味しそうだなぁ」


 お世辞ではない。


 アリューシャの料理は、本当にどれも美味しいのだ。


 この食事があるからこそ、オレは今も生きているのだと言っても過言では無い。


「それじゃ、いっただっきまー…」


 ―――ゴンゴンゴン。


 今まさに食事をしようというところで、屋敷のドアを叩く音がした。


 ご来客である。


「えー、このタイミングで……」

「私が対応しますので、ラグナ様はそのままお食事を」

「ありがとう。よろしくね」

「はい」


 アリューシャはぺこりと一礼し、来客の対応へと向かっていった。


 ナイフとフォークでステーキを切り分け、口へと運ぶ。


「うんまい」


 来客の対応をアリューシャに任せ、オレは黙々と目の前の料理を片付けていった。




 ◇◇◇




「……ふぅ」


 ドアの前に立ち、アリューシャは軽く息を整える。


 扉をゆっくりと開けると、外には赤いドレスに身を包んだ美しい貴婦人が立っていた。


「どちら様でしょうか?」

「突然訪問してすまない。ラグナはいるか?」

「……」


 上品な見た目に似合わぬ、粗忽な物言い。


 顔もスタイルも素晴らしいが、態度は悪い。


 アリューシャは少し身構えた。


「……ご主人様は現在、お食事中でございますが」

「そうか。なら伝えてきてくれ、『フラーナが来た』と」

「……少々お待ちください」


 ドアを閉め、アリューシャはラグナを呼びに部屋へと向かっていった。


 ドアの前に佇む貴婦人―――フラーナは、手持ち無沙汰を紛らわそうと軽く傘を振り回した。


「……ふっ!」


 豪快に傘を振り上げ、ぶんっという音と共に空気を斬る。


 その動きは、まるで大剣で敵を斬るかのようであった。


「……ん?」

「……」


 数回傘を振ったところで、フラーナは自身に向けられた視線に気がついた。


 左の庭の方を見ると、メイド服を着た少女がじっと見つめていた。


 腰には小さなバッグがついたベルトを付け、持ち運び式の黒板が収められている。


(この感じ、もしかして魔物か……? あいつ、何を考えているんだ……?)


 フラーナは少女の正体を、一目で魔物であると看破した。それだけの実力が、フラーナにはあった。


「……」


 少女はトテトテと近づいていき、バッグから黒板を取り出して何やら書き始めた。


 メイド服を着た魔物が黒板に何かを書いている。


 その光景に、フラーナは軽く頭を抱えた。頭の中は、疑問符でいっぱいである。


 やがて書き終わった少女は、手にしたそれをフラーナへと見せた。


『あなたは、誰?』


 丸みを帯びた綺麗な字で一言、そう書かれていた。


(これは、自己紹介を求められているのか……? まぁ、良いか……)


 困惑しつつも、フラーナは応じる事にした。


「私はフラーナ。この屋敷にいるラグナの友人だ」

『本当?』

「ああ、本当だとも。……それで、君の名前は?」

『リセ』

「そうか。良い名前だな」


 リセと目線を合わせる為にしゃがみ込み、黒板の文字と言葉を交わす。


 そうしていると、ようやくフラーナの目当ての人物が屋敷から出てきた。


「お待たせ、フラーナ! ……って、何してるの?」

「……何してるんだろうな」


 能天気に尋ねてくるラグナと目の前のリセを見比べ、フラーナはため息混じりにそう答えた。


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