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5 犯人は、だれっ!

そして、その後、数ヶ月が過ぎていき、エリカルも、正式にデビューして、活躍を始めていた。エリカルが、カジュアルなファッションで人気を集めている、ウニコロとの契約を結び、若い世代に絶賛される中、一方では、ここ最近、評判の化粧品会社、ポーセーとの契約を結び、俄然人気が鰻上り。片方が、メイク系で出てくれば、片方は、ファッション系でアピールするフェレナ、また、片方が、化粧品であっても、透明系のアピールに出てくれば、もう片方は、清楚系のアピールに出てくる。どちらも、劣らずという感じで、まさにモデル業界の両横綱という感じである。


2人とも、他の多くのモデルを遥か下に抑えて、売れっ子となっているので、やはり互いの事務所関係者も、ここまできたら、自分の担当モデルが頭一つ上に行きたいというところが正直な気持ちなのである。もっともそうなれば、業界トップになれるのである。しかし、互いに、どちらが、より優れているかというよりも、エリカルは、白、フェレナは、黒、というイメージで、その良さは比べられない。頂点に肩を並べて評判の良い2人を、両者の事務所は煮え切らない気持ちであった。


そんなある日のこと、ある現場で準備の最中であった。


「あらっ、私の衣装がないわ。おかしいわ。さっきまであったのに。」

エリカルの衣装が突然、消えてしまったのだ。

ちょうど、同じ現場にいた、フェレナも気がつけば、舞台用のサンダルが見当たらない。

「私のサンダルもなくなってる。」


ランウェイの直前に着替える、エリカルの衣装が消えてしまった。探せばみつかると思ったが、あまりに直前のことで、探している時間もない。この時は、たまたま、別の衣装の用意があったので、なんとか乗り切った。


そして、それは、エリカルだけではなく、フェレナにも紛失事件が起こり、この頂点にいる2人共に降りかかってきたのである。誰かが2人の仕事の邪魔をしていることは、明白であった。

しかし、フェレナは、そのトラブルの内容に疑問を持っていた。何故なら、フェレナのなくなったものは、直前に見つかって、実際には仕事に影響はなかったからなのである。


すると、フェレナは、考えてみた。自分とエリカルの衣装がなくなっているが、自分のは、必ず開幕前には、見つかっている。ということは、実は、自分のものは、わざとみつかりやすくしているのではないのだろうか。ということは、犯人は、私の知っている人ではないか。とにかく、この控え室には、盗撮防止のために、防犯カメラは設置できないのだ。犯人は、そのことを知っていて、やっているに違いない。


それなら、あくまでも、エリカルにターゲットを絞っている。それなら、私たちのバッグにカメラを仕掛けることにしよう。


そして、次の日、フェレナは、少し早めに控え室に入り、バッグをエリカルの着替えるあたりに向けて、バッグの中に小型カメラを仕掛けた。すると、またもや、フェレナとエリカルの衣装がなくなってしまった。

しかし、いつものように、フェレナは、自分のだけは難なく見つけられたのだが、エリカルのものは、どこまでもみつけられず、結局、予備に用意しておいた衣装を着て出場したのである。


しかし、今回は、ビデオカメラをしかけたので、仕事が終わったあとで、早速、カメラを再生して確認をしようとすると、やはり犯人は映っていた。それは、なんと同期でよく現場が一緒になる、モデルのエメラであった。彼女は、フェレナとエリカルの人気を確かに羨んでいることはたしかだが、ただ2人とは仲はいいので、2人とも驚いたのだが、一応本人に聞いてみるしかなかった。


すると、

「ええっ、私が、どうしてそんなことをするの?2人とは、仲良しなのに、どうして疑うの?」

決して、絶対にやっていないとか、自分は知らないの一点張り。録画映像をみせても、全く知らないと言い、きっと、この映像は自分を陥れるために、誰かに作られたものではないかとまで言いだして、決して認めなかったのです。

