帰還。
モノリスに触れて帰還をイメージすると、ダンジョンの外へと転移した。
なるほど便利である。
夕暮れに染まる平原を眺めていると直ぐに迎えの竜車がやって来た。丁度良い時間だった様だ。
竜車に乗り込み街へと帰る。
「ギルマス、ただいま戻りました」
竜車にギルド前まで送って貰い、一応初日だったこともあり、報告へとギルマスの執務室へエルクさんと一緒に向かう。他のメンバーはエルクさんから鞄を受け取って買取の手続き中だ。
「おぉ戻ったかエルク。んで嬢ちゃん、ダンジョンはどうだった?」
「楽しかったですよ」
ゲームみたいで。と内心付け足す。
「それだけか? それでエルクの方はどうだった?」
「いつも通りでした。ちょっとリュウが燥いだぐらいで」
エルクさんは苦笑いで答えた。
「そうか。ならあと数日頼むな」
「はい」
ライアンさんは問題ないと判断したようだ。
「それとお前ら明日はいつも通り休むんだろ? なら、良かったら嬢ちゃんを街案内してやってくれないか?」
「はい。帰りにも竜車で明日どうするかって話になって、明日はエルザとローザと一緒に街を回る事になってますよ」
「なんだ。嬢ちゃん上手くやっているじゃないか」
「上手くって何ですか? 普通に女の子同士、お買い物するだけです。服とか色々欲しいんですよ。女の子ですし」
「女の子ねぇ」
そう明日は楽しくお買い物するのだが、ライアンさんはやけに女の子部分に棘がある言い方をしながらジト目で私を見る。
そんな中、ミランダさんが唐突に提案してきた。
「そのお買い物に私もご一緒してもよろしでしょうか?」
「はぁ!? 何言ってんだお前。明日休みじゃないだろうが」
ライアンさんの言葉にミランダさんはキッっと鋭く睨む。
「ん、あぁ、明日は休みだったな、うん。きっと休みだ」
きっと休みだそうである。
ライアンさんから了承をもぎ取ったミランダさんは再度私に尋ねる。
「駄目でしょうか?」
「私は構いませんけど――」
そう返しながらエルクさんを見る。
「ローザとエルザなら大丈夫ですよ。んじゃ伝えておきますから明日、よろしくお願いしますね」
「はい! 街の事なら任せてください!」
ミランダさんは満面の笑みだ。
あれか? いつも強面のライアンさんと一緒だから癒しが欲しかったのかな?
そして明日10時に私の宿に集合と伝えた。
いやだって私、宿とギルドしか知らないからね。待ち合わせとか無理なので迎えに来てもらう事になっていたのだ。
こうして軽く報告を済ませた後、買取を済ませた皆と合流してエルクさん達がよく行く酒場へと向かった。
◇◇◇◇◇◇
「おい、ミランダ」
「はい。なんでしょう?」
アリス達が執務室を去った後、ライアンはミランダに声を掛けた。先ほどの件で文句の一つでも言おうと思ったためである。
しかし改めて上機嫌のミランダの笑顔を前にしたらどうでもよくなってしまっていた。
それにいつもはきちんと卒なく仕事を熟しているし、今は何か重要な案件があるわけでもない。
その為「はぁ……」と諦めにも似た溜息をついた後、出てきた言葉は別のものだった。
「まぁいい。あんまり羽目を外すなよ」
「大丈夫です!」
テンション高めに返事を返すミランダを目の当たりにし、本当に大丈夫か不安になるライアンだった。
◇◇◇◇◇◇
酒場に到着すると其処は、THE・酒場と言った雰囲気のお店だった。店内は無垢で堅実なテーブルとイスが並び、雑然としていて、おしゃれとは程遠い。一般人っぽい人もちらほらと見るが大抵の人達は冒険者の装いだ。
そんな店内の大きなテーブルを1つ陣取り、エルクさんたち皆さんは慣れた様子でメニューを開かず注文をすませる。
私も乗り遅れないよう適当におすすめくださいとだけ注文した。その際、勿論ワインも忘れない。
「さぁ今日はリュウの奢りだからじゃんじゃん飲むわよ」
「加減してくれ」
ローザさんの台詞にリュウさんは顔が若干青くなっていた。
「アリスちゃんも遠慮せずにじゃんじゃん注文していいからね!」
それを無視してローザさんが続ける。
何故か私の分もリュウさんの奢りになっていた。
私、何もしてないんですけど?
