エードゥアルト学園長と国王陛下の話①
王位継承権を放棄して、魔道研究をしたい……と、私はユストゥス・ダヴィート・ゲープハルト王国現国王陛下に申し出た。
「いいよー。あ、ちょうど王都の貴族学園のねえ、学園長の席が空くんだった。エードゥくんにあげるから、学校経営しつつ魔道研究するといいよ」
「……再三申し上げておりますが、『エードゥくん』はやめてください陛下。私も既に子どもではないのです。エードゥアルトとお呼びください」
「陛下って呼ぶのをやめてね、って俺も再三言っているケド?昔みたいに『ユスおにいちゃま』って言ってごらん?」
「言いませんっ!」
「えーん。お兄ちゃん、泣いちゃうー」
泣きまねをする国王陛下に私は頭を抱えた。
国王陛下と私は、一応兄弟という間柄ではある。
一応というのは、ユストゥス現国王陛下は前国王と前王妃との間の子ではあるが、私と私の姉のジョセアラは前国王の側室の子でしかないからだ。しかも母は三番目の側室だ。
軽んじられて当然だと思うのに、何故だかユストゥス現国王陛下は私に甘い。
以前、理由を聞いたことがあるが、
「そりゃあ、お兄ちゃんは年の離れた末っ子の弟が可愛くて仕方ないんですよ~」
と、ふざけた答えが返ってきた。
まあ、確かに。私も何も知らなかった幼少の頃は、可愛がってくれる『兄』に懐いてはいた。
懐いてはいたが……、いや、もう過去の話だ。掘り起こすまい。
そんなこんなで、なるべくユストゥス現国王陛下との接触は避けてきたのだが……。今回ばかりはどうしても陛下のお力をお借りしなくてはならない。
私は陛下に謁見願いを出した。
出した次の日に、「王城においで、待っているからねー」との返事が来た。
早い。
早すぎる。
陛下への謁見願いなど、本来なら一か月は待たされるところだ。優遇ありがたい……と思いつつ、顔が歪んでしまう。
覚悟を決めて登城すれば、謁見の間ではなく、陛下の私室に案内された。
「やあやあ、久しぶりだねエードゥくん。元気だった?」
「…………………ユストゥス現国王陛下におかれましてはご機嫌麗しく。また、急な謁見をお許しいただきまして、感謝いたします」
「硬いなあ、エードゥくん。も、いいからそっち座って」
キャビネットから、自分で酒瓶とグラスを持ってくる国王陛下。
「一応これでも私は臣下なので、ご用意なら侍女を呼ぶか私が致しますし、陛下より先に座ることはあり得ません」
「なによー、お兄ちゃんと弟のひっさしぶりの邂逅よ?気楽にざっくばらんに近況報告してよー」
国王陛下自らの手で、どぶどぶどぶ……と注がれる年代物のワイン。
素晴らしく芳醇な香りだが、私は酒を飲みに来たわけではない。
「……先にこちらの書類をお渡しいたしたく存じます。第二王子ギード・ヴォルデマール・ゲープハルト殿下に関する資料がこちらに」
陛下は私が差し出した書類をちらりと見つつ、「そっちのテーブルにおいて。まずは乾杯ねっ!」っとワイングラスを差し出してきた。
……これは飲まなければ話はさせてもらえないだろう。
私は諦めて、ワイングラスを受け取った。
続きます。
次回は7月7日の予定です。
どうぞよろしくお願いしますm(__)m