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【 番外編3 国王ユストゥスの話 】

聞いた話なんだけどさ、神様に祈りを捧げる時は、自分の名前とか、どこの誰で、どこに住んでいるとか、そういうことをきちんと告げてから、願いを言うべきなんだって。


ほら、神様って、毎日大量の人間から色んな願い事をされるでしょ。ちゃんと自己紹介から入らないと、この願いは誰の願いだったかな……って、神様も混乱するらしいよ。で、まちがえて別の人の願いを、叶えちゃう時もあるんだって。


ま、つまり、自己紹介は大事って話なのかもしれないけど。


うーん、俺の場合の自己紹介ねえ。


弟たちとか、結構人数多いほうだからなあ。一気に言って、神様大丈夫かなあ……? 


とりあえず、詳しい説明は後にして、まとめて言えば、俺は十一人きょうだいの一番上のおにーちゃん。


母親は一人。


あと……父親って名称の愚物には側室の方が三人。


俺の大事な妻は一人。妻との間に子どもは二人ってトコロかな。


ああ、弟妹達の子どもまで言わないといけないなら……ええと、ものすごい数に膨れ上がるから、ここまでで良いよね? 

いいかな? 

ま、いいや。

でも、きょうだい達にはきちんと幸せになって欲しいから、神様、きちんと聞いてくださいね?



ええと……何から話そうか。

父親がどうしようもない愚物だったため、今言ったみたいに俺には弟妹達がたくさんいる。

同腹の妹は一人で、後は母親が違うけどね。


あー……もしかしたら、俺が把握しきれていない異母弟妹がまだまだいるのかもしれないけど……。

ま、今更だからそれは仕方がないね。


ええと、父親という名の愚物が認知をしているきょうだいたちを年齢順に説明……あれ? 

母親ごとに説明した方が分かりやすいのかな?


悩むところだけれど。ま、とりあえず、思いつくままに話してみるとしようかな。

長くなるけど、いいよね神様。



まず、俺、ユストゥス・ダヴィート・ゲープハルト。


二十七歳の時に愚物である父王を弑し、王座を簒奪した。

それでゲープハルト王国の国王になったんだ。

母の名はコルネリア。同腹の妹のロズリーヌとは八歳差。


それから長年俺の補佐をしてくれている異母弟のフレデリックとラセル。

この二人は父の一人目の側室、ルイーゼロッテ様の息子。今も俺の治世を傍で支えてくれている。

仮に俺に不測の事態が起こっても、絶対にエルネストの治世を支えてくれるっていうくらいに信頼している。


ジェラールとクリストフもルイーゼロッテ様の息子。

フレデリックとラセルと同じように公爵として俺を支えてもらっていたのだけどね……。

故あって……というか、俺のために王籍から離れ、平民となった。

元々の二人の領地はフレデリックとラセルの息子たちに任せている。


簡単に言えば、父である前王を弑すために、名を変え、平民に混じっていった。

「前王は悪、それを倒そうとする俺が正義」だと、そんなふうに平民たちをあおって、蜂起させたんだ。


騎士団とか軍とかはね、父親の支配下にあったから。

俺達が父親を倒すのには平民に皆さんを先導して、数で勝るしかなくてね。


戦略をわかっているしっかりしたリーダーがいる組織化した平民って、なかなかに強い。

エネルギーがね、もう違う。

しかもジェラールとクリストフがその熱量をしっかりコントロールしてたからね。

資金なんかも潤沢にあった。ティエリーが用意したからね。


あ、ティエリーの話はまた後で。

えっと、まだジェラールとクリストフの話ね。


父を葬った後は公爵に戻そうと思ったんだけどね。


二人とも「もうこっちで嫁さん見つけちゃったし。平民生活の方が気楽になったから。あ、あとさ、ユス兄も、平民がどんな不満とか要望とか持っているか、知る伝手、あったほうがいいでしょ。また何かあった時の情報操作とか、平民たちの思想誘導とかね。そのために、俺達このままでいるよ。あ、ギルドっていうか、情報屋的な仕事やるから」と言ってくれた。