「いいんですか?」
「良いの良いの。マジックバッグ出たし。きっとあれはアリスちゃんが可愛いからダンジョンからのプレゼントよ」
ローザさんがワイン片手にウインクをした。
そんな訳はないが反応に困ったので取りあえず笑みで返す。
笑えばいいと思うよである。
しかしマジックバッグは幾ら位するんだろうか? そこそこにお値段する感じだが、一応上位互換のアイテムボックスが使えることになっているので聞きづらいのと、あんまり何でも聞くと常識のない人認定を受けてしまうので尚更だ。
まぁこの辺は明日の買い物で大体知れるはずだし大した問題は無いだろう。
取りあえず宿に戻ったらアイテムボックスが使えるか試してみよう。アイテムボックスが使えれば私は片づけれる女に一足飛びで叶うぞ!
目指せ、頼れるお姉さんポジ少女。
そして肉料理をメインに、テーブルに並べられた品を適当に楽しんでいるとエルザさんから質問を受けた。
「アリスさんてマジックボックス意外だと、どんな魔法が使えるんですか?」
「主に魔物の頭が弾け飛ぶ魔法ですね」
「わぁ、爆裂魔法って私見たことないです!」
それに適当に答えると、お酒と興奮で顔を紅潮させた彼女は目を輝かせる。ダンジョンではただ付いて歩いていただけで、戦闘には一切参加しなかった私だが、同じ魔法使いとして気になっていたのだろう。
「それじゃ次、ダンジョンに行ったとき、宜しければ私が魔物倒しましょうか?」
「はい!」
エルザさんは元気に返事をした。エルクさん達も異存は無いらしく、私の魔法を同じく楽しみしている様子だ。
それにしてもあれは爆裂魔法なのか疑問があるが。私の知ってる爆裂魔法とはかなり違う。黒より黒く――とか詠唱してみたら変わるだろうか?
特にこの世界の魔法発動に詠唱必要ないけど。
がっかりさせる訳にはいかないなぁと、料理を楽しみながら頭の片隅にぼんやりと考えながら食事を楽しんだ。
酒場で大いにお酒を楽しみ、上機嫌な私をローザさんとリュウさんが宿まで送ってくれ、何とか部屋までたどり着いた。
「あひゃひゃひゃ。うーん、お風呂めんどい。いいや寝よう」
しかし飲み過ぎた様で色々面倒臭い。
何が面倒臭いのか考えるのすら面倒臭い。
という訳で思考を放棄するべく私は服を脱ぎ棄て、そのままベッドにダイブした。
はて? そういえばなにかやろうとしていた気はするが、まぁ面倒くさい。
翌朝目を覚まし、下着姿と床に脱ぎ散らかした服を見てにやっちまった感のデジャブを感じる。そして思い出した。
あぁ、アイテムボックス試そうと持ったんだっけ……。
早速ベッドから起きると床に脱ぎ棄てられたアリスドレスを手に取った。
そのまま、アイテムボックスに仕舞うという事を漠然と考える。
結果。
うん、できた。ちょろい。
うははは。これで私は片づけられる女になったぞ!
理屈? ファンタジー世界にこまけぇこたぁいいんだよ!!
そして朝風呂に入り、朝食を済ませて昨日と同じように身支度を終えた。
まだ9時過ぎだ。なんという優雅な朝だろうか。これだけしてまだ9時なのである。休みの日は昼まで寝てだらだら過ごしていた私としては、これだけで夕方になっていたりするので驚きだ。
そのことを、もしかしたらタイムリープしているかもしれないと、友人に話したら呆れられたが。
そんなことを食堂で紅茶を飲みながら懐かしく思い出していると時間が近づき、ミランダさん、ローザさん、エルザさん皆が一緒にやって来た。
「今日はよろしくお願いします」
「まっかせてー」
「楽しみですね」
「先ずなんのお店から行きますか?」
「服ですかね?」
武器や魔道具も色々と見て回りたいが見て回った挙句、お金と時間が無くなってしまっては元も子もない。その為先ず最初に必要な物を買おうと決め、ミランダさんに伝える。
「分かりました。それでは私おすすめのお店を案内させていただきますね」
良いお店を知っているらしいミランダさんはそれはそれはにこやかに微笑む。
「ここです」
そして案内されたお店を一目見て自分の目を疑った。
ショーウィンド越しに飾られている服はどれもフリル多めの可愛いらしいデザイン。
呆気に囚われているとミランダさんとローザさんにガシッと両脇を固められる。
「はっ!?」
「さぁ行きましょ♪」
「お着換えの時間ですよ♪」
「ミランダさん!?」
「楽しみですね♪」
「エルザさんまで!?」
エルザさんにまで背中を押され、為す術もなく店内に連行された。