6 ネージュ登場
そして、再び、2人が頂点で活躍すると思っていたのだが、そんなに簡単なことでは、なかった。
モデルラボに、戻ってきたマネージャーの獅子童 灯。
「灯、どうだった。今回の業界関係の会議は。」
月に一度ある業界の会議。今回は、コスメが都合がつかず、マネージャーの獅子童 灯が出席した。
すると、彼女が出してきたのは、毎月のモデルランキング50人の載っている業界誌である。簡単に言えば、これには、全国のモデルの人気ベスト50人が載っているもので、たとえ50とはいっても、これに載るだけでも大したものなのである。その、今回の業界誌に興味深い思いがけないランキングがあったので、コスメに知らせにきたのである。
「どこどこ、見せてちょうだい。あっ、相変わらず、うちのエリカルがトップね。あっ、でも、フェレナが同一1位?またあ。2位がいなくて、次が3位で。」
「ちょっと、コスメ。今日は、そのことじゃなくて、いいから、もっと下を見てよ。えーと、18位の子。」
「どこどこ、18位は、ネージュ、っていう子ね。この人がなんだっていうの?」
「この子、これまで見たことある?」
「そういえば、名前だけは聞いたことがあるけど、ちょっとわからない。ちょっと、ネットで調べて、顔見たいわ。」
早速、パソコンで名前検索をすると、意外にも多くの企業名が出てきたのだった。
「あら、こんなに、色々な企業で起用されてるじゃない。ところで、写真は?」
すると、写真がモニターいっぱいに写った、
「この人ね。20歳すぎか、若いわね。えー、なかなか、綺麗な子ね。それにかわいいし、なかなかの逸材じゃないの、この子。いきなり、新人で18位というのも、すごいわね。」
「もちろん、ランキングもすごいんだけど、このランキングの、この子のところを、よくみてちょうだい。」
コスメは、まだ灯の言うことのポイントがわからないようである。
「コスメ、これは、ちょっと驚きのことなのよ。今、説明するから、よく聞いてね。まず、先月のこの、ランキングなんだけど、この50位以内に、この子の名前は、どこにもなかったの。」
「そうなの?ということは、いきなりのランクインが、18位ってことね。それは、すごいじゃない。」
「そう、ところがね。今回のこの子の名前の蘭を見てよ。」
「えっ。なんかおかしい?」
「ここのランキングの名前の横なんだけど、所属事務所名があるでしょう。」
「そうよね。それがなんなの?、、、、、ええっ!ウソでしょ!この子、所属事務所が書いてないじゃない。」
「ということは、どういうことかわかるでしょう。」
「ええっ!だって、事務所に所属してないってことは、フリーランスのモデルってことよね。つまり、自分自身で会社に売り込みに行って、自分で仕事をもらってきてるってことね。ええっ!それで、18位に、ランクインって、どういうことよ。すごすぎない!普通は、モデルと事務所が協力して、やっと仕事ってもらえるのよ、まあ、相当に売れてる、エリカルみたいな子は、特別だけど。それなのに、まだ新人の、この子は、自分でたくさんの仕事をもらってきて、ランキング18位ってこと。いったい、どうやってるのかしら。」
「やっとわかったわね。今はまだ、出たての新人でこのレベルよ。近いうちには、たちまちエリカルのライバルになってしまうわ、間違いない。」
「フェレナのことばかりを気にしてても仕方ないってことね。それにしても、自身の売り込み方とか、どんなことをして仕事をとっているのか、すごく気になるわ。きっと相当に、売り込み方が上手なのね、とにかく一度会ってみたいわ。」
「そうよ。売り込み方は、私たちよりも上手いかも知れないわ。」
