最初の天使
ただの興味本位でしかないかった。誰も読んだことのない日記。それを私が一番早く読みたかった。それだけだった。
教室の隅で一人静かに本を読む。人となれ合うことを苦手とする私は友達も好きな人もいない。それでいいと思っていた。自分と友達。どちらが大切かなんて人に聞くまでもない。そんなものはいらない。そんなの私の足を引っ張るだけ。そう思い続けてきた。けれど、心のどこかでうらやましいと思っていたのかもしれない。人とあんなに楽しそうに話したことなんて私にはないから。
「私も一度くらいはあんな風に誰かと話してみたい。」
そんな言葉が私の頭の中に浮かんできた。
いつも通り一人で本を読みながらみんなの会話を盗み聞きしていると面白そうな話を聞いた。
「この学校の近くの魔法高校あるじゃん?あそこの図書館のどこかに「天使の日記」っていう本があるんだって。しかもその本を見つけ出した人、今までに一人もいないんだって。」
どこにでもありそうな都市伝説。いつもは聞き流していた。けれど今日は違う。私の大好きな本。少ない趣味の中の一つ。その話題を聞いた途端私の心は激しい波を打ち始めた。学校が早く終わってほしいと思った。まだかまだかと心待ちにしている私。こんな事今まで一度もなかった。自分でも驚いている。自分はこんなにも興奮できるんだと。
ようやく学校が終わった。私は家に帰らず、すぐに魔法高校に向かった。普通なら入ることが難しいのだが、この魔法高校は私の父が理事を務めている高校であるため、簡単に入ることが出来た。私は走って図書館に向かった。緊張と楽しみ。たくさんの感情が混ざり、私の中はぐちゃぐちゃになっていた。手を伸ばし、扉を開く。
ガチャ
人の気配が全くない図書館なんて初めてだった。自分の足音が響く。
コツコツコツ
図書館全体に響き渡る。その音が心地よくて、聞くのが楽しくて、出すのが楽しくて、私はどんどん進んでいった。私の足で百歩歩いても端まで行けない。そんな広い図書館の中に今いるのは私だけ。そう思うとますます楽しくなっていく。
コツコツコツ
どれくらいたっただろうか。自分の感覚ではもう一時間たっているんだと思っていた。一時間歩き続けられていた自分の体力に驚いた。そんなのんきなことを考えているとあまり良い音ではない音が鳴った。私は驚いて転びそうになった。そして、考える前に足が音の聞こえる方へと走っていた。
タッタッタッタ
どれだけは知っても音の正体が見るからない。もう走れない。そんなことを思ったとき。一つの本が私の目の前に現れた。さっきの音はもう消えていて、私は目の前にある本を手に取った。その時視界が真っ白になった。
「ん、んん・・・」
目を開けるとそこは神殿だった。不安という感情を持ちながらも私は歩いた。少し歩くと祭壇があった。そして祭壇の前に一人の少女が眠っていた。触れようと手をの出した時背後から声をかけられた。
「こんにちは。」
後ろを振り返るとそこには中学生くらいの女の子がいた。そしてこの子は本の中に出てくる天使のような格好をしていた。
「私はノア。第一章の天使。よろしくね。あなたの名前は?」
「わ、私の名前はエレミヤ。に、人間の小学四年生です。」
私が自己紹介するとノアは笑った。
「そんなにかしこまらなくていいよ。これから私はあなたの天使になるんだから。」
私の天使になる?
意味不明なことを言われた。