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ローレライの奴隷少女を買った話  作者: しらゆき とうか
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ローレライ、見送りをする

「ふんふふん、ふふんふ〜ん♪」


 早朝。


 気持ちの良い朝日を浴びて目覚め、ベッドから出て鼻歌交じりに着替えを済ませる。


 貴族だからといって、使用人に服を着替えさせる…なんていう贅沢などウチには無い。


 何せ、ウチの使用人(メイド)はアリューシャ1人…、いや、今はローレライのリセを加えて2人か。それだけしかいない。


 当屋敷は人材不足なのである。まぁ、原因は金が無いだけなのだが。


 このオレ―――ラグナ・ヴィス・ハーヴェイ子爵は貧乏貴族。両親はすでに他界しており、当然ながら遺産なども無い。


 貴族の給金は国によって支給される。


 父の場合はロクな功績も残せず、貴族としての最低限の努めしか果たせていなかったが故、支給される額は常に最低限。来客のもてなし、仕事の為の費用、屋敷の維持費その他諸々を差し引くと、とても贅沢出来るだけの額など無い。


 貴族に安物の服や装飾品などは許されず、家名に傷をつける訳にもいかない。


 父は、そんなストレスを溜め込み続けてついに爆発。過労によって身体が悲鳴を上げ、病気に罹って他界した。


 母はそのショックから後追い自殺。朝、目が覚めたらすでにいなくなっていたのだから、止める隙すら無かった。


 そんな訳で、オレは当時齢10にして天涯孤独の身となった。


 国王陛下の温情によって、子爵の位は維持。今も給金は支給され、国や上級貴族たちの依頼をこなす事でどうにか現在の生活を維持している。


 とはいえ、そういった仕事はそう多くある訳でもない。


 なので、オレはずっと身体を鍛え、18歳に冒険者になった。貴族の仕事と冒険者の二足のブーツである。


 冒険者として稼いだお金は、一部は生活費プラス給金としてアリューシャに手渡し、残りは自分への小遣いに回している。


 先日リセの為に吹き飛ばした320万フロンも、オレ自身の貯めた小遣いから出した。


 そんな事情があり、ウチは子爵家でありながら財政はとても厳しく、使用人を雇う余裕など全く無い。


 その為、使用人は全員解雇したのだが、ある時出会ったアリューシャが新しく我が屋敷の専属使用人として働いてくれる事になり、現在に至る……。


 という訳だ。


「……よし」


 本日は貴族としての仕事は入っていないので、冒険者として活動する。


 鏡を見ながら身だしなみを整え、2年間愛用している青銅の剣を腰に差す。


 うむ、外見に問題は無いな。


 さぁ、今日も金を稼いでくるとしよう。






「ラグナ様」

「うあぁっ!」


 玄関前の扉に手を掛けたところで、後ろから声をかけられた。


 振り向くと、右手にサンドイッチが乗った皿を携えたアリューシャが立っていた。


「……アリューシャ。気配を消して背後に立たないでもらえるかな? 心底怖いんだけど……」

「申し訳ありません。性分なもので」

「あ、そう……」

「ところで、本日も冒険者ギルドへ向かわれるのでしょうか?」

「ああ、まあね。少しでも生活費を稼がな……もがっ」


 セリフの途中で、サンドイッチが口にねじ込まれた。


 ふわふわのパンと、甘酸っぱいイチゴジャムの風味が口いっぱいに広がり、絶妙なハーモニーを奏でていた……。


 って、今の言い回しは詩人ぽいかな? そんな事無いか。


「でしたら、まずは朝食を召し上がってください。身体が資本なんですから」

ふぉふぇんふぁふぁい(ごめんなさい)……」

「まったく……」


 ここまでずっと無表情を貫いているアリューシャだが、わずかな言葉のニュアンスから若干拗ねている様子を感じ取った。


 ちょっと悪い事しちゃったな……。


「ごめんごめん。次から気をつけるよ」

「そうしてください」


 ―――タタタタタ。


「ん?」


 足音が聞こえたと思ったら、廊下の奥からリセが走ってやって来た。


 黒板を抱えて急いで来たからか、服は寝巻きのまま、髪もボサボサのままだ。


「おはよう、リセ。もうちょっと寝てても良かったのに……」


 オレが言葉をかけると、リセは手にした黒板にカリカリと石筆を走らせ、書いた文字を見せてくれた。


『どこにいくの?』


 黒板には、綺麗だけどどこか丸みを帯びた字でそう書かれていた。


「冒険者ギルドだよ。これから仕事に行くんだ」

「……?」


 きょとんとした表情でじっと見つめるリセ。


 これは、全然理解してないという顔だ。


 なら、分かりやすく説明するとしよう。


「冒険者っていうのは、色んな人達のお願いを聞いて叶えたり、魔物を倒したりするお仕事だよ」

「!!!」


 説明聞いたリセは、黒板を頭に被せてその場にうずくまってしまった。


 多分、"魔物を倒す"というところに反応したのだと思われる。


「大丈夫だよ。リセには何もしないから」


 うずくまって震えるリセを、優しくぎゅっと抱きしめる。


「大丈夫だから、元気だして」

「…………(こくり)」


 どうにか分かってもらえたようで、リセは顔を上げてすっくと立ち上がった。


 そして黒板をボロ布で拭き取り、カカカッと文字を書き込んでいった。


『ごめんなさい』

「大丈夫大丈夫♪ 気にしないで」

「……(にこり)」


 優しく頭を撫でてあげるとリセは軽く微笑み、ぎゅっと抱きついてきた。


 くそぅ、可愛過ぎるっ!


「あぁもう、可愛いなぁ!」


 左手でリセを抱き、右手で頭を撫でる。


 リセも撫でられて嬉しいのか、とろけるような表情を浮かべながら身を預けてくれた。


 あぁ、この時間がずっと続けばいいのに……。


「こほん。……()()()()?」

「……!」


 瞬間、空気が凍りつくような感触を覚えた。


「そろそろギルドの方へ向かわれた方がよろしいのでは無いでしょうか?」


 冷ややかな声。


 心なしか、この空間だけ気温が下がったような気さえする。


「はは、は。もちろんだよ、すぐに行くとも。……という訳でリセ、そろそろ行くね?」


 名残惜しくもリセを降ろし、扉を開ける。


「それじゃ、行ってくる」

「はい。行ってらっしゃいませ」

『行ってらっしゃい!』


 いつも通りの無表情で頭を下げるアリューシャと、見送りの言葉を書いた黒板を見せながらブンブンと手を振ってくれるリセ。


 そんな2人に見送られながら、オレは冒険者ギルド(仕事場)へと向かった。



「さぁて、今日も頑張るぞー!」


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