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ダンジョン。

 窓の外からカーテン越しに薄っすらと日差しが入り込み始めた頃、私は目を覚まし、つい、知らない天井だ、と言いたくなったのを堪えた。

 起き上がりベッドから降りると、昨夜、床に脱ぎ散らかした服が目に付く。

 片づけられる女になるとは何だったのか。誓いは、立てて僅か一日で瓦解した。もはや三日坊主ですらない自分に呆れながらもいそいそとアリスドレスを着る。


 「服も買わないとなぁ。あと下着も」


 いくら魔法で綺麗に出来るとはいえ、流石に着たきり雀はいただけない。あと2,3着は必要だろう。それをローテーションすれば良いと考える。

 ダンジョンから戻って時間があったら買いに行こうと決めた。

 そして身支度を整えようとベッド脇の鏡台の前で、昨夜の脱衣所同様に適当に綺麗になれと自分に魔法を使う。既に慣れたものだ。


 朝食を済ませギルドに向かう。


 ギルドに入るとロビーで待機していたのか、直ぐにマチルダさんがやってきて一緒にギルマスの執務室に向かう。ギルマスの秘書のマチルダさんが直々に対応しているせいか、昨日の事を知らない人達は好奇の視線を私に向け、何やらひそひそとしている。

 耳を傾けるとライアンさんの隠し子説が浮上していた。

 パパ! とかいったらライアンさんはどんな顔をするか、悪戯心と好奇心が湧くが実行はしない。


 執務室に入るとライアンさんと、20歳前後の男女4人組が談笑していた。


「来たか。こいつらが昨日放したCランクパーティーのエルク達だ」


 ライアンさんの紹介を皮切りに自己紹介が始まった。

 最初に黒髪の人当たりが良さそうな剣士の青年が口を開く。

 

「僕が一応リーダーのエルクです。アリスさん今日はよろしくお願いします」

「んで俺がこのパーティーの頼れるお兄さんのリュウだ」


 続いて2メートル位はありそうな、パーティーで一番体格が良く重戦士風な男性が溌剌と大きな声で、立てた親指で自分を指しながら挨拶をする。その笑顔はキラリと歯が光りそうである。


「わたしはローザよ。よろしくね。あと、こいつは只の煩い馬鹿だから覚えておいて―」

「ひどくね!?」


 胸元が開いた聖職者風な出で立ちの、おっぱいの大きいゆるふわ金髪お姉さんが挨拶をしてくれながらリュウさんを指差し、にこやかに貶す。

 対照的な二人だ。


「エルザです。今日はよろしくお願いします」


 最後は魔女っ子といった装いの、16歳程の少女が礼儀正しくお辞儀で挨拶をしてくれた。


「アリスです。なんか遅れた様ですいません。朝ご飯食べたらとしか言われなかったんですけど」

「あーいや。僕たちはギルマスに早めに呼び出されていただけなので」

「あ、そうなんですね」


 私が遅刻した訳でもないようだ。言い訳という訳じゃないが、そもそも時間指定じゃないのが悪い。この世界には時計が普通にあった。ギルドの壁にもあったし、宿の食堂にも同じくあった。因みにギルドに着いたのは8時ちょっと前ぐらいだ。


 そんな彼らは当たり前の事だが各々がきちんとした装備をしている。剣や盾、鎧にローブ。それと杖だ。冒険者なので当然だろう。

 対して私はどうだろうか? アリスドレスである。しかも無手だ。ダンジョンに行く前に装備を整えた方がよさそうだが、そういやこの服、ワイバーンの爪で捕まれても解れすらない。いやもしかしたら魔法で直ったかもしれないが、実際私は無傷だったしこのままでいいか。いいの? ……いいや。


 葛藤はあったがまぁ良いだろう。今から行くのはCランクダンジョンだ。対して私が昨日倒したワイバーンは私のランクから察するに多分Bランクの魔物だろう。

 という訳で防御面は問題無いと判断した。まぁ服を買って、お金に余裕があればちゃんとした装備を買ってもいいかもしれないけど、それは後で考えよう。決して舐めプじゃない。


