表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/6

ランクB。

 冒険者ギルドロビーでは、突然天井を突き破り降ってきたワイバーンに騒然としていた。

 ギルド職員、冒険者に依頼者。誰もがこの状況を飲み込めず困惑している。


 同じく執務室で仕事中だったギルドマスターのライアンが、建物の揺れと轟音に秘書と共に慌てて廊下に飛び出し困惑の表情を浮かべる。


「何だ、これは……?」


 ライアンの目に飛び込んできたのは無残に荒れたロビーとワイバーンの死骸。

 簡単な相談や利用客の待合兼、併設の酒場のために用意されたテーブルと椅子が壊れ散乱している。 

 そしてロビーの皆の視線を追って天井を見上げると、穴の開いた天井にライアンは唖然とし、次の瞬間更に驚きに目を見開いた。




◇◇◇◇◇◇




 屋根に開いた大穴を眼下に覗くと建物の中は騒然とした様子だ。

 突然ワイバーンの死骸が落ちてきたらそりゃそうなるだろう。

 私といえば、咄嗟に願った『飛んで』により建物の上に浮いていたが、結果は私だけが浮き、ワイバーンが落ちてしまった事に焦っていた。

 死人が出ていませんようにと祈りながら開いた穴からふわりと進入すると、吹き抜けのロビーだった。


 そして私の登場に、

「今度は女の子が!?」

「浮いてるぞ!?」

 と一層騒ぎが大きくなる。


 ロビーは床が抜けてワイバーンが嵌っているし、その周りのテーブルや椅子は壊れ散乱している。

 ワイバーンの横に静かに着地をすると、腰を折り精一杯大きな声で謝罪した。


「ごめんなさい!!」

「は?」


 何故か謝罪に周りの方々は声を揃えて疑問の声が上がり、戸惑っていた。

 顔をあげると改めて周りを見回した。周りは酷い有様だが幸い大怪我をした人は居ない様で、そのことにほっと胸をなでおろした。

 

 次に私が入ってきた穴の開いた天井を見上げ、何とも立派なロビーの天井に、これ修理に幾ら位掛かるんだろうかと不安になる。

 

 というかこれ絶対お金返せないよね? そもそも無一文だし。

 

 今度は別の意味で焦る。

 いきなり借金地獄か塀の中か。いや此処は異世界、最悪奴隷もあるかもと思い至り、私はどうなるんだと一層不安になる。いっそ私の良く分からない力で直らないかなと都合の良いことを願った。

 すると、いきなり逆再生でもされるかのように天井が直ってしまい、そのことに私自身も含め、その場全員揃って戸惑い声をあげた。


「は?」


 今のって私のせい?


「今のは……、嬢ちゃんが?」

「え?」


 呆然としているとを四十歳位の男性に話しかけられた。スキンヘッドで筋肉質の大きな人だ。強面だがジェイソン・ステイサムばりのイケメンである。周りの人達がギルマスと呼んでいるので偉い人なのだろう。服装もキッチリしてデキル男の感じがする。


「違がった……か?」

「あ、いえ……。多分私だと思います」

「そうか……」


 一瞬、心を読まれたのかと焦ったが、そうでは無かった様だ。戸惑いながら答えるとギルマスさんは顎に手を当て渋い表情を作った。


「なぁ、よければなんだが壊れたテーブルや椅子、床も直せたりするか?」

「えっと、やってみます」


 ギルマスさんの言葉に戸惑いながら返事を返し、先ほどと同じよう『直って』と願う。

 すると同じように先程と同じようにテーブルや椅子が直っていく。やはり私の仕業だったらしい。

 そして驚くはワイバーンの死骸がそっと宙に浮き、抜けた床が直った後、静かに置かれた。

 この現象にもう目を点にするしかなく、周りも同じ様子だ。

 