2人も、彼女がこんなことをするはずがないとは思ったが、それなら、ビデオ映像が示したものは、いったいなんだったのか、全く理解できないでいた。

しかし、とりあえず、犯人はわかったので、2人は、しばらく様子を見ることにした。


そして、数ヶ月がすぎて、もう2人は、そのことをすっかり忘れていた。ところが、ある日、突然に、再びエリカルの靴がなくなってしまう。そして、その日から、エリカルの、ある時は衣装が、またある時は帽子が、またある時は、そのランウェイを歩く時に必要なものがなくなっていく。それに、エリカルの仕事場が毎日異なる時でも、犯人は、その仕事先まで調べ、そこでエリカルのものを奪っていった。そこで、これまでと同じように、エリカルが小型カメラをしこむことにするが、なぜだかカメラも、設置した場所が必ず暴かれてメモリーカードが抜き取られてしまうのです。そして、これまでは、フェレナの側が疑われないように、フェレナのものも狙われているように擬装されていたようだが、もはや、完全にエリカルのものだけを狙っていた。しかし、今度は、小型カメラまでもやられてしまっては、とても犯人を捕まえようがないのだ。仕事場の場所は、どこまでも突き止められてしまい、どこまでも追ってくる犯人。すでに、10箇所以上で、現場でランウェイで支障をきたし、関係者からもしばらく休暇を取ることなどを勧められる始末であった。


これを見かねたフェレナは、エリカルが着替え終わるまで、自分が控え室の入り口近くで隠れて見張っているから、犯人がいれば、必ず衣装を持って出て行くはずなので、その時に捕まえてみせる、という。

そして、舞台も開演が近づき、今回は誰も怪しげな人は見られなかったので、控え室に戻るフェレナ。すると、またもや、靴がなくなってしまったと言うエリカル。

そこで、念の為、仕掛けておいたカメラを再生するフェレナ。しかし、なぜか、またもやメモリーカードが抜き取られていた。


しかし、フェレナは、1つだけ確信したことがあった。衣装が隠されていたこととメモリーカードが抜かれていたことは、紛れもない事実なので、短時間のうちに犯行が行われたことには間違いないので、犯行時間は、ほんの1時間のうちであるし、犯人はその短時間のうちに出入りをしていた限られた人数の中であることは間違いないということなのだ。


そして、今度は、窓の外から中を見張ることにした。すると、今度は、しばらく犯人は現れない。そして、何も盗られることはなかったのである。


すると、エリカルは、

「ねえ、フェレナ。きっと、もう犯人は、あきらめたんじゃない。これだけ、何も起こらないのだから、きっともう大丈夫よ。」

「そうね。もう窓からあなたが着替えるのを確認してたら、盗られることは、一度もなかったわね。もうやめてもいいかもね。でも、どうしてやめたのかしら。」

そして、後日のこと、ある仕事でエリカルとフェレナは、一緒になった。すると、

「エリカル、私、ちょっと車に忘れ物しちゃって取りにいってくるわね。」

「わかったわ。」

出ていくフェレナ。しかし、思い出したように、

「あっ。なんだ。バッグに入ってたの思い出したわ。もう、すぐ忘れちゃうんだから、私ったら。」

控え室に戻りながら、窓から中を見ながら、

「ああ、エリカル、もう着替えてるのね。」

すると、エリカルは、着替えずに、その衣装をたたんで手に取り、急いで控え室を出ていく。驚くフェレナ。気づかれないように隠れて、あとをつけるフェレナ。


と、ここで、約半年ほど前のこと。会社の社長室にて、レナの父は、モデルランキング50を見ている。

「またもや、今回も、あのエリカルと、うちの娘が、同一1位なんだ。あのエリカルとかいう娘も確かに綺麗だとは思うが、うちの娘の方が絶対に遥かに綺麗だと思うんだ。1番は、うちの娘だけなんだ、なあ、井山。」

「いやあ、ほんとう、その通りですよ。お嬢さまより、綺麗な子なんていないですよ。ほんとうに皆、見る目がないですね。」

「そうだよな、本当にそうだ。」

運転手の井山は、レナこそ、ほんとうに美人で、モデルとしてトップであることは間違いないと思っていた。

「その通りだよ、井山。あの、エリカルさえいなかったらなあ。エリカルがデビューする前は、ダントツで娘が1位だったのに、なんでこんなタイミングででてきたんだ。ランウェイの前に、衣装でもかくしてしまいたい気持ちだよ、そうすれば、出られなくなるだろ、そんなことまで考えてしまうんだ、娘のことを思うと。」