 「それじゃエルク、嬢ちゃんを頼んだぞ」


 ライアンさんが場を締め、目的のダンジョンへと向かった。

 街から冒険者のために出ている乗り合い竜車(馬車の竜版)に乗り、平原沿いの街道を30分ほどで進むと目的のCランクダンジョンに着いた。

 そこは不自然に盛り上がった小高い丘に洞窟の穴がぽっかりと開き、下へと続く階段が見える。

 その光景に自然と「おぉ……」と気持ちが高まる。

 

 エルクさんを先頭にダンジョンへと入り、石造りの内部を下りた先は広いフロアになっていた。その床には大きな魔法陣が描かれており、その中央に皆で立つ。


「普段僕たちは此処の中層で狩っているんですが、そこで良いですか?」

「はい。邪魔はしませんから見学させて下さい」

「こちらこそ、いざという時頼りにしてますから。んじゃ皆、適当に手繋いで」


 エルクさんの言葉に、魔法陣の中央で輪になる形で手を繋ぐ。私の両隣はローザさんとエルザさんだ。


「んじゃ、いくよ」


 エルクさんが見まわし確認を済ませ一声かけると魔法陣が白く光った。 

 次の瞬間、浮遊感に襲われ、景色は一変した。


「おぉー空がある」


 洞窟内部のはずだが上には空があり、周りは見渡す限り草原だった。ピクニックに良さそう。

 あっ。私お弁当持ってきてないや。まぁ魔法で出せるし良いか。


「此処は見晴らしが良いので魔物を発見しやすく、逆に奇襲も受けづらく良いところなんですよ」

「そうなんですね」

「んじゃいっちょ、俺らが頼れるって所を見せちゃう、ぜ!」


 リュウさんがいきなり駆け出す。その30メートル程下った先にはファンタジーでよく見る二足歩行の豚が3匹程屯っていた。まぁあれがオークだろう。


「あ! リュウ! もう、皆!」


 エルクさんは呆れながら直ぐ様追いかけ、それに続きローザさんとエルザさんも駆けだした。

 走るのは得意ではないが私も続く。いざとなったらオークの頭を魔法でバン! とする為に。


 大剣を構え、叫びながら突進するリュウさんにオーク達も気づき、迎え撃つべく斧や槍を構えた。

 先に間合いに入った槍を持ったオークが先制に鋭く突く。それをリュウさんは大剣を振り下ろして撃ち落とし、返す刃で胴を薙ぐが、それは斧を持ったオークに阻まれる。

 その隙をもう一匹の斧持ちが襲い掛かるが、エルザさんのファイアランスが割って入る。

 オークは態勢を崩し、そこをローザさんに強化魔法を付与されたエルクさんが首を刎ねると光に還った。

 その間に槍持ちをリュウさんが制するのと、残った斧持ちをエルザさんが2発目のファイアランスで仕留めたのはほぼ同時だった。


 そして最後にローザさんが杖を振りかざし、リュウさんの頭をぼこすか叩き始めた。


「馬鹿なの? 馬鹿なの? いきなり駆けだすとか馬鹿なの? この頭の中何が詰まってるの? ねぇねぇ?」

「ちょ、やめろローザ。エルク止めてくれ!」

「自業自得でしょ」


 エルクさんは目もくれずに返答し、エルザさんと一緒にオークからのドロップ品のでかい肉塊や小瓶、黒いゴツゴツした石を拾い、エルクさんの腰の鞄に入れていく。

 明らかに見た目以上に入っているので魔法の鞄の類だろう。

 ということはアイテムボックス系の魔法もありそうだ。


「ねぇアリスちゃん。馬鹿を治す薬しらない?」


 ローザさんが杖で殴る手を止め、私に向き直り聞いてきた。


「とある国では『馬鹿は死ななきゃ治らない』って格言がありますよ」

「そっか。私、蘇生魔法まだ使えないんだよねー。残念」

「残念じゃねぇよ!」

「でも、馬鹿が直るのよ?」


 ツッコミを入れるリュウさんにローザさんは真剣な目で問いかける。というか蘇生魔法もあるんですね。


「わーたよ。悪かったよ。俺が悪かったからそんな目で見ないでくれ。お前が蘇生魔法覚えた日にゃ、俺はおちおち眠る事すら出来なくなる」

「んふふふー?」

「ほんとすいません。飯奢るんで勘弁してください」