その通り、2人の読みは、的中した。次の月のランキングでは、5位に食い込み、その次の月は、ついに3位になり、ほぼエリカルとフェレナと並んでしまったのである。
たちまち、メディアには、ネージュの顔写真や記事が増え始めている。これまでのモデルにはあまりない表情があふれているその顔には、一度見ただけで虜になってしまうような魅力があった。それに、同性にもその人気は高く、女子からのなりたい顔ランキングで2位に大差をつけて、一位を獲得した。そして、その快進撃は続いていた。
そんなある日、モデルラボに、突然、訪れる1人の女性がいた。
「すみません。モデルのエリカルに会いたいんですが。いますか?」
すると、たまたま、受付にいて対応したのは、受付係の、妻咲 瞳。
「はい。今、エリカルは、ちょっと出てまして、それに、申し訳ないですが、こちらにきてもモデルに直接会うことはできませんので、お帰り頂いてもいいですか。」
「えー、そうなんですか。でも、エリカルがこちらにくる日で、私がこられるの今日だけなんですよ。なんとか会わせてもらえませんか。」
すると、奥でそれを見ていた、獅子童が、驚いたようすで駆け寄ってきた。
「あ、あなた、モデルのネージュですよね。」
顔など、よく見ないで、話していた妻咲。それを聞いた妻咲は、えっ、と言いながら、よく顔を見直すと、
「ああっ、本当、あなた、ネージュね。どうしたの。突然、ここにきて。」
直接、生で見るネージュは、多くのモデルを見てきた灯にでさえ、圧倒的な綺麗さだった。
すると、タイミングよく、エリカルが戻ってきた。すると、灯は、
「ネージュ、エリカルは戻ってきたけど、会えないのよ。わかってね。」
ネージュは、エリカルをみるなり、満面の笑みで、叫んだ。
「お姉ちゃん、久しぶり、会いたかった!」
そう言うと、エリカルに抱きつくネージュ。
「もう、ユキったら、何の連絡もくれないんだから。」
それをみた、妻咲も灯も、スタッフも呆然として、言葉がでない。
「お姉ちゃん、怒ってる?」
「当たり前よ。モデルになりたくなったら、連絡くれるって言ったでしょ。あれから、音沙汰なしなんだから。」
「ごめんなさい。でも、デビューしても、会いに来てくれないから、きちゃったわよ。」
、と大喜びのネージュ。信じられないという表情で驚く灯。なんと、今、現在、モデル業界トップを争う2人は姉妹だったのだ。
驚く灯は、やっと口を開いた。
「エリカルとネージュが姉妹だったなんて。姉妹でトップモデルだなんて。」
目の前で2人を見た灯は、その美しさを改めて、目撃した。そして、これは、とんでもない姉妹だわ、と思ったのだった。
ある日、コスメがあわてて事務所に帰ってきた。
「コスメ、どうしたの、何かあった。」
「灯、それが、フランスのモデル ピエール・モローって知ってる?」
「ああっ、男性モデルでしょ。有名よね。すごい売れてるでしょ。」
「そうそう。それが、今度来日するのよ。」
「珍しいわね。フランスから滅多に出ないって聞くけど。」
「それが、国内最大のアパレルメーカー、ウニコロの世界へ発信する大プロジェクトで、男女1組のカップルでモデルを起用するんだけど、男子は、ピエール・モローに既に決定で、あとはピエールが女性の方の決定権を持っていて、彼が女性モデルを探してるってわけ。それで、なんと、うちのエリカルとフェレナをピエールが気に入って、来日したらしいのよ。」
「すごいじゃない。じゃ、もしも起用されたら、また一気に世界に顔を売り出せるチャンス到来ってことね。」
「今回の機会は見逃せないわ。なんとしても、勝ち取らなくちゃ。」
早速、社長とエリカルは、ピエールのウェルカムパーティーに招かれた。
「それにしても、招待客の人数がすごいわね。私も企業のパーティーに呼ばれることはあるけど、さすがウニコロね。大企業は違うわ。」