「いやあ、社長の気持ちは、痛いほどわかりますよ。私もできれば、そうしたい気持ちです。」

「井山、お前もレナのことをほんとうに評価してくれているんだなあ、うれしいよ。」


そして、自分は、本気でエリカルの衣装をかくしてしまい、その日、ランウェイに出られなくなれば、仕事に穴をあけてしまい、評価が下がっていくんじゃないか、そして、お嬢さまが1位になる、なんて少し現実味を帯びた妄想をするのでした。そんな頃、たまたま、10年来の知り合いと会うこととなる。その知り合いとは、学生時代の同級生である佐藤。ところが、今では、仕事も少なく、生活はギリギリであった。そんな愚痴を聞きながら、井山と2人、居酒屋で飲んでいた。井山も酔ったいきおいで、社長の娘のレナがエリカルのせいで1位がとれないと、愚痴をこぼしていた。すると、その、衣装を隠して人気を下げるという妄想を聞いて、それ、おもしろそうだね、ほんとにやってみないか、と佐藤に誘われる。しかし、そんなことをしたら、すぐに見つかるよ、と反対する井山。すると、そんなことないよ、もし本気でやりたいなら、自分に任せてくれよ、僕なら、完璧にやってみせるよ。


そして、その後、エリカルの衣装や靴などがかくされて、ランウェイを歩くことができないことが何度か続き、少しエリカルの評判に再び少し陰りがでてきた。それを知った井山は、正直言って、うれしかった。すると、犯人のモデルのエメラは、何回目かに、隠しカメラで撮影されて、捕まってしまった。その時は、


「どうだい、井山。エリカルの衣装をかくすの上手くいっただろう。まあ、こないだは、自分が仕組んだモデルは捕まってしまったけど、誰から頼まれたかは、絶対にわからない。僕のことを知らないから、絶対に名前を出すことはできないからね。」

「しかし、佐藤、お前、ぜんぜん腕前は衰えていないな。本当に大したものだよ。」

「井山は、このことだけは、褒めてくれるんだな。まあ、でも、うれしいよ。僕に得意なことは、これくらいしかないからね。」

「とんでもないさ。すごい才能だよ。誰もできないからな。俺さ、君に個人的にポケットマネーで礼をするよ。」

しかし、その後、その警戒は強まって、エリカルは、再び小型カメラを設置することがあって、なかなか実行できない。エリカルと同じ控え室に入るモデルなら、誰にでも衣装を隠させることはできるのだが、カメラがある限り、それは難しい。先にカメラをみつけて、それから撤去するなど、そんな時間のかかることなど、やりようがないのであった。

しかし、ある時のこと、

「井山、ちょっと聞いてほしいんだ。実は、こんどこそ、カメラを確実に簡単に探せる人物と、エリカルのものを隠しても絶対にバレない人物を考みつけたぞ。」

「ええっ、それは誰なんだ?それに、そのために2人必要なのは、なかなか難しいだろう。」

「それなら、大丈夫さ。僕に任せてくれ。さて、再開するぞ。」

その後、佐藤が仕組んだ通り、毎回のように、現場でエリカルのものがなくなって、カメラも確実にメモリーカードは抜き取られてしまい、エリカルのランウェイの出場は、中止が続いた。エリカルがどんなに気をつけていても、全く手も足も出なかった。


そして、フェレナの発案で、窓から中のエリカルを着替えが終わるまで見張る日が何日か続き、その後は何も起こらなかった。


ところが、ある日、車に忘れ物をして取りに行くフェレナ。

「あっ、あたしったら、忘れたと思ってたら、そうよ、バッグに入れてたの思い出したわ。もう、おっちょこちょいね、あたしったら。」

思い出して、すぐに戻るフェレナ。外から窓を見ると、着替えるエリカルが見える。

「ああ、よかったわ。もう着替えるのね。」

ところが、着替えるかと思いきや、エリカルは、自分の衣装をたたんで脇に抱え、急いで控え室からでていく。

驚くフェレナ。気づかれないように隠れて、あとをつけるフェレナ。すると、エリカルは、それを廃棄処理口へ投げ入れたのだった。


「エリカル、何をするの!」


ええっ、全く聞いていない!

