7 モデルラボの危機
モデル事務所モデルラボは、エリカルの活躍で、事務所としての知名度が上がり、所属モデルも増えてきた。モデルランキングは、相変わらず、フェレナと引き分ける同一1位は避けられないのは、残念だが、あちらでも同じことを思っているのだろう。
そんなある日、コスメが、
「獅子童さん、おはよう。金堂さんがまだ出社しないんだけど、なんか聞いてる?ちょっと金堂さんに電話してみてよ。」
「それが大変よ。今、かけたけど、現在使われておりません、って出たわよ。こんなの初めて。一体どうしたのかしら。」
「仕方ないわ。今日は、ちょっと獅子童さん、悪いけど、急ぎの事務処理だけ仕上げてくれないかな。」
「わかったわ。午後からでもいいかしら。」
「ありがとう。全然、大丈夫よ。」
自分の仕事を終えると、午後から事務処理をする獅子童。しかし、なんだか、おかしな点がいくつか目についた。
そして、次の日も、金堂は無断欠勤。
しかし、その後、経理担当の金堂は、出勤しないばかりか、一向に連絡もとれない。さすがにコスメも、困っていた。
すると、獅子童からコスメに、
「社長、ちょっと話しがあるんだけど、いいかしら。」
「いいけど、私もちょっと忙しいけど、急ぎの話し?」
「そうね。かなり、急いでるし、早くしないと、これからの事務所に関わることよ。」
「わかったわ。じゃあ、会議室に行きましょう。」
かなり真剣な眼差しの獅子童灯の表情に、少し嫌な予感がするコスメ。
「えーと、どこから話したらいいか、と思うんだけど、とにかく結論から言うと、1億5千万持ち逃げされたわ、金堂さんに。」
「えっ、えっ?どういうこと?うちの事務所には、そんなお金ないわよ。えっ?」
「そうよね。そうだったんだけど。今から、説明するわね。昨日、嫌な予感がして、銀行で最近の入金状況を調べたら、合計で1億以上入金があって、その数日後には、残金が数万円になっていたわ。」
「どういうこと?まだ意味がわからないわ。」
「実は、大変なことが起こっていて、今、所属しているモデルの仕事で毎月振り込まれるじゃない。それで、いつのまにかそれを各業社に連絡をして半年分を一括で前払いしてもらったらしいのよ。それで、いきなり1億以上振り込まれたわけ、それで全部引き出されたのよ。その前払いするように頼んだのが、金堂さんなのよ。お金を集めて、集まったら、引き出してから失踪したわけね。それで、これからだけど、いくら働いても半年間は入金がゼロで、事務所の家賃が払えないのと、これからかかる、モデルの衣装や経費はすべて払えないのが現状なのよ。」
「なんですって。事務所にある現金は、今いくらくらい残ってる?」
「200万くらいかな。」
「それだと、2か月分の事務所のテナントの支払いと経費ね。そして、その後、4ヶ月収入ゼロだと破産は間違いないわ。今日、新たな仕事を決めて、明日やって明後日入金なんて、モデルの仕事で、そんな日雇いみたいな仕事はありえないわ。どこかで借り入れをするしかないわ。それにしても、金堂さんは、なぜそんな億のお金が必要だったのかしら。普通の家のローンどころの金額じゃないわ。とにかく、灯、このことは、ほかのスタッフやモデルたちには内緒にしてちょうだいね。」
その後、何人かのモデルたちが、しばらく給料が貰えてないことから、事務所を退所したいと言い出したのである。もはや、あれから、2ヶ月がたとうとしており、あと2週間ほどで、現金が底をついてしまう。しかし、借り入れもできず、モデルが次々と辞めていることから、これまで前金で納めてもらった分を返さなくてはならなくなり、その上、テナント料の支払いもできず、事務所の存続も怪しくなってきたのだ。
とうとう、モデルがエリカルと、僅か数人となってしまい、前金で受け取った分の返金もあるし、その仕事を受けたモデルたちのキャンセル料もあり、あと1週間で、テナント料の支払い日が、やってくるが、もはや、もう打つ手がない。モデルが辞め始めた頃は、新しくモデルを増やすことも考えていたが、今となっては、多少モデルが増えたところで、事務所存続の解決にはとてもつながらない。