「成程……。サンキュー嬢ちゃん、これで問題なく業務が再開出来るな」


 ギルマスさんにお礼を言われるが、元々私のせいなので何とも居心地が悪い。

 続いて手を叩き注目を集めると大きく通る声で職員に指示を出す。


「ほれ皆、仕事だ仕事。それと、もし依頼人の中で怪我人が居たらポーションを配るから職員から貰ってくれ。あと冒険者はてめぇで治せ」


 その対応の差に冒険者さんからはブーイングが浴びせられた。しかしギロリと一目睨めつけて黙らせていた。


「それで嬢ちゃんにはちゃんとお礼をしないといけないな。此処ではあいつらうるせぇし、俺の執務室で話そうぜ」


 向き直り満面の笑みを浮かべるギルマスさんはそれだけを言うと、返事を待たずスタスタと歩き出した。

 

「さぁこちらです」


 戸惑っていると20歳位の綺麗なお姉さんが私の手を取り、ギルマスさんを追う。

 私としては全て無かったことになった感じだったので取りあえずここを去りたかったが、そうはいかないらしい。

 そして私達がその場を離れると成り行きを見守っていた人達がざわめき始めた。



 ロビーから階段迄移動すると、お姉さんは身長差のせいか手を放し私の後ろに回った。二階、三階と階段を上がり廊下を進むと、先を行くギルマスさんが重厚な扉の前で足を止める。此処が執務室の様だ。


「さぁ入れ入れ」


 ギルマスさんが雑に扉を開けると、さも気安い友人を招く様なノリで招き入れる。

 部屋の中はカーペットが敷かれ、執務机、書棚、来客用の革張りソファー、ローテーブル。見た目と言動との印象とは違い、意外にもその全てが落ち着いた雰囲気の調度品でまとめられていた。趣味は良いらしい。

 ギルマスさんに来客用のソファーを進められ私が腰を下ろすと、ギルマスさんは付いてきたお姉さんにお茶の用意を命じ、ギルマスさんもまた、ローテーブルを挟んで対面する形で腰を下ろした。


「さて、色々と聞きたいが先ずは修理のお礼を言わないとな。有難うよ、嬢ちゃん。んで俺がこの街の冒険者ギルド、ギルドマスターのライアンだ。大抵ギルマスって呼ばれてる。そしてこいつが秘書のマチルダ」


 ライアンさんはお茶の用意を済ませて戻ってきたマチルダさんを指さす。マチルダんさんは笑みを浮かべた。


「よろしくね」

「……私はアリスといいます」


 二人の名前を聞いて、流石に本名は浮きそうだったので咄嗟に偽名を名乗った。由来は自分の恰好からだ。


 マチルダさんが紅茶とクッキーがローテーブルに並べる。

 紅茶の華やかな香りとクッキーの甘い香りに私のお腹がくぅーと可愛らしく鳴り響く。そのことに思わず赤面した。そういえば何も食べて無かったと思い出す。


「なんだ、腹が減っていたのか。遠慮せず先ず食え」

「あ、いえ、あの……」

「お代わりもありますから遠慮なさらずにお召し上がりください」

「あの……、ありがとうございます」


 ライアンさんが気安く勧め、マチルダさんが優しい微笑みで薦めてくる。

 完全にお子様扱いです。はい。

 私は恥ずかしさから俯きながらもクッキーに手を伸ばす。サクサクと音を奏で、二枚、三枚とそれは続く。そして紅茶を飲んで一息ついたのを見計らってライアンさんが口を開いた。


「んであれはウチで買い取っていいのか」

「はい?」

「いや、だからワイバーンだよ。別の街のギルドの依頼じゃないよな?」


 なんのことかと思ったらワイバーンだった。取りあえずお任せすることにした。


「あ、はい。あのお願いします」

「おう、任せろ。マチルダ」

「はい」


 ライアンさんに名前を呼ばれ、マチルダさんが席を外す。多分買取の手続きだろう。取りあえず当面の生活費はこれで大丈夫かなと思ったのも束の間。


「それで嬢ちゃん。いやアリス。アンタ何者だ?」


 楽観視しているとライアンさんの雰囲気がさっき迄とガラリと変わる。明らかに私を不審がっている様子だ。


「この辺でアリスという少女の冒険者の話なんて聞いた事がねぇ。ましてやワイバーンを狩れる程の腕だ。それに子供らしくない喋り方。アンタ本当は幾つだ? 見た目も魔法でごまかしてんだろ? だが俺の目はごまかせんぞ」