「エリカル!エリカルったら!」

その表情は、固まっていて、全くの無表情である。

「エリカルうーっ!」

フェレナは、泣きながら、駆け寄り、手で思わず、エリカルの頬をたたいた。

すると、はっ、という、我に返った顔に。

「はっ、あらっ、私、何をしていたのかしら?」

「エリカル!エリカルうーっ!」

エリカルに抱きついて号泣するフェレナ。

「どうしたの、フェレナ、ねえ、どうしたの。」

やっと、落ち着きを取り戻したフェレナ、

「エリカル。あなた、どうしたの。自分で何をしたかわかっているの。」

あまりの驚きに、固まるエリカル。

「あなた、今、自分のしたこと、わかってるの。あなた、自分で今日の衣装を今、持ち出して廃棄口に捨てたのよ。」

「え、ええっ、私がそんなことを?全く覚えてないわ。」

「でも、たしかに、自分から捨てにいってたわよ。」

「怖いわ。何が起こったの?」

「私にも、わからない。ただ、あなたが無意識のうちに自分の衣装とかを捨てにいくように、誰かに仕組まれたのだと思う。だから、いくら探しても犯人がわからないわけよ。あなた、さっき私が忘れ物を取りに行って、すぐに戻らないのを知ってたから、今日は犯行を起こそうとしたのよね。ここ最近では、私が見張ってるのを知ってるから、やらなかったのだわ。朝、ここにくる前に、たぶんエリカルは何かされたのだわ。調べてみないと。」


次の日、家から出かけるエリカル。それを遠くから見張るフェレナ。すると、見知らぬ男性が、エリカルに話しかけている。

「お嬢さん。おはよう。私の目を見て下さいね。そう、じっと、私の目をみてごらん。そう、じっと、みて。そう、そうすると、私の言う通りにしたくなるよ、そう、そう、。もう、これから言うことを、その通りにしたくなります、、、、、。」

フェレナは、確信した。

「あれは、催眠術だわ、間違いない。催眠術なら、言われた通りに行動するし、やったことは覚えてない。まさか、本人を犯人にするなんて、考えたわね。」

「そう、あなたは、今日、仕事で控え室に行くと、フェレナとその他の人に見られていないことが、確認できたら、まず隠しカメラを、あなたたちが仕掛けていたなら、まず、最初に、メモリーカードを抜いてしまいます。そうです。そして、あなたが、これから、ランウェイで使う衣装や靴でもなんでもいいです。回りに気づかれないように、1つ廃棄処理口に捨てにいきますよ。とても大事なものを、1つ、廃棄処理口に捨てにいきます。捨てにいきますよ。そして、控え室に戻ったら、もう、そのことは、一切忘れてしまいます。そして、今、私が3つ数えて、指を鳴らしたら、私のことをすっかり忘れてしまいます。いいですね。それでは、1、2、3、」

「パチン!」

「はっ」

目覚めるエリカル。きょとん、としていて、何がある起きたのかわからない様子。そして、ゆっくりと去っていこうとする催眠術師。すると、フェレナは、すぐに追いかけてゆく。

「あなた、待ちなさい!」

振り返ると、フェレナに気づいて、一気に、全力で走りだす催眠術師。フェレナは、走り出すと、あっという間に追いついて、足払いをする。転倒する催眠術師。馬乗りになるフェレナ。

