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8 ネージュの移籍

そして、ここのビルの話しは、今から2ヶ月前にさかのぼる。

モデルラボの経理が失踪したことは、その頃から、業界のほんのごく一部に、情報が漏れはじめていたが、メディアにまで流れるほどではなかった。しかし、その情報をいち早くキャッチしていたフェレナの父である社長は、モデルラボが潰れれば、エリカルの人気にも影響して、自分の娘が完全トップになれるのだと確信して、モデルラボの状況をフェレナに伝えた。

「レナ、これで、モデルラボも、エリカルも、おしまいだ。今度こそ、お前が、完全に、一位になる日がきたんだぞ。」


すると、

「パパ、何言ってるの、よくきいてよ。そうなったら、フェレナは、エリカルの事務所が潰れなければ、一位をとれなかったって言われるのよ。むしろ、そんなことは、屈辱でしかないのよ。」

「なんだと、それは困るな。それなら、どうしたらいい?」

「そのためには、私とエリカルの条件ができるだけ揃えば、同じ条件の中で、1位になれば、もはやその違いは本人だけのことになって、本当の意味で一位になるのよ。だから、私が、事務所に入り、2人で同じ待遇なら、その時こそ、本当の1位の実力がわかるのよ。パパ、お願い。私が今の事務所から、モデルラボに移るのを許してね。」

「なんだと。こんなに、いい、大きな事務所に入れてやったのに、あえて小さな事務所に移るなんて、私は許さんぞ。」

「だけど、パパ、覚えてる?エリカルを陥れようとして、井山に言って衣装をかくしたりしたことを。あの時に、なんでも言う通りにするって言ったでしょう。だから、今回、事務所を移ることを許してちょうだい。」


「これが、そういうことなのか。それなら、仕方ないな。わかったよ。しかし、お前が、このままエリカルよりもいい事務所にいれば、1位になれたのは、エリカルよりもいい事務所だったからだと言われるかもしれないからな。」

「そうよ。わかってきたじゃない。だから、モデルラボに移るわよ。ただ、今度は、あそこは私にはスペースも設備も貧弱すぎて、そこになれているエリカルには勝てそうにないわ。」

「なんだ。それなら、どうしたらいい?」

「もっと大きな、それも賃貸じゃないビルを探して、モデルラボに移転させてよ。そこなら、私もゆったりとすごせて、活躍できそうだわ。」

「わかった。じゃあ、今に見てろよ。モデルラボの社長が、あっと驚くような、いいビルを見つけてやるからな。」

「よかった。私も、きっとそれなら、エリカルを抜ける日も近いと思う。」

「本当か!よし、必ずいいビルをみつけてやる。」


そして、ひと月待たずに、新しい5階建てのビルが見つかった。そして、レナにみせると、立地条件やビルそのものはいいが、内装が今ひとつ、フェレナ向きではないという。

「悪くないけど、もっとトレーニング室とか、シャワー室や、他にも色々と変えてほしいところがあるわ。」

そして、かなり設備を増やしたり、モデルが快適になんでもできるように内装を変えていった。

そして、いよいよコスメに、事務所に移籍のお願いと、事務所移転を伝えることができたのであった。

その後、事務所が新しいビルに移転したのは、賃料不払いのせいで、立ち退きを指定された、実に3日前だったのだ。



そして、新しい事務所で、荷物の整理をしていると、受付に誰かやってきた。

「誰かきたわよ、、、、わかった。私が出るわ。」

そう言うと、受付に走るコスメ、その後、全く声がしなくなり、おかしいと思って、続いて灯が受付に行くと、受付にきた経理の金堂と向かい合い、動けなくなっていたコスメがいた。すると、やっと、先に、口を開いた獅子童灯。

「こ、金堂さん、今さら、なぜここにきたの?な、なんとか言ったら、どう?私たち、今日までどんなに大変だったと思っているのよお。」

相変わらず、コスメは、口が開かない。そのことが痛いほどよくわかる灯は、コスメの代わりに、代弁をする。

「お子さんのことは、知ってるわ。お子さんの手術が無事に終わったから、来たんでしょう。お子さんさえ、助かれば金堂さんは逮捕されても、悔いはないものね。」


そこには、これまでに、こんなことがあったのである。

金堂が失踪して、今後のことについてコスメと獅子童は、改めて打ち合わせをした。

「とにかく、これからやることは、山積しているから、金堂さんのことは、仕事の合間に、カメラマンの蓮津さんにお願いしてさがしてもらいましょう。まあ、たぶん、お金はほぼ戻ってこないと思うけど。」

「そうね。コスメの言う通り。戻ってこないと思う。何か、どうしても必要なことがあったに違いないわ。」

カメラマンの蓮津は、コスメに頼まれて、金堂の行方を追う。

「もしもし、社長ですか。金堂さんは、自宅を、既に売却して、小さな家に引越していたのを突き止めました。」

ついに、金堂の居場所を突き止めたのである。

「よくやったわ。今、誰も家にはいないんでしょう。そうしたら、特に、顔を合わせたり、なんにもしないで、そのまま時々行って様子を報告してちょうだい。それで、もしも金堂さんが帰ったら、出かける時に尾行して、いったいどこで何をしているか報告してね。」

