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強迫観念

俺はその言葉を聞いて、有頂天に至った。

心の底から、身体中の細胞が喜んでいる。しかしあまりの喜びから、舞い上がることも出来ず噛み締めるように拳をつくった。


「本当なのか....?」

俺は聞く。その次の言葉がどうか嘘じゃありませんようにと祈った。



「うん」

彼女は恥ずかしそうにコクリと、小さく頷く。


そしてお互いは、長い沈黙に陥ったのだった。

顔を伏せて、お互いの顔を見るのが恥ずかしくて、見られないようにする。

苺のように真っ赤になった顔。影の中でもその赤さは見劣りしない。

俺はあまりの気まずさから、逡巡を繰り返したのちに、この沈黙を破ろうとした。じゃなきゃ恥ずかしさのあまりどうにかなりそうだ。

俺はさらに拳を握り、決意して話しかけようとしたその時、俺よりも先に言葉を出したのは彼女だった。彼女の気迫に押されて俺は口を紡ぐ

彼女は震える声で、精一杯、声を出す。

「今日、ここにタカジョウくんを呼んだのはね」

彼女の必死に頑張る姿が愛おしく思えた。生徒会長として生徒たちを扇動していく、冷静沈着な彼女は何処か。

彼女はただの乙女だ。ただの少女に成り下がってしまった。

「貴方に告白をするために呼んだの」

冷たい風が吹いて、体育館裏の木がざわめいている。彼女の髪が風に靡いていた。

彼女は恥ずかしそうに、両手の指先をくっつけて瞳を逸らす。しかし時折、俺の目を一瞥しては、恥ずかしさを反芻するのだった。

そして彼女はようやく決心をして、一歩前に俺に近づく。

「私、桃山安土は、高城長夜くんのことが好きです。私の側にずっといてください」

彼女の真っ赤な顔が、潤んだ瞳が俺の視界を埋め尽くす。こんな状況下で断れるやつなんていやしないだろう。そもそもな話、俺は彼女が好きだった。だから断る理由なんて当然のようにない。

ここで彼女に「俺も桃山安土さんの事が好きです。側にずっといさせてください」そう言えばいい。

こう言って偕老同穴の契りを交わせば、幸せな未来が待っている。

彼女とスクールラブ。学生の甘い青春。彼女との甘い大学キャンパス。そして初めての飲酒。恍惚とした彼女と共に夜の街へ。そして朝を迎えるのだ。

彼女と愛し合い、彼女の会社の後継としてお父様に使われる。だがいつかはお父様に認められて、幸せな家庭を築き上げるんだ。

子供は何人にしよう。女の子を2人? 名前は?

ああ、妄想が止められない。

希望ある未来が、目の前にはあるんだ。

言うんだ。好きだと。



その時俺は思った。

今ここで彼女を思いっきり振ったらどうなるんだろう。



思いっきり罵って、彼女の勇気ある告白を打ち砕いたらどうなるんだろう。

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