「それより、バイキングの料理がすごいわあ。」
「エリカル、残念だったわね。今日は、あなた着物だから、食事なしよ。かわいそうだけど、レンタルの着物汚されたらたまらないものね。その着物、買うと、8千万もするんだから、がまんしてね。だけど、あなた、その着物似合ってるわよ。いつもだって綺麗だけど、その3倍は綺麗よ。たぶん、ピエールはイチコロよ。」
「そのかわり、あとで着替えたら、夕飯食べさせてよね。」
「わかったわ。牛丼なら奢ってあげる。」
「えー、ケチー。」
と言いつつ、コスメはしっかり一人で、バイキングを食べるのであった。
「ところで、コスメ、じゃなかった、社長。今日、直接ピエールに会うのよね。フランス語は大丈夫?」
「それなら心配ないわ。ピエールには、いつも女性の通訳がついてるから。」
すると、遅れてやってきたピエールが周りに挨拶をしている。
「エリカル、きたわ、ピエールよ。行きましょう。」
エリカルを連れて、ピエールの本に駆け寄るコスメ。すると、ピエールの前で、別の人たちもちょうどやってきて。
よく見ると、フェレナと所属事務所の社長の2人と、ばったり。
「あら、フェレナ。」
「エリカル、やっぱり来てたのね。」
お互い、同時に、ピエールの前に来てしまい、互いに、どうしたものか固まってしまった。
すると、通訳に何か言っているピエール。
通訳は、
「はじめまして、私は、通訳を努めます鈴木と申します。宜しくお願い致します。今、ピエールは、はじめまして、お2人に同時に会えて嬉しいです、せっかくなので、お2人とも一緒にお話ししましょう、と言っています。」
「(2人同時に)ありがとうございます。宜しくお願い致します。」
2人は、初めて会うフランス人に、言葉の壁に戸惑い、次の一言が出てこない。すると、
「(通訳を通じて)お2人とも、緊張しなくていいですよ。こんなに綺麗なお2人に会えて、実は私も緊張してるんですよ。実際に見るお2人は、写真の何倍もお美しいです。日本人女性は、実に素晴らしい。また、その着物も素敵です。」
実は、2人とも着物姿できたので、ピエールの前で、互いに同じアピールでやられたと思い、余計に固まっていたのだった。
すると、
「(心の中で)フェレナったら、同じように着物を着てきたのね。フェレナの考えそうなことだわ。」
「(心の中で)私の着物姿で、ピエールを虜にしようと思ったのに、エリカルったら、同じことを考えて、よけいなことをしたわね。」
その後、通訳を介して、2人はピエールと話をしたが、着物の帯が締め付けて苦しかったのと、お腹がすきすぎて、話しに全然集中出来なかったので、2人ともどんなことを話したのかあまり覚えていない。
「やっと終わったわね、エリカル。」
「そうね、それはそうと、フェレナは、どうしてバイキング食べなかったの?私の着物は、8千万もしてレンタルだから、汚したらダメって言われたから、夕飯抜きって言われてたけど、フェレナの着物は、どうせパパが買ってくれたんでしょ。」
「そう、7,000万円で買ってもらったのよ。だけど、食事して汚したら、みっともないって言われたから、結局、夕飯は抜き。あなたと同じ。これで、起用されなかったら、バイキング食べておけばよかったとか思っちゃいそう。」
「私もよ、今日ばかりは、気が合うわね、珍しいわ。」
2人とも、着替えると、フェレナが、
「ねえ、エリカル、今日ね、あたし、夕飯ね、いいの紹介するから、一緒に来て。」
高丸駅で降りて、5分ほど歩く。
「えっ、ここなの?」
「そうよ。ここに、いいのがあるのよ。」
「だって、ここ、すきよし屋じゃない。牛丼のお店でしょう。私たちモデルが、牛丼ってまずいじゃない。」
