【WEB版本編】第六話 「え?」
「え?」
ウィプケ嬢がきょとんと眼を丸くされます。
「腕が動かない?喋ることができない……?」
ギード殿下が首をかしげました。
「マルレーネ嬢が父君であるエイラウス侯爵を伴い、この私、学園長の元へとやって来たのはもう半年も前のことになるね。何者かによって呪いがかけられ、手は動かなくなり、話すことも出来なくなった。それでも学びたいという意思があるから、迷惑はかけるが学園に通わせてくれと……。いいか、半年も、前だよ」
わたしはエードゥアルト学園長の言葉に小さく頷きます。
「マルレーネ嬢の同級の者たちからの訴えもあってね。ここしばらく、お前たちの様子も窺っていたんだよ。マルレーネ嬢の有責にて婚約破棄を狙い、男爵家の娘に過ぎない女を第二王子の妃に召し上げる……。そのための工作をな。お前たちがしでかしたことは既に兄に……、国王陛下に報告を差し上げているよ」
「なっ!叔父上っ!」
エードゥアルトは殿下方だけではなく、ぐるりと周囲を見渡しました。
「皆にも聞いてもらおう。正式な公表は後日、国王陛下からなされるが、第二王子ギード・ヴォルデマール・ゲープハルトとマルレーネ・ベネディクタ・エイラウス侯爵令嬢との婚約は解消となる。そして、ギード、お前は王位継承権を失い、ウィプケ嬢の男爵家で過ごすこととなる。嬉しいだろうギード。愛する女との婚姻が許されたのだから」
「王位継承権を失い……って、しかも男爵家で暮らす?じょ、冗談でしょう叔父上っ!」
「それが冗談ではないのだよ。ああ、そうだ。ウィプケ嬢には兄君が居て、既に家督はその兄君が継いでいるそうだね。だから、ギードが男爵としての地位を得るわけではないよ。男爵の妹であるウィプケ嬢の夫で、つまり地位はない。単なる居候だな。ああ、一応迷惑料とギードの生活費としていくらかの金は、ウィプケ嬢の兄君に渡してある。だから、二人で養ってもらうがいい。それが嫌なら文官試験なり、騎士試験なりを受けて、そちらで身を立てるがいい。試験は平民だろうと貴族だろうと平等に受けることができる。能力さえ示せれば、出世も出来るだろう。まあ、王族の後見はないがな」
「そ、そんな馬鹿な……。俺が居なければ、王位は……」
「第一王子のエルネストが王太子となっているし、王太子妃のエリーゼ嬢は現在妊娠中だ。来年には新たな命が誕生し、王太子の予備としての第二王子も不要となるだろう。万が一、王太子と王太子妃に何かあったとしても、国王陛下には兄弟がたくさんいるので王位継承権を持つ者は多い。私はとっくにその権利は放棄しているが……。まあそれはともかく、ギード一人が王族から放逐されたところで、我が国が困ることはない」
王位継承権をお持ちの方……ものすごーくいっぱいいらっしゃいますものねぇ。国王陛下のご兄弟はたくさんいらっしゃるので、公爵としてどこぞの領地を割譲していただくのも限度があり……。そんなこんなでエードゥアルト学園長が王位継承権を捨て魔道の研究に突き進むと公言された時には、お祝いとして、学園長の身分を賜った……とか、そんな噂もありましたし。
ギード殿下は王太子の予備としての第二王子だったのですが。優秀であればともかく、こんな公衆の面前で婚約破棄をやらかす者など王家には不要でしょう。
「ああ、ちなみに、ギード。お前の荷物はもう王宮からウィプケ嬢の実家の方へと移動済みだそうだ。王城にお前の部屋はない」
がっくりと、ギード殿下が項垂れます。
エードゥアルト学園長はパンパンと手を打って、警備の者を呼び寄せました。
「この二人は邪魔だからね。馬車にでも乗せて。とっととウィプケ嬢の実家に送るように」
ずるずると引きずられていくギード殿下とウィプケ嬢を、エードゥアルト学園長がひらひらと手を振りながら見送っております。
……えっと、わたしの知らないところで、何故だかエードゥアルト学園長が動いてくださって、知らない間にギード殿下とわたしの婚約が解消になっていた……。しかもギード殿下はヒロイン・ウィプケ嬢の男爵家でお世話になる……。
あらら。せっかくがんばって書いたノートは無駄になってしまいましたわね。ま、いいのですが……。
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次回最終回です。