エードゥアルト学園長と国王陛下の話②
「はいカンパーイ。いやー、ひっさしぶりに可愛い弟と飲む酒は美味いっ!」
……ご満悦である。
「で、ギード殿下に関してですが」
「うん、知ってる。あのバカ息子、婚約者のマルレーネ侯爵令嬢に冤罪吹っ掛けて、で、どっかの男爵令嬢を娶るとか言っているんでしょ?」
「ご存じでしたか……」
「もっちろん。ギードは俺の息子だからね。息子の動向くらいは把握しているよ」
陛下は目を細められた。
「エルネストと違って、ギードは出来が悪かったから。だから、優秀なマルレーネ嬢を婚約者にしたんだけど、却ってコンプレックスこじらせちゃったかな?子育てって難しいね」
ふうっと息を吐いてから、陛下は私を見た。
「で?ギードが馬鹿やり過ぎて大変……なんて程度で、俺のところまでやって来るエードゥくんじゃないよね。遠回しなことはいいから、率直に言ってくれる?エードゥくんの目的は何?」
「……その、マルレーネ嬢とギードの婚約を解消してください」
「何故?」
探るような鋭利なまなざしに気後れしそうになる。が、私は陛下の目をまっすぐに見て答える。
「マルレーネ嬢に惚れました。彼女が欲しい。どうか、ギード殿下とマルレーネ嬢との婚約を解消し、この私との婚約を許して欲しいのです」
「へ?」
言い切った私に、陛下はぽかんとした顔を向けた。
口をあんぐりと開けているだけではなく、手にした酒瓶から、どぼどぼと酒をこぼす。その酒は、零れて絨毯を濡らしていった。
「え、あ。えええええええええーーーーーーーーーっ!?」
廊下で待機している護衛と侍女に、陛下が酒をこぼしたから拭いてくれと、私が言いに行った頃ようやく、陛下は大きな叫びをあげた。
「ちょっとちょっと待ってよエードゥくんっ!ほ、惚れって、ええええええええーーー。予想外にもほどがあるっ!い、いつからどうしてっ!うっわっ!俺、エードゥくんの恋愛話なんて初めて聞いたっ!魔道以外に興味持ったの初めてじゃないっ!?うわーっ、うっわーっ!エードゥくん、もしかしなくても初恋!?三十歳直前にして初めての恋!?うわあああああ、おめでとうっ!お兄ちゃんは嬉しいよっ!」
……良いのか、陛下。私は陛下の息子の婚約者に惚れたから、その婚約者を下さいと言っているのだが……。
普通、咎められると思うのだが……。
しかし、陛下は喜んで、子どものように部屋中を飛び回っている。
……絨毯を拭いて、こぼした酒の処理をしている侍女たちの頬が引き攣っている。……気持ちは、わからんでもない。
これでも一応、公の場では、それなりに、いや、かなり有能な国王なのだが。
昔から、私の前に来ると『陛下』ではなくこんな感じになってしまう。どうしてなのか……。四十代も半ばだというのに落ち着きがない。
「いやっほーっ!オッケーオッケーっ!さっさとバカ息子とマルレーネ嬢の婚約なんか、解消しちゃうね!エイラウス侯爵に連絡してー、えっとそれから、そうだっ!うちのバカ息子も、男爵令嬢と結ばれたいんなら、結婚させてあげよう!男爵家で面倒見てもらって、暮らせばいいよっ!でも放逐するのもかわいそうだから、それなりにお金は出して、生活の面倒を……って、面倒見過ぎちゃうのもダメか、それは馬鹿親のすることか!バカ息子も、嫁さん養える程度は自分で働けっていうか、自立させなきゃっ!どうするのが一番いいかなっ!?むーっ!忙しくなってきたっ!でも今お兄ちゃんは、エードゥくんに好きな人ができて嬉しいって喜びでいっぱいです!ひゃっほーいっ!」
掃除を終えた侍女たちが、音もたてずにすすすすす……と部屋から出て行った。
頼む、こんなテンションの高い国王と、二人きりにしないでくれ……と、言いたくなった。
続きます
また金曜日にお会いできると嬉しいですm(__)m
予約投稿間違えていたっ! 慌ててアップ……。ごめんなさい!




