透明人間
俺は透明人間である。
ドラえもんの秘密道具で、石ころぼうしなる道具がある。坊主頭のようなその帽子をかぶると、他人から路傍の石のように思われる。あるいは存在そのものが認知されない道具だ。
俺はあろうことか、小学生のころに青い狸になんてあっていないし、それどころか摩訶不思議な道具を譲り受けた覚えはない。
だって言うのに、俺は高校生になってから、誰かに認知されなくなってしまった。
いじめだとか、そんなんじゃない。
俺はただ単に存在感が誰よりも軽薄だったのだ。
張り切って高校生デビューをした入学式の日に事故に遭ってどうのこうのだとかそんな理由も特にない。
ただ単に俺は他人から路傍の石程度にしか思われていないのだ。
だから俺は透明人間なのだ。
俺がどれほど影が薄いのかと言うと、半年前にリア充どもが実行した存在感ランキングなる邪悪なチラシから物語れる。
クラスでばら撒かれたそれには、クラスの中で存在感のある人間をランキングした物であった。
俺はそれを見て考える。
俺はこの学校でファーストで影の薄い人間であり、ワーストで存在感ののある人間だと思われた。
しかしそもそも違った。
ランキングに載っていなかった。単純にそのどちらでもない人間だったからでもなく、単純に、突き抜けて存在感が無さ過ぎた。
ランキングに載るどころか、誰も俺の存在を知らない。誰も俺のことを知らない。
これは一体全体どういうことだ。
俺は俺が透明人間なのではなかろうかと確信して、深夜の公園でブランコを漕ぎまくってみたら、普通に補導された。
何故だ。何故俺は学校で誰にも認知されない。
毎日のように学校に通って、ちゃんとクラスメイトと話して......。
話したことがあっただろうか。
兎にも角にも、俺は誰からも存在を認知されていなかった。
通りすがると「あんなやついたっけ?」などと言われる始末。
そんな俺と対を成す存在がいた。
桃山安土だ。
彼女と俺の、いや、俺による彼女との一方的な邂逅は入学式のことであった。
それはもう、桜が満開に咲き乱れ、花吹雪が吹き荒ぶ、風の強い春のことであった。
桃山安土とは同回生である。
そして彼女は入学式にて、入学者代表として演説をする彼女を俺は見ていた。
彼女を一眼で見た瞬間、俺は恋に落ち、そして失恋した。