失恋と妄想
その時、彼女が何を喋っていたかなんて覚えていないし、頭に入ってこなかった。
春の温かな光に包まれだの、この学舎で精進だの言っていた気もしなくはないが、俺はただただかに見惚れていた。
恍惚とした表情を俺は浮かべながら、彼女との学校生活を夢見て想像を膨らませる。
彼女に告白をされ、付き合い。初めて手を握りしめる妄想。初めてのデート。誰もいない場所で初めてのキス。
なんて妄想したところで、そんなものは実現しないことなど自分自身でもわかっていた。
何故なら俺は彼女に見合うような人間ではなかったからだ。
俺には誇れるものが何もなかった。
顔がいいわけではない。多分中の中だと、思いたい。そんぐらいだ。
頭は良くない。どっちかといえば悪い方だ。中の下くらいで、だから俺はあんなアホなことをやってのけたのかもしれない。
スポーツなんて破滅的だし、会話能力に関しては、問う以前の問題である。
俺には友達がいない。
俺には何もない。何もなかった。
彼女に釣り合う何かがないのだ。
だから、俺が彼女を好きになっても、彼女の心は動きもしないし、擦りもしない。
だから俺は、恋をした瞬間。失恋をしたんだ。
諦めという形で俺の恋は終わった。
それでも俺は妄想をやめなかった。
段々と関係は深まり、そして学校の誰もいない教室で初めてを迎える。
ああ、ああ、彼女と是非ともお付き合いしたい。お突き、愛したい。
そんな気持ちの悪い妄想をしているうちに、いつの間にか入学式は終わっていた。
俺は誰もいないすっからかんの体育館で、ポツンと突き落とされた。
「誰も俺のことを呼びかけてくれなかったのか?」