すると、
「それが、大丈夫なのよ。とにかく、任せて。」
無理矢理、エリカルを引っ張って中に入るフェレナ。
「こんにちわあ。」
すると、お店の人が出てきた。
「いらっしゃーい。おおっ、久しぶり、フェレナ。おっ、今日は、お友達連れてきてくれたんだね。」
「そうよ、誰だと思う?」
「えっ、綺麗な人だなあ、モデルさん?えっ、えっ、ひょっとして、エリカル?」
「当たりいい!」
「えっ、ぼ、ぼく、大ファンなんです。」
「ええっ、あんた、あたしが初めて来た時は、そんなこと言わなかったわよね。どういうこと?あたしのファンじゃないの?」
「えっ、そうでしたっけ?たしか言ったような気がするような。エリカル、握手してもらっていいですか。」
「もちろん、よろこんで。」
にぎにぎっと、握手してもらう店員、
「あ、ありがとうございます。か、感激だあ!おおっ、もう今日は手を洗うのは、なしだ!」
「あんた、まさか、手を洗わないで、あたしたちのこれから作るの?」
ちょっとにらむフェレナ、
「え、えっ、だってさ。」
思い切り、困ってる店員、すると、エリカル、
「大丈夫、手を洗って。帰る時、もう一度、握手してあげるから。」
「わおっ、了解です。お、おっと、今日、握手、2回ゲットだあーっ!ラッキー!ところで、何、食べますう?」
「ダイエット牛丼よ。」
それを聞いて、思い切り驚くエリカル、
「何?ダイエット牛丼って?思い切り、矛盾したネーミングねえ!」
エリカルが驚くのも無理はない。これは、なんと、今流行りの大豆ミートと牛肉を使った低カロリー、高タンパクで、美味しくて身体にやさしい未来の牛丼なのです。
「そう、実は、牛肉は、少しだけで、あとは大豆ミートを使った低カロリー牛丼で、なんとカロリーは、普通の牛丼の10分の1なんです。」
「それで、ダイエット牛丼の何にします?」
「えっ、そんなに種類あるの?」
「そうなのよ、3種類から選べるのも人気の秘密なのよ。」
「そうですね、ちょっと話題になってますよね。ちょっとだけダイエット牛丼、もっとがんばるダイエット牛丼、モデル並みになりたいダイエット牛丼、の3種類ですね。」
すると、フェレナは、当然のように、
「まあ、あたし達は、モデル並みになりたいダイエット牛丼しかないじゃない。それに、味は同じに美味しいから問題ないけどね。ただ、値段が、600円、700円、800円だからね。あたし達は、800円。」
「じゃあ、モデル並みになりたいダイエット牛丼を2つでいいですか。」
「そうねえ。ほんとは、それに卵も2つつけたいんだけど、それじゃちょっと意味ないから、それだけでいいわ。あっ、でも、お味噌汁は2つつけてね。」
「了解です。注文入りました。モデダイ牛丼2に味噌汁2、入りました。」
2人は笑いながら、
「なにそれ、モテたい牛丼かと、思ったわよ。」
牛丼ができると、2人とも、熱いのを、ハフハフしながら、食べている。うれしそうに見ている店員。店員がうれしそうなのは、モデルの2人のせいなのか、美味しそうに食べているからなのかは、ちょっとわからない。でも、もしかしたら、その両方なのかもしれない。そして、食べ終わると、
もう一度、エリカル、店員と、にぎにぎっと、握手。目がハートになる店員。
「じゃあ、ごちそうさま。」
帰る2人、しかし、エリカルは、もう一度振り返って、
「やっぱり、注文が入ったら、手を洗ってね。」
2人は、満足げに帰っていった。
しかし、とにかく、ピエールは、2人にとても好印象だったという。
その後、コスメとエリカルは、どちらに決定するのかを心待ちにしていたが、なかなか返事がこない。
そんなある日、
コスメに他のモデルプロダクションから連絡が入った。電話に出るコスメ。
