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エードゥアルト学園長と国王陛下の話③


「あー……、あんなにちっさくて、俺の後ろをひよこみたいにひょこひょこ付いてきていたエードゥくんが、こんなにも大きく成長して……」


飛び回るのに疲れたのか。荒い息を整えながら、陛下はしみじみとおっしゃられた。


「クレメンティア様も、これで安心なさるだろうなあ……」


クレメンティアというのは、私の母の名だ。


陛下はキャビネットからグラスをもう一つと、それから新しい酒瓶を取り出した。新しいグラスに酒を注ぐ。


「……クレメンティア様。エードゥくんに大事な人ができたよ。天国で安心なさってください。あー……、エードゥくんが結婚したら、『兄』の役目ももう終わりか……。喜ばしいけど寂しいね、クレメンティア様」


しみじみと言って、陛下はグイッと酒を飲みほした。


もしかして……。


「陛下、もしや、私のことを特に気にかけてくださっていたのは……死んだ母に頼まれたりしていましたか?」


陛下は、何故だか泣きだしそうな顔になり、それから強がるように、にっと笑った。


「うん……。クレメンティア様はね、エードゥくんとジョセアラちゃんのことを、死ぬ寸前まで心配していたよ。ジョセアラちゃんは、好きな人と結婚して可愛い子供も生まれて、幸せだからね。俺はエードゥくんのことだけ、ちょっと心配していたんだ。何時まで経っても結婚しないで独身で、魔道研究ばかりでも、べつに悪くはないけど。だけど、年齢的に俺が先に死ぬからね。嫁さんでも親友でもいいから、エードゥくんと一緒に生きてくれる人が、一人でもいたらなーって、ずっと願っていた」

「兄というより親目線な気がしますが……」

「そうだね。俺は……、ホントはエードゥくんの『兄』になるより『父親』になりたかったのかもね」

「は、い……?」


陛下は、私から目を逸らし、どこか遠くを見た。


「むかーし昔の話だよ。前王の、三人目の側室として無理矢理連れてこられたクレメンティア様に、恋をした男が居てね。多分、クレメンティア様もその男のことを好きになってくれたんだと思うよ。お互いに告白なんてしなかったけどさ」


独白のように、ぼそりぼそりと呟かれる。


その男とは……まさか。


突然の告白に、私は何を言っていいのかわからなかった。


「だけどね、父親の側室に恋をしたなんて言えないでしょう。当時は俺も若かったし、力もなかった。クレメンティア様がエードゥくんとジョセアラちゃんを産んで、俺だってアニエルカっていう婚約者がいて、アニエルカは俺を支えられる正妃になるために、ずっと頑張ってきてくれた女だ。彼女を裏切るつもりは無かったし……。あー、でも、肉体的には裏切ってないけど、精神的には裏切っていたのかな?分かんないや。で、悩んでいるうちに、クレメンティア様は病に倒れたし……。それでね、クレメンティア様は俺に、父王なんかじゃなくて、この俺に……エードゥくんとジョセアラちゃんのことをよろしくって言って死んだんだ。……なーんて、嘘だよ嘘。酒に酔っただけ。俺はエードゥくんの『兄』だよ。色狂いの親を持って、苦労した、単なる長子。エードゥくん以外の異母兄弟たちのコトもみーんな愛しているよ」

「陛下……」


にっと笑った陛下の顔は、いつもと変わらなかった。


「やーだなあ、エードゥくん。『陛下』なんて無粋だよっ!昔みたいに『ユスおにいちゃま』って呼んでってばっ!」


どれだけの想いを秘めて、この人は私に『兄』と呼べと言っているのだろうか。


好きな女の、息子。

しかもその息子の父親は、陛下の父でもあるのだ。


『父親』になりたかった。


好きな女と結ばれて、その女に子どもができて……その子の、父親に、なりたかった。


けれど、それは不可能で。


陛下は、愛する女の手を取らず、課された責任を放り投げず。


それでも、その愛する女が産んだ子どもを……兄として、愛してくれていたのだ。


普段私に対してふざけた態度を取っている裏で、本当はどれほどの感情を秘めていたのだろうか。


私は何も知らなかった。


小さい頃は、ひょこひょこと後をついて回っているだけで。

立場が理解できる年になってからは、敢えて一線を引いて、臣下として接して。


私は立ち上がると、これ以上もない敬愛と感謝を込めて一礼をして……、それから真っすぐに陛下の瞳を見て言った。


「ユスおにい……は、勘弁してください。が、これからは……、ユストゥス兄上と……呼ばせていただいても……よろしいでしょうか」


陛下は「いーよ」と嬉しそうに微笑んだ。


「幸せになってね、エードゥくん。それだけがクレメンティア様と……俺の、願い」


ユストゥス兄上の、その言葉の優しさに、胸が熱くなって涙がこみ上げてきそうになったことは……、きっとマルレーネにも、誰にも告げることがない、私だけの、一生の、秘密。




学園長と国王陛下の話、終わり


ここまでお付き合いしてくださった皆様!ありがとうございました!


現在、ありがたいことに書籍化作業進行中でございます。

内容増強、ラブ増強。登場人物もものすごく増えました(/・ω・)/

ちょっと先になりますが、書籍化報告や小話更新などができると思います!

のんびりお待ちいただけると嬉しいです。よろしくお願いいたしますm(__)m



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 2023年12月14日追記


 書籍化作業もだいぶ進んでまいりました(*´▽`*)

 クリスマスと新年辺りにショートストーリーを投稿する予定です。

 読みに来ていただけると嬉しいですm(__)m

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