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【 番外編1 ヒロイン・ウィプケの話 ②】


一方的に婚約を破棄して、新しい女を連れて来たアイツみたいな男なんて、もうごめんだ。


ギード殿下はウィプケを裏切らない。


だって、それが乙女ゲームの攻略対象者とヒロインなのだから。


だったら……ここがゲームの世界なら、シナリオ通りにしたっていい……のよね?


悪役令嬢を排除して、あたしが、ギード殿下を手に入れたっていいのよね?


それが、この世界での正しいルート、なのよね⁉


あたしの心がどこか軋んだ。


ここは現実じゃない。

あたしはゲームの世界に入り込んだだけなんだ。

ゲームのストーリー通りに悪役令嬢を排したっていい世界なんだ。


……だったらいいよね。あたしはこの世界のヒロインなんだから。ギード殿下に手を伸ばしてもいいはずだ。シナリオ通りに動くだけで、あたしはもう二度とあたしを裏切らない男を手に入れることができるんだ。


そう、思った。


他の攻略者のことなんか知らないし、お姉ちゃんがやっていたプレイ経過しか知らないけど。ギード殿下の心をつかむのは簡単だった。


だって、お姉ちゃんがゲームで試行錯誤していたから。

やっちゃいけない言動とか、そういうの、全部とは言わないけれど、わかっていたし。何をどう言えばギード殿下の心をつかめるのかとかも知っていた。


あたしはゲームのシナリオ通りに「マルレーネから苛められている」と、ギード殿下に泣きついた。


本当は虐めなんて無かったけどね。


「ウィプケ、俺は一生お前を愛する! マルレーネとの婚約など破棄だっ!」


お姉ちゃんがゲームで選んでいた選択肢通りに、ギード殿下からその言葉を告げてもらった時は、もう飛び上がるくらいに喜んだ。


そう、あたしはきっとギード殿下との恋に溺れたというよりも、絶対にあたしを裏切らない、一生あたしを愛してくれる男を捕まえられたっていう喜びに、目が眩んでいたに違いない。


ここは『ユメアイ』の世界で、あたしはゲーム通りに祝福されて、ギード殿下と幸せな一生を送れました……ってそういう人生を送れると思い込んでいた。


ゲーム通りに卒業パーティが始まり、ゲーム通りの婚約破棄。


「悪役令嬢マルレーネ・ベネディクタ・エイラウスっ! 俺は貴様との婚約を破棄し、この可憐なウィプケを妻に迎えるっ!」 


あたしは喜びと言うよりも、安堵でいっぱいだった。


あー、これでもう、傷ついたり辛かったりすることはないんだな。童話みたいにいつまでもいつまでも二人は幸せに暮らしました……っていうふうに過ごせるんだなって。


そんなことを思いながら、ゲーム通りのセリフを言う。


「本当にひどいんですマルレーネ様は……。き、昨日だって、あたしに『男爵令嬢風情が第二王子殿下のお傍に侍るなんて身の程知らず』と言って、あ、あたしの頬を叩いてきて……」


くすんくすんと泣くふりもする。


なのに。


「ウィプケ嬢にギード、お前たちは馬鹿なのかい? 腕を動かすことができないマルレーネ嬢がどうやって頬を叩く? 喋ることができないというのにどうやって罵り言葉を発するのかな?」


学園長が、シナリオにない台詞を発してきた。


「え?」

何を言われているのかわからず、思わずきょとんと学園長を見てしまった。


呆然としているうちに、ギード殿下とマルレーネの婚約解消やギード殿下の王位継承権剥奪が宣言された。そのまま警備の男たちにあたしとギード殿下は拘束された。


「ちょっとっ! 何するのよっ! 離しなさいよっ!」


叫んでも、無駄だった。


周囲の冷ややかな視線。それはまるで悪役に対するようなもので……。


……待って。ここって『ユメアイ』の世界でしょう? 

あたしはヒロインなんでしょう? 


そう思った後に、ふっと心に浮かんできたのがお姉ちゃんの声。


『ま、悪役令嬢モノの小説とかなら逆に攻略対象者とかヒロインとかが『ざまぁ』されるけどね!』

『マルレーネ、サイコーだよ? 婚約破棄からの見事な仕返しっ! 転落する第二王子っ!』


……まさか、もしかして、ここって『ユメアイ』の世界なんじゃなくて、悪役令嬢がざまぁする、二次創作の世界なの⁉


ざー……っと、血の気が引いた。

そして、そのまま……あたしとギード殿下はウチの男爵領に連れていかれてしまった。




ギード殿下はウチの客間で呆然としている。

あたしもだ。


お兄様は仕方なさそうな顔をして、あたしとギード殿下を迎えてくれた。


「まあ、しばらくは色々考えるといいよ。落ち着いたら、二人で今後のことを話し合いなさい」


事情を知っているのか知らないのか。お兄様はあたしたちをそっとしておいてくれた。


そうして何日か経った後、一通の手紙をギード殿下に差し出した。


「そろそろまともに考えることができますか? ギード様、こちらは国王陛下からです。冷静に、物事が考えられるようになったら渡してほしいとのことでしたので、今日まで私の方で保管させていただきました」


ギード殿下は陛下からの手紙をひったくるようにしてお兄様から奪い、そうして、一人で部屋に篭ってその手紙を読んでいた。


だから、そこに何が書かれているかはあたしにはわからない。

ただ、号泣する声だけが、ドアのこちら側にも聞こえて来た。


「父上……、ちち……う、え……」


子どもみたいな声で、泣きじゃくって。

あたしはドアをノックすることも出来ずに、ただ廊下で、ギード殿下の泣き声だけをいつまでも聞いていた。


今回短めですが、切りのいいところで。

続きはまた金曜日でお願いしますm(__)m

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