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ローレライの奴隷少女を買った話  作者: しらゆき とうか
2/6

ローレライ、メイド服を着る

「バカか、お前は」

「申し訳ない……」


 オークション会場の受付でローレライの少女を引き取り、懐を凍てつかせながら冒険者ギルドへと報告に上がった。


 そこでオレは今、ギルドマスター直々にこっぴどく怒られている。


 ちなみに、購入した奴隷少女はオレの背中にピッタリと張り付いてプルプルと身を震わせていた。


「ラグナ……。お前、違法オークション会場の潜入調査中に奴隷を買う調査員がどこにいるってんだ?」

「ぐうの音も出ない正論……」

「はあ……。まぁ、軍資金を渡した俺にも少しは責任があるか……」


 ギルドマスターのバレンは、重いため息を吐いた。


「い、一応情報はメモにまとめたから、確認してもらえないか……?」

「今見てる。……一応やる事はやってくれたようだな」

「当然だ」

「威張るな」

「しゅん……」


 何も言えないので押し黙るオレ。


「で? その子はいくらで競り落としたんだ?」

「350万だ」

「は……?」

「350万フロンだ」

「俺が渡した軍資金は30万フロンだぞ。残りの320万はどこから出てきたんだ?」

「オレのポケットフロンだが?」


 あっけらかんと説明するオレに対し、バレンは頭を抱えた。


「……はぁ。確かに、()()()()()()()3()0()()()3()5()0()()()()()()()()

「そういう事」

「……もういい。お前と喋ってると胃が痛くなる。報告は受けたから、お前はもう帰って寝ろ」

「あいあいさー。そんじゃおつかれー。さぁ、一緒にお家へ帰ろうか」

「……(こくり)」


 椅子でぐったりとしているバレンを他所に、オレは奴隷の少女を連れてその場を後にした。




 ◆◆◆




「おかえりなさいませ、ラグナ様」

「ただいま、アリューシャ」


 空が茜色に染まる夕暮れ時。


 屋敷に戻ったオレたちを、メイドのアリューシャが迎えてくれた。


「そちらの子は?」

「ああ。この子は……って、まだ名前を聞いてなかったな……。冒険者ギルドの仕事中に保護した奴隷だよ」


 違法オークション会場で購入したとはとても言えないので、そのように誤魔化した。


「そうですか。まぁ、ラグナ様らしいですね」

「それでだ。とりあえずこの子の身だしなみを整えてくれ。メイドとしてこの屋敷に迎え入れる」

「かしこまりました」


 急な用件であるだろうに、アリューシャは顔色ひとつ変えずに了承してくれた。


 本当に、オレにはもったいない程のよく出来たメイドだな。






 着替えがてらに風呂に入った後、しばらくするとアリューシャがメイド服に着替えた奴隷の少女を連れてオレの部屋へと訪れてきた。


「おぉー……」

「……」


 見違えた。


 ボサボサだった金の短髪は眩く輝き、身だしなみをきっちりと整えられたメイド服の彼女は、それはもうとても素晴らしく似合っていた。


 どこかの上級貴族の屋敷に仕えていそうな雰囲気すら感じる程だ。


「さて、と」


 あまり見惚れていても仕方がない。


 話を進めるとしよう。


「まずは名前、かな。でも声が出せないんじゃ、知りようが……」


 オークションの受付でも彼女の名前は知らなかったし、かといって名無しというのもそれはそれで困る。


 どうしようか……と悩んでいると、少女は両手で小さく、何かを書くような動作をした。


「もしかして、文字、書けるの?」

「……(こくり)」


 なんと。


 この少女、文字が書けるらしい。


 ローレライというのは、セイレーンの亜種とも呼べる"魔物"の一種である。


 魔物には当然、文字を書く文化など無いはずなのだが、どうやら彼女には当てはまらないようだ。


 何にせよ、文字が書けるのなら好都合だ。正直助かる。


「えっと、確かこの辺に……」


 オレは部屋のクローゼットを開け、中を物色した。


「あぁ、こんなに散らかして……」


 後ろからアリューシャの嘆きが聞こえた気がするが、今はそれどころではない。


「……あ、あったあった」


 中から取り出したそれは、持ち運び式の黒板と石筆。


 庶民の勉強道具であり貴族が使うことは無いのだが、あいにくオレはそこらの貴族とは格が違う。


 庶民よりは上、上級貴族よりは下という、木っ端貴族の端くれである。


 よって、幼い頃はこの黒板をよく使っていた。


 ちなみに、これは今も現役で、主に新しいメイドを迎えた時に教育用として大事に置いてある。


 そんな黒板と石筆を少女に渡し、使い方を説明してあげる事にした。


「この石筆で文字を書く。用が済んだらこのボロ布で拭く。良い?」

「……(こくり)」

「よし。それじゃ、書いてごらん。まずは、君の名前からだ」


 オレがそう促すと、少女は言われた通りに黒板に文字を書き、それをパッと見せてくれた。


「"リセ"って言うんだね。可愛らしい名前だ」


 意外にも筆跡はとても滑らかで整っていて綺麗なのだが、ところどころに丸みを帯びていてとても可愛らしかった。


 っていうか達筆過ぎる! 本当に魔物なの、君?


「…………(赤面)」


 リセは黒板を頭に当ててうずくまっている。ちらりと見える耳が赤く染まっている所を見ると、どうやら照れているご様子。


 声が出せないのだから、その分少しでも感情を読み取れるように注意深く観察していかねばならないので気づけたが、これ結構大変だな……。


「よしよし。これからはその黒板でやり取りするから、常に持っておくように。このショートバッグもあげるから、腰に付けるようにね」

『分かりました』


 オレが指示を出すと、リセは黒板で文字を書いて返事をした。


 見た目の幼さもあって、必死に文字を書いてこちらに見せてくるその仕草がとても愛らしく見えるのだ。


 "了承"くらいは頷くだけでも良いよ? とはあえて言うまい。ムフフ。


「それと、明日から君はこの屋敷で働いてもらうからそのつもりで。それと、今日はもう疲れたでしょ? だから今日はこれで終わり。部屋でゆっくりと休んでちょうだい」

『はい』

「アリューシャ、後はお願いね」

「かしこまりました。……それと、ひとつ良いでしょうか?」

「何かな?」

「それ、片付けておいて下さいね?」


 アリューシャはそれだけを言い残し、リセを連れて部屋を出ていった。


「……アリューシャのやつ、いつからあんな性格になったんだろう……」


 オレはそっとしゃがみ、散らかった床の片付けを始めた。


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