「えっ、本当ですか。わかりました。」
電話を切ると、
「エリカル、ウニコロの女性モデルの話しだけど、もう決まったらしいわよ。」
「ええっ、そうなの。残念だわ。フェレナには、やられたわ。」
もうモデルが決定したと聞き、残念がるコスメ。エリカルも、今回の大プロジェクトは逃したくなかったので、正直な気持ちといえば、とても悔しかった。それも、ライバルの、フェレナならなおさらである。
その数日後、たまたまショーの現場に着くと、なんと向こうにいるのは、フェレナ。あれ以来初めて会うので、どう接したらいいだろうかと考えた。やられたわね、とか、なんで、あなたが、などというのも、如何にもという感じだし、まちがっても、くやしいわ、とかはありえない。エリカルは、人間が小さい、とか思われたら、癪だし、ここは、大きくかまえていかにも、大したことない、って思わせるようじゃないと軽く見られるわ。
よし、決まったわ。エリカルは、自信を持って、こちらから、フェレナに近づいてゆく。すると、エリカルに気づく、フェレナ、
「あら、エリカル。」
ここで、先に何か言われてはいけない。先手必勝である。
「あら、フェレナ。今回は、ピエールの相手役、決定、おめでとう!」
そう言いながら、パチパチと拍手しながら、満面の笑みのエリカル。
しかし、ちょっと内心やりすぎたかも。
すると、思いもよらない、凹んだ顔のフェレナ、
「なに?いやがらせ?」
「えっ、そんな、とんでもないわ。私のライバルが、大プロジェクトに抜擢されて、喜んでいるのよ。」
「ウソばっかり。起用されたのが私だって本気で思ってる?」
「えええっ、ち、違うの?」
なんと、2人のうち、どちらでもなかったピエールの相手役。
「えっ、じゃ、じゃあ、いったい誰なのよ、それは。」
「私も、連絡がこないな、と思っていたら、パパがもっと待ちくたびれていたみたいで、自分で連絡して聞いてたわよ。そうしたら、もう決まりました、って言われた。結局は、私じゃなくて、ショックだったみたい。私も、エリカルにやられた、って思ったわよ。そうしたら、パパは、お前じゃなかったし、名前はよく覚えてないけど、エリカルって名前じゃなかったぞ、って言うじゃない。ウソよ、そんなわけないじゃない。それから、調べてみたの、そうしたら、ネージュっていう子だった。正直言って、私、あまりよく知らなくて、実は、業界のランキング50の業界誌も、パパがよくみていて、私にはみせてくれないんだけど、私のランキングをいつも気にしてて、私に、今回も一位だったぞ、とか言うだけなので、他のモデルのことはあまりよく知らなかったのよ。それで、その、ネージュという子のことを、改めて調べて、ここ数ヶ月の業界ランキング50をみていたら、今は私たちの次で3位じゃないの。それに、その前は、5位で、その前は18位 で、さらにその前の月は、なんとランクインしていない。ここ3ヶ月のうちに、全国3位になったのよ。とんでもない子ね。3ヶ月前には、ランクインすらされない子が、3ヶ月後には、業界トップモデルの頂点にいる2人のモデルを抜いて、フランス人モデルと共演する大プロジェクトに起用されたのよ。もう、本当にありえないでしょ。さすがに、くやしいとか言ってるレベルじゃないわ。」
まあ、長々としゃべり続けるフェレナ。ということは、よほどくやしかったのだろう。
「そうねえ、だけど、仕方ないわねえ。」
エリカルは、すんなりと、あきらめ顔。それをみて、なお、くやしさを募らせるフェレナ、
「えー、なに、そんなにかんたんに受け入れてるのよ。」
「いや、もう、仕方ないのよ。ネージュは、私の妹だから。」
「えっ、ウソでしょ。ネージュって、あなたの妹って!あなたとネージュが姉妹だなんて。」