「陸上では全国大会1位になった、韋駄天レナの異名をとった私に、勝とうなんて百年早いわ。もう、あきらめなさい。」

すると、

「か、勘弁してください。」

「絶対に、許さないわよ!」


レナの自宅にて、大会社の社長である、レナの父が帰宅すると、フェレナこと、レナが待っていた。

「ただいま、おう、レナ、今日は、帰るの早いな。それにしても、どうしたんだい。そんな怖い顔して。」

「パパ、運転手の井山を呼んできて。」

「えっ、井山か、今、ここにくるぞ。」

井山、佐藤と登場。

「井山、お疲れ様。おっ、これは誰だい。」

すると、フェレナが、

「パパ、井山がこの人と組んで、エリカルの衣装を隠してたのよ。」

「なんだと。ほんとなのか、井山。」

すると、佐藤から、

「社長さん、私は佐藤と申します。井山は、悪くないんです。ぜんぶ自分が1人でやったことなんです。」

「社長、最初に言い出したのは、この井山です。本当にご迷惑をおかけしました。エリカルさんにも、申し訳なかったです。」

「どっちの言うことが正しいのかは、わからないが、2人ともからんでいたことはたしかなんだな。」

「社長、実は、私が久しぶりに会った友人の佐藤にエリカルの衣装をかくせたらいいのにと言ったら、やってくれたんです。私が言ったばっかりに。」

「それで、本人のエリカルは、どうしたんだ。ここに、来ていないのか。」

「エリカルよね。それが、もうやらなければ、別にゆるすわ、って言って、帰っちゃったのよ。」

「なんだ。お人よしだなぁ。そんなに簡単にすませるなんてなあ。」

「じゃあ、2人で警察に行きますよ。」

「まてよ、被害者が、もうゆるすって言うなら、もうそれで終わりだぞ。第三者のおれが警察につれていくことなんてできないよ。だけど、2人とも、このまま終わらせるわけにもいかないぞ。」

そして、社長は、何があったのか、詳しく説明してほしいという。 


すると、佐藤は、今までの自分のことを語り出した。フルネームを佐藤塩太郎といい、父親が、佐藤と砂糖をかけて、面白がってつけた名前。この名前のせいで昔からよくイジメにあったという。しかし、その後、テレビで催眠術をかけるのをみて、自分もやってみたいと思い、皆を見返してやりたいと思い、必死に勉強して、催眠術の第一人者となったが、いわゆるエンタメ系の仕事だけでは、結局、需要がなく、テレビにも呼ばれなくなってしまい、生活も苦しくなっていた。そんな頃に、久しぶりに井山と再会したのだった。


そして、佐藤は、生活が苦しいことを愚痴って、井山は、フェレナがエリカルのせいで1番を取れないと愚痴っていた。それなら、同じ控え室に来るモデルに催眠術をかけて衣装を隠させようと、佐藤がアイデアを出した。井山は、そんなにうまくいくわけないと言ったのだが、作戦は毎回成功する。外から控え室に入るモデルに催眠術をかけて、毎回衣装を隠させたのだった。それも毎回、違うモデルにやらせて、文字通り、隠したあとは、すっかりやったことも佐藤と会ったことも忘れてしまうので、絶対に犯人を特定できるはずはなかった。しかし、フェレナたちに、こっそりカメラを仕掛けられてしまったので、モデルは捕まってしまった。これから、もし再開するのであれば、カメラの撤去と衣装を隠すことを同時に、それもあっという間にやらなければならない。しかし、そんなことができる人物はありえない。もはや、このことは、やめるしかないと、井山もあきらめていた。


しかし、佐藤は、カメラの場所を絶対に知っていて、衣装を隠すことができる人物を特定した。それこそが、エリカル本人だったのである。彼女以外に、実行できる人はいないし、あとからすべて忘れてしまうのだから、これほどの適任者はいない。それに、佐藤の催眠術の凄腕ならば、人と対面したばかりで、わずか数秒のうちに、術中に陥れられてしまう。これを聞いて、社長は、本当にもったいないことだと思った。

「まずは、井山、だが、エリカルの衣装をかくすことについては、私もその発言をしていた。君たちを責めることはできない。元々、私が、最初に言い出したことだからな。そこのタイミングで、佐藤さんとの再会をした井山は運が悪かったのだ。だから、僕も佐藤さんを責められないよ。

だから、今回のことは、もうこれでなかったことにしてもいいと思う。君たちも反省をしているし、何よりも、被害者のエリカルが、ゆるしてくれているのだから。かといって、私たちは、もっと心から反省しないといけないけどな。」

すると、レナから、

「だったら、パパも悪かったのだから、井山はこのまま辞めさせないであげて。」

「ああっ、そのつもりだ。それから、今、思いついたんだが、知り合いの大病院で、佐藤さんを雇ってもらえるかもしれないぞ。ヒプノセラピーといって、催眠療法をする科があるし、君なら、事故や恐怖体験などの記憶を消したりすることができるそうじゃないか。それは、事故とかの精神的なショックを受けた人たちを救うことができるかもしれないよ。しっかりやってくれるなら、紹介するよ。」

「本当ですか。ありがとうございます。でも、いいんですか。本当なら、逮捕という展開が、そんなことをして頂いてしまって。」

「まあ、今回は、ここにいる3人をエリカルがゆるしてもらったから、やり直すということで、解決としよう。私も反省しているよ。」

「パパ、私はゆるしていないからね。いつか、1つ、私の願いを聞いてもらいますからね、いいわね。忘れないでいてね。」


「わ、わかったよ。忘れないよ。」


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