「わかりました。」

金堂は失踪と同時に、自宅を売却し、小さな一戸建ての家に家族で移り住んでいた。妻と2人の子供との4人家族であったが、自宅には3人で住んでいた。

蓮津は、翌日、金堂が戻るのを確認して、出かける際に尾行をし、ある大病院に夫婦で通っていたことを突き止めた。

そこで、さらに金堂の後をつけ、病室までこっそりと行き、病室での会話を聞いてしまう。


そこでの会話によると、金堂には、2人の子供がおり、小学生の末娘は病気で入院しており、特発性心筋症という病気で、心臓移植をしなければ、あと数年で死んでしまう。今は、手術待ちという状況であった。そして、その手術費用は、数億と言われた。さっそく、コスメに連絡をする蓮津。

「というわけで、今、病室で聞いた話しだと、自宅を売却しても、とても足りないから、事務所の金を横領していたのだと思います。」

「なるほど。そんな事情があったのね。わかったわ。とりあえず、もういいわ。どうせ、今、捕まえたところで、お金は戻らないでしょうし、子供のことがあるなら、そこからは逃げないでしょう。まずは、事務所がつぶれるのをなんとかする方が先よ。まずは、お金を借り入れなきゃ。」

それを、カメラマンから聞いたコスメは、そのことを、とりあえず不問として、金策に走る。しかし、どこからも借り入れはできず、事務所閉鎖まで、あと1週間と迫っていた。そして、フェレナのおかげで新事務所に移った矢先に、金堂が戻ってきたのだ。

「ここに戻ったということは、逮捕されにきたということなの?」

獅子童は、多少気持ちを抑えながら、金堂に問いた。すると、金堂は、ここにきて、初めて口を開いた。

「本当に申し訳ありません。娘がすぐに死んでしまうことを考えているうちに、もう、そのことしか考えられなくなって、とんでもないことをしてしまいました。これまで、お世話になってきたのに、本当に申し訳ありません。このまま、警察に連絡してもらってかまいません。私は、これで娘が助かることになったので、もう捕まってもけっこうです。」

すると、コスメが初めて口を開いた。

「金堂さん、悪いけど、今、私もスタッフも事務所のことで手一杯なのよ。他のことに、かまっている時間なんてないのよ。あとは、あなたが自分で勝手にやってちょうだい。」

そういうと、コスメは、獅子童と共に、事務所の中に戻っていった。金堂は、呆然として、泣きながら立ち尽くすしかなかった。



しかしながら、ほとんどのモデルは、退所してしまった。今、残されたモデルも、このまましばらく給料が、発生しないことになると、さらに減るかもしれない。ビルを移転して、とりあえず賃料が助かったとはいえ、さらに、事務所閉鎖の危機は、続いている。

ここで、コスメが考えたことは、とにかく、すぐにでも収入になる新規の仕事を探しながら、借り入れの道を探して、同時に、新規のモデルを増やすことであった。



すると、突然、受付に誰かが訪ねてきた。

「こんにちは。」

「誰かしら。」

ここしばらく、訪ねてくる人などいないのに、と思いながらでていく獅子童。

「こんにちは。お姉ちゃん、じゃなかった、エリカルはいますか。」

なんと、エリカルの妹のネージュが、訪ねてきた。

「あら、悪いけど、今はそれどころじゃないのよ。エリカルは、いるけど、今日のところは帰ってちょうだい。」

すると、向こうから、やってくるエリカル、

「灯、違うのよ、ちょっと待ってて。」

「どうしたの。今、そんな話しとかしてる場合じゃないでしょ。」

「違うのよ、今日は、妹は、ネージュは、プライベートじゃなくてきてくれたのよ。」

改めて、妹に話をさせたエリカル、

「そうなのよ。今日は、こちらに入らせて頂くためにお願いしにきました。」

なんと、事務所に入りたいと言うネージュ。

驚いた獅子童は、すぐにコスメを呼ぶ。

「ええっ、本当なの。ありがとう。今、あなたが入ってくれるなんて、本当にありがたいわ。」

驚いたコスメは、喜んで受け入れる。すると、ネージュは、コスメに、

「それから、他にも心当たりがあるので、連絡して頼んだから、近いうちに来てくれると思います。」

「そうなのね。本当に助かるわ。今は、1人でも人数を増やしたいから。」

その人の仕事のスケジュールの都合で、しばらく経ったが、事務所にやってくることが正式に決定した。

ネージュは、もう1人は、どんな人かとコスメに聞かれて、実は、もう1人の妹であることを明かしてしまう。すると、それを聞いていたエリカルは、

「ユキ、せっかく言わずに驚かそうとしたのに、なんでしゃべっちゃうのよ。あああー、サプライズにしようと思ったのに。」

と、ネージュに言うが、コスメは、

「あら、まだもう1人妹さんがいたの。いいじゃない、すぐにわかることだし、三姉妹で所属したら、ちょっと話題にもなるし、ちょっといいじゃない、美人の三姉妹モデルなんて、この事務所の新しいセールスポイントにもなるかもよ。」

と、ホッとした様子だ。


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