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魔物狩り

事実上初の連載です。何卒よろしくお願いいたします。

 ――アーサー、後で話があるから街境の川まで来い。




 俺が魔人討伐機関”ルーグ”機関長、まあ有体に言ってしまえば勇者にしてこの国の第二王子であるレイア・マッハに呼び出されたのは丁度部屋で魔物狩りの準備のために色々やりくりしていた時だった。




 彼、いやパーティーメンバーの物言いには色々思うところがある。けれども、俺は彼らに対しては決して強く出ることが出来ない。


 理由は簡単だ。




「遅かったですね。それとも、”不浄の息子”はやはりダメな血が入っているのでしょうか?」


「ジェニファー、そんなことを言っては他の”不浄の息子”達に失礼だろう。彼はわけても穢れた、”魔物狩り”なんだから」




 レイアともう一人の聖女ジェニファーは俺を前にしてゲラゲラと笑う。


 言い返したいところだが、俺は何も言えない。どころか、下手に口を開いたらそれだけで罪に問われる可能性すらある。




 ――なぜなら、俺が”魔物狩り”、つまり罪人の子孫である”不浄の息子”の中でも最底辺に位置する身分だからだ。




 対して、レイアは王族、ジェニファーは貴族の縁類だと聞く。要は、俺とあいつ等の間には天と地ほども身分差があるのだ。




「出来れば、用件を話していただけないでしょうか? 私としてもそこまで時間を割けるわけではないので」




 俺は、例えば、買い物が出来る場所はかなり限られている。魔物狩りと分かっただけで文字通り塩をまいてくる人間もいるのだ。


 だが、レイアは俺の言葉を鼻で笑う。




「いや、もうそんなことを考える必要はない」


「……どうしてですか? 暇でもいただけるんですか?」




 軽く冗談を言ってみる。だが、レイアのニヤニヤとした顔を見るに、それは冗談ではないらしい。




「じゃあ、俺は荷物をまとめて来るんで」




 俺がこの勇者チームに入っているのは御上から、魔物を見るのに慣れていない王子を護衛しろと言われたからに過ぎない。要はガキのお守りである。


 だから、正直彼らと手を切れたのは有り難い。




「おい、待てよ」


「なんですか?」




 正直、一緒にこの場所にいるだけでも色々と辛いのだ。さっさと放してほしい。




「貴方には多くの過失や、それから罪が認められます」


「例えば?」




 そう聞くと、ジェニファーは得意げな顔をしてベラベラと話し出す。




「まず、王国の予算を濫りに使い、必要のないものを大量に作ったこと」


「もしかして、魔物狩りの準備のことを言っているのですか? アレがなきゃどうしようもないと思いますけどね」




 剣や魔法があろうとも、それは魔物に対しては有効なものを選んで当てなければ意味がない。そのために狩りの下準備は必要不可欠だ。


 それをまさか必要のないものだというとは。




「そして、騎士道から外れた外道な戦い方。それを騎士の鑑であるレイア様に不浄のみでありながら、強制するとは。絶対に許せないことです」


「あのですね、逆に聞きますが。正々堂々と戦うってどうするんですか」


「当然魔術罠など使わずに、剣と奇跡で正面から戦うのだ」




 ジェニファーは阿保王子を称賛するが、俺からすれば愚の極としか言いようのない話だ。魔物は人間よりはるかに身体能力が高いのだ。そんな相手に正面からぶつかってどうするんだ。


 死ぬ気か!?




「そして、貴方にはもう一つ大きな罪があります」


「……何ですか?」




 確かに悪いことはそれなりにやってきたけれど、他人様に迷惑をかけることはされたことはあれど、したことは無いはずだ。


 人殺し何かは一度しかやったことは無い。


 それだって、苦く、今でも頭の中から消したい記憶なのだ。




 ジェニファーは俺を心底憎々し気に見つめる。




「貴方の存在、それそのものです」


「……そうですね」




 教会によれば、“魔物狩り”は”不浄の息子”の中でも特に罪深い存在であるとされる。曰く、”ある理由“によって彼らは決して死後休まることは無く、地獄に行くことが確定しているのだという。


 無論、それでは色々と問題があるから王国は”魔物狩り”を国王直属の人員として定義して様々な保護を与えているとされる。実際はそんなことで差別はなくならないし、こういうクソみたいな仕事を押し付けるための大義名分でしかないのだが。




「罪には罰が必要だ」




 阿保王子が芝居がかった口調で話す。




「本来なら、グエンドレナと一緒に断罪したかったが、彼女は用事があるとか何とかで外に出ている。好いた女に情けない姿を見られなくてよかったな」


「……」




 グエンドレナさんは阿保王子の護衛の騎士だ。女性だというのに中々の強さでしかも”魔物狩り”の俺に対しても優しい。好いたわけではないが、唯一感謝している人物がいるとすれば彼女だろう。


 


 だが、阿保王子は俺にそうした余韻にひたる暇は与えてくれないらしい。彼は剣を取り出す。




 ――とうとう気が違ったか。




 俺は踵を返して逃げ出そうとするが、行く手をジェニファーが阻む。




「手を出しますか? 出してもいいですよ」




 その嘲りは身を亡ぼす。俺は躊躇なく腰の短剣を抜くが。




「その程度か」




 俺の右腕は地に転がった。




「経験値をため込んでいるというから、どういうことかと思ったが……。二対一で負ける程度ならそもそも俺一人でも何とかなったか」


「き、さまっ!」




 人には騎士道を押し付けておいて、そのくせ自分はそれから外れた行為を堂々とするか。




「俺はこの国の王子だ。ならば、普通の臣民ならともかく、塵芥にも劣る”魔物狩り”に対して何をやろうと勝手なことであろう」


「全くその通りですわ。彼らは教会、そして主の敵なのですから」


「それに」




 ――大方、こいつの親や師匠も碌な人間ではなかったのだろう。それを考えただけで虫唾が走る。




 その言葉に血液全てが熱い溶岩に変わったかのように、熱い怒りがこみ上げてくるのを覚える。


 俺はいい。ある程度は望んで魔物狩りになったのだから。




 だが――




「皆が望んでそうなったんじゃない。それを碌な人間でなかったなどと……!」




 だが、レイアは冷たく俺の左手を払いのける。




「触るんじゃねえよ。人喰いの化け物が」


 


 彼はそのまま俺に蹴りを入れて、川へ突き落した。




 冷たい、川の中。




 最後に見たのはレイアとジェニファーの嘲笑と蔑むような視線。


 最後に思ったのは”魔物狩り”なる職業を作ったこの世への復讐だった。


「また、死人か」







 老人は血を流しながら苦悶の表情を浮かべている、黒髪の青年に憐れみの目を向けた。




「せめて、簡単な弔いくらいはしてやろう」




 彼は簡易的に古い形式の祈りをささげた後、川縁から青年を引き上げようとする。




「息がある?」




 老人は青年の口に耳を近づけて、彼が息を未だ僅かにしているのを確認する。老人は少し、困ったような嬉しいような笑顔を浮かべる。




「おい、ニミュエ、いるか?」


「おじい様。私はここにいますよ」




 耳が尖った、しかし金髪の見目麗しい少女が一人崩れかけた納屋から出てくる。




「怪我人だ。治療を頼む」




 二人は青年を担いで納屋へと戻っていった。

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