その支払いも、あと1週間に迫ったところで、なぜか事務所にフェレナから、連絡がきたのである。ぜひ、コスメと会いたいという。ここまできたら、あとは、とりあえず、返金分とキャンセル料は待ってもらうこととして、テナント料を払うことしか事務所存続の道がないと思ったコスメは、フェレナの父親が大企業の社長であることを思い出し、なんとか借り入れを頼んでみようかと、フェレナの指定する場所で会うことを約束する。そこには、獅子童灯とエリカルも同席することにして、3人でなんとか、この最後の切り札にかけてみることとした。
フェレナに指定された待ち合わせ場所は、とあるカフェであった。まずは、フェレナからの話しを聞き、そのあとで、3人で借り入れを頼むことにした。まずは、フェレナからの話しとは、
「今日は、色々と事務所が大変な時に呼び出してしまって、わざわざきてもらってごめんなさい。実は、社長さんに、お願いしたいことがあるのです。」
「そうだったの。私も、できる限りのことはしてあげたいのだけれど、今の私たちには、できることはほとんどないのよ。」
すると、フェレナは、にこっと笑いながら、
「大丈夫。今でもお願いできることがあるから、ぜひともお願いしたいのです。」
「まあ、それは、どういうことかしら。」
「実は、私をモデルラボに入れてほしいんです。」
聞いて驚く3人、しかし、すぐに、真顔になり、
「その申し出は、とてもうれしいのだけれど、実を言うと、あと1週間で事務所はなくなりそうなのよ。入れてあげることは、できないことはないのだけれど、これが1ヶ月以上前だったら、もう気持ちよくお返事してあげられたのだけれど。」
「では、ダメですか。」
「いいえ、このあと、1週間後には、どうなるかわからないけど、それでもいいの?それでもよければ、歓迎するわ。ありがとう。事務所のことを思ってくれているのね。」
「よかったわ。じゃあ、私は、今からモデルラボのモデルになったのね。よかったわ。」
その喜びようをみて、3人は思わず涙してしまう。
すると、次に、フェレナの口から、思わぬことが、
「それで、社長さん、もう一つ話しがあるの。悪いんだけど、私って、お嬢様なので、ちょっとわがままなのね。それで、あの事務所だとちょっと狭いというか、あの事務所より広くないとちょっと嫌なのよ。それで、私、他のビルに移ってほしいんです。」
「えっ、なにをいうの。」
コスメは驚き、次の言葉がでてこない。
「ちょっとだけ、場所を移動してもらってもいいかしら。ちょうどこのカフェの隣りに。」
言われるまま、一緒に移動する3人。
そこは、5階建ての新しいビルで、機能的にも、とてもよくできていた。
着いた途端に、フェレナは、
「今度、このビルを新しい事務所にしてほしいの。今度はテナントじゃなくて、賃貸じゃないから、賃料は発生しないわ。パパがね、私がモデルラボに移籍するって言ったら、じゃあ事務所を新しくしたらどうだろうって言うから、じゃあ、お願いって、このビルをもらったのよ。もう、次の月は、ここに移れば、賃料はいらないわ。」
これまでの事務所は、広いが、ワンフロアで、受付を含む事務をする部屋に、モデルたちの着替えの部屋と応接室に会議室という内容だったが、
今度は、ビルが丸ごと事務所になり、モデルたちの宿泊までできて、今後、自由に、このビルでもイベントができるほどである。
社長のコスメは、驚きと感謝で涙があふれている。
「ありがとう。でも、なぜ、そんなにまでしてくれるの?ありがたいけど、私には、なんのお返しもできないわ。」
すると、
「そんなに思わないで。これはあくまでも、私が事務所に入れてもらったことで、私のためにパパがしたことだから。」
フェレナと3人は、手と手をとり、しばらく涙が止まらなかった。