「みんなー。今日はリュウの奢りだってー」


 ローザさんの怪しげな笑みにリュウさんは根負けした。これには成り行きを見守っていたエルクさんとエルザさんも苦笑いだ。


「さてそれじゃ転移の登録に行きましょうか」


 そう言ってエルクさん達に案内されたのは草原に只づむ上り階段だったが、それは途中で途切れていた。

 エルクさんがその階段横にある黒のモノリスの横に立ち、私を呼ぶ。


「アリスさん。このモノリスに触れてください。それでこの階層への転移の登録ができます」

「あれ? 私、普通に皆さんと一緒に来ましたけど?」

「転移する人に触れていると登録してない人も一緒に転移できるんですよ」

「あぁ成程」


 エルクさんに従い、私は高さ2メートル程のモノリスに触れる。するとこの世界の文字とは違う白い文字が浮かび上がり、数舜後にすーと消えた。

 これで登録完了らしい。


「それと転移の際の注意点なんですが、仲間同士触れないで別々に同じ階層に転移すると、その階層の別々の場所に飛ばされるので合流が手間になります。場合によってはかなり危険なので気を付けてください」

「はい、わかりました」


 つまり最初に手を繋いでいたのはその為か。私の為だけじゃなかった訳だ。



 その後、このフロアを探索しながらオークや体長5メートルを超える蛇、1メートルほどの蟻等を狩った後、草原に適当に座りお昼ご飯を頂く事にした。

 皆さんはサンドイッチやおにぎりバッグから取り出し、私は昨日食べそこなったクラブサンドを魔法で出した。

 するとエルザさんが羨ましそうに私に話しかけてきた。


「アリスさんやっぱりアイテムボックス使えるんですね。いいなぁ」

「やっぱり?」

「え? だって手ぶらでしたから」


 手ぶらなのは実際何も持ってないからだが、此処は見栄を張ってそういう事にしておこう。

 だって私はBランク。しかも見た目は少女でもアラサーの先輩なのだ。多少は良いところを見せたい。今日特に何もしてないし。


「うふふ。賢いエルザさんにはご褒美です」

「わぁ、ありがとうございます」


 私はプリンとスプーンを魔法で出して彼女に渡すと、嬉しそうに笑顔で受け取った。

 やはり女の子にプリンは鉄板だ。そして早速掬って食べるエルザさんの顔は幸せいっぱいだ。


「私も欲しいなぁ」

「はいはい」


 そしてローザさんにも同じく渡し、エルクさんとリュウさんにも尋ねる。


「お2人はどうですか?」

「いえ。僕はあまり甘いものがあまり得意ではないので」

「俺もどっちかというと肉が良いなぁ」


 という訳でプリンは食べ終えて切なそうにしているエルザさんと、2人が断った瞬間から目を爛々と輝かせて私を見ているローザさんに追加で進呈しといた。



 そして食べ終わるとまた狩りが再開され時間が過ぎていく。




「お、宝箱はっけーん。ローザ」

「はーい」


 草原に適当に置かれた大きな宝箱をリュウさんが見つけた。

 それにローザさんが魔法を掛けると青く光る。


「大丈夫ね」


 その言葉にリュウさんが勢い良く開けると鞄が入っていた。


「お、やりー。これでバッグ2個目だな」

「稼ぎ楽になね」

「私としては宝石とか欲しかったなぁ」

「現金すぎだろ。んじゃこれエルザが使え」

「私で良いんですか?」

「エルクは既に持ってるし、俺は鎧が邪魔だし、ローザは売ってアクセ買いに行きそうだし」

「そんな事しませんー」


 リュウさんの言葉にローザさんが頬を膨らます。


「もうちょっと狩っていくか?」


 エルクさんがバッグから懐中時計を取り出し時間を確認した。


「いやそろそろ時間だし戻ろうか。遅れたら迎えの竜車に置いて行かれるからね。そうなったら街まで歩かないといけなくなるからね」

「そりゃ勘弁だ」

 

 










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