すると、
「実はね、私たちの相手が、あの妹だったら、私たち2人は勝てるわけないのよ。男子相手にして、あの子に負けたなら、全然くやしくないわ。あの子は、男子に本気でアピールしたら、好きにならない男子はいないもの。昔から、よく知ってるのよ。それにあの子フランス語も話せるし、だいたい昔から、あの見た目だけじゃなくて、めちゃくちゃモテるのよ、あの子。一度、本気だしてあの子が微笑んだ顔、いつか機会があったら、見てごらんなさい。私たち同性が見てもキュンキュンくるわよ。男子なんて絶対にやられちゃう。」
「そんなにすごいの?ぜひ、一度会ってみたいわ。」
「本気で会いたいの?本気なら、会わせてあげるわよ。」
「もちろん本気よ、本気。なんか勉強になりそうだわ。」
「じゃ、ちょっと待ってて。」
おもむろに、スマホを取り出し、誰かに電話してるエリカル。
「あっ、もしもし、私。今、仕事?、うん、もう終わる?うん、そしたらね、中央駅の駅前のカフェわかる?ミラクルノバ、そう、じゃあ、待ってるから。じゃあね。あとで。」
電話を切りながら、
「フェレナ、今、ネージュ、うちの妹、来るって。ミラクルノバで、待ち合わせたから、行きましょう。」
「本当に?話し早いわねえ。」
2人は、カフェミラクルノバに着いて、ほどなくして、ネージュがやってくる、カラアン、カラン、という扉の鈴みたいな音、
「お姉ちゃん、ご無沙汰あ。あら、感激い、フェレナさんですよね。私、大好きなんですよ。」
「あ、ありがとう。」
「ところで、ユキ、ウニコロのピエールの相手役、受かったのね。いつのまに。」
「ありがとう。」
フェレナが興味津々であった、
そして、妹に聞くと、
「あら。私はてっきりお姉ちゃんに決まると思ってたわ。私は、ピエールと一緒に一度ご飯食べただけだもん。別に申し込んでないし。それなのに、帰る時に、君に決めたって言われちゃって。こんなに大きなプロジェクトの仕事なんて、ちょっとラッキーだったわ。うふふ。」
「ちょっとお、うふふ、じゃないわよ、ユキ。ピエールは、私たち、2人に会いたくて来日したのよ。そこに、横から勝手に入ってきたじゃない。わかってる?」
「ごめんなさい。でも、私、選ばれるなんて思わなかったから、気軽な気持ちでね。久しぶりにフランス語もしゃべって見たかったし。それに、私、お姉ちゃんたちほど、可愛くないから、まさかこんなふうになるなんて思わなかったのよ、ほんとよ。」
ああっ、でたわ。いつものユキの言いわけ。たくさんの女の子たちが、憧れてる男子をどうやって、好きになってもらえるか必死に競争している、真っ只中に、あとから、ユキがいきなりやってきて、その男子をあっという間に連れていってしまう。すると、あとで必ず、私、そんなつもりじゃなかった、って言うのよね。そう、いつもユキに全然そのつもりがないのは知ってる、知ってるけど、ユキが微笑んだら、その男子は、もうユキにゾッコンよ、そうしたら、他の女子は、もう誰も勝てないのよ、それをわかってよ。
というわけで、ちゃっかり2人は出し抜かれてしまったのでした、
これは、いつものこと、ああっ、全くもう、いつものこと!
そして、我に帰ると、その喫茶店の席の、周りの席の人たち、遠巻きにこちらをみている、ボソボソ言ってる。聞こえてるわよ、あんたたちの声。
「あれ、エリカルじゃない。いや、フェレナもいるぞ。えっ、こんなところで。ホンモノか。あれ、ネージュもいる。どうしたんだ、こんなところに、こんな3人が、、、。さすがに、きれいだなあ。ホンモノって、スゲェ、、、。写真撮らせてくれないかなあ。誰か頼まないか、、、。」等々。うーん、だけど、なぜだか、今日は、ぜんぜんうれしくない!フェレナ、もう、帰ろう!