本当にありがたく、また申し訳ない。


二人とは、父の二人目の側室であるステフィ様の息子であるティエリーを通して、まめに連絡を取ってはいるけどね、それでも直接会うのは難しくなった。


おにーちゃんはちょっと寂しい。

だけど俺のためにって二人がしてくれたことだからね。

ごめんね、ありがとうね。


ああ、ティエリーも王籍を捨て、今は商人として身を立てている。

もしもエルネストが生まれなかったら、王太子はティエリーにしようと思っていたほどの有能。

この国どころか近隣諸国に情報網を張り巡らせて、もはや商人というか、商業機構まで設立していく勢いだ。

多分、国王になんかならなくても、ティエリーが本気を出せば、経済でこの国も他の国も支配できるだろう。本人はそこまでするつもりはないようだけどね。


「あの糞親父を倒すために資金が必要だったから、大規模に商売しただけだし。別に権力なんていらないし。こういうやり方でしか、ユス兄を支えてあげられなくてごめんね。でも、オレの力はいくらでも使ってよ」


そう、いつもティエリーは俺にそう言ってくれている。


内乱を起こした当時も、他国からの横槍が入ったり、混乱に乗じてウチの国が他国から攻め込まれたりしないように……と、国中どころか他国にまで奔走してくれた。


その上隣国ヨークシヴァ王国の第三王女にアルベールを婿入りさせる算段まで取り付けてきた。


東の湾の向かいに位置するヨークシヴァ王国との友好関係は、このティエリーの奔走と、アルベールのおかげで盤石となった。


他国に婿入りなど、神経をすり減らすだろうに、第三王女との夫婦仲も良好だ。


ステフィ様にはもう一人息子が居て、それがウィンセントだ。


ウィンセントは今では国一番の魔導士になった。幼き日のエードゥアルトに多大なる影響を及ぼしたのが、他でもないこのウィンセント。

ちょっと羨ましい。


……それから父の三番目の側室となったクレメンティア様

彼女が産んだエードゥアルトとジョセアラは、俺達きょうだいとかなり年が離れている。


二人が生まれた時、俺は十八歳だった。八番目の弟のティエリーは十一歳だった。


だからというわけじゃないんだけど、年の離れたエードゥアルトとジョセアラのことを俺達きょうだいはものすごく可愛がった。


……いや、違うか。殺伐とした時代の、癒しに近かったのかもしれない。


ぴよぴよと後をついてきて、いつもにこにこしてて。

あー、思い出すだけで可愛いなあ。


五年ほどの時間をかけて、エードゥアルトとジョセアラ以外の俺の異母弟たちは、父王を弑すために、暗躍した。


あの愚物はあの当時、最高権力を持つ国王だったし、父に追従し、利権を持つ貴族も多かったからね。

最終的にはあの愚物は俺がこの手で殺してやったんだけど。


そんな血塗れの俺。

世の中の汚いことなど何一つ知らないエードゥアルトとジョセアラの笑顔に俺達はどれだけ救われていたのだろうか。


汚れた者たちは、この国から全て消して、美しい時代をこの手で作る。


今思えば、そんな大義名分の元、俺のやったことは単なる親殺し。


はっきり言えば、私怨でしかないんだよね。


俺の妻となったアニエルカ。そして妹のロズリーヌ。

彼女たちは俺たちの父親によって壊されかけた。


若くして死んでしまったクレメンティア様も、あの男が居なければ、側室などになることもなく、どこかの優しい男の下で、温かな家庭を作れたことだろう。


……だから、本当はね、俺は、正義なんかじゃないんだよ。


だけど、異母弟達はこんな俺を支えて、俺がこの国を変えるのを手助けしてくれたから。


俺はこの国を、もうあんな汚い国には絶対に戻さない。綺麗で平和で幸せで、誰もが能天気に笑っているような、そんな国にし続けるから。


おにーちゃんは頑張るよ。


ねえ神様。俺のきょうだいたちは、俺のためにって力を貸してくれたに過ぎないんだ。


だから、神様。親殺しの罪は、全部、俺だけに背負わせて。


エードゥくんもギード君もエルネストも。弟たちもロズリーヌもアニエルカも。


ううん、それだけじゃない。この国の誰もが、毎日楽しく笑って過ごし欲しい。多少の馬鹿をやってもいいから最終的には幸せになって欲しい。



神様、それが俺の願いです。


お読みいただきまして、ありがとうございました。


次回は王妃様のお話。


また金曜日にお会いできたら嬉しいですm(__)m

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