 なんだその推理は。確かにアリスは偽名だし見た目少女のアラサーだが。いや魔法が有ればそういうことをする人もいるのか。そしてある単語が頭を過る。


 永遠の17歳。


 しかしどうしよう。キャラでは無いが恥ずかしさを堪えて素直に、「転生者です☆テヘ」とか言った方がいいだろうか? いやそもそも通じるのだろうか? それに厄介ごとに発展したら嫌だしなぁ。うーん……。


 悩んでいると、沈黙をどうやら推理が当たったと勘違いしたライアンさんが肩の力を抜き笑った。


「ふっ。まぁいいさ。人には色々事情もあるだろうしな。んじゃ下に行こうぜ()()()()()


 ライアンさんはワザとらしくお嬢ちゃんを強調し、ニヤリと笑い立ち上がる。


 ぐぬぬ。その言い方がなんか腹立つ。

 でもまぁ、気を使ってくれてるし悪い人じゃないんだろうなぁと、私は頬を緩ませ自然と笑みを浮かべていた。






 話を終えてロビーに戻ると注目を浴びた。何やら勝手な憶測が飛び交っている様だ。それと既にワイバーンの死骸は無くなっていた。

 ライアンさんに付いてカウンターに行くとライアンさんが掌をクイクイと私に向ける。


「ほれ。清算すっからギルドカードだせ」

「すいません。持ってないです」

「一応言っとくが無くしたなら無くしたって言えよ? 初回登録無料だからって登録記録はごまかせんから再登録料はごまかせないぞ。嘘だったら恥かくだけだぞ?」


 あぁそういう人がいるのか。でも私は違う。


「大丈夫です」

「そうか。まぁそんなせこい事する奴にも見えんしな。おーい登録カード持ってきてくれー」


 ライアンさんはカウンターのお姉さんを呼び、私は銀色のカードと針を手渡された。


「んじゃそのカードに血で登録してくれ」


 言葉に従い針をちょいと指に刺し、ぷくりと血が出た指先でカードに触れる。

 すると薄っすらと発光し収まると、血の跡も無い綺麗な元のカードだった。


 それをライアンさんに渡すと、今度はカウンタに―置かれた、幾何学模様の魔法陣が描かれた四角い水晶プレートの上に置いた。そして魔法陣が青く光ると空中にウインドウが現れ、タッチ操作の要領で操作している。


 何気にファンタージー世界は謎ハイテク仕様が多い。

 

「ほらよ。本当に初回だったな」

「疑ってたんですか?」

「ちょっとだけな?」


 ライアンさんは親指と人差し指で少しだけ開けて輪を作り、ウインクをしながら答えた。

 強面なのに中々おちゃめな人だ。


 その後、また執務室に戻りギルドカードについて直々に説明してくれた。

 大抵のお店はギルドと提携していてこのカード1枚で精算できるとの事だった。異世界でもキャッシュレスができるのは便利だ。

 勿論本人以外使えない。その為に血で本人情報と魔力を登録するんだとか。なので万が一紛失してもまぁ大丈夫。その分再発行料が凄い高く、10万ガルド掛かるとのことだ。いまいちピンとこないが、ワイバーンの清算が400万で1年程は楽に暮らせると言われたので10万円位かと思う。

 それにしても銀貨や金貨じゃなく、しかもキャッシュレスとか大変ありがたい仕様だ。


「まぁざっとこんなもんだ。あぁそれと取りあえず嬢ちゃんのランク"B"にしといたから」

「B……」

「有能な奴を遊ばせておくわけにはいかんからな。要はこれからじゃんじゃんダンジョン潜れってことだ」 


 ライアンさんがにやりと笑った。





評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