表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
願いが叶うその時まで  作者: 緑樫
第二章 次の拠点へ
36/36

次の拠点へ 終 その6

「春風!こっちもやべぇ!」

 別のところを見に行っていた拓海から、焦りに満ちた声が届く。

「人工呼吸が有効かもしれない!」

「わかった!」

 まどかの他に同じ状態になっている仲間がいないか周囲を見渡すと、やはり同じような人だかりが拓海のところ以外にもいくつかできていた。

 俺はその全てを回り、倒れたままの人へ人工呼吸を施すよう、その周囲の人間に指示していく。

 そうしてなんとか全員を正常に戻すことができた。

 みんなホッと胸を撫で下ろし、一帯には安堵の雰囲気が漂う。しかしまだ近くでは戦闘は続いているのだ。決して油断はできない。

「みんな!あの敵を視界に入れないようにして!ずっと下を向いたままでいるんだ!」

 まずはこれ以上被害者が増えるのを防がなければならない。

 今回は運が良かっただけ。その可能性だって十分にある。

「全員1度俺の所に集まってくれ!」

 俺の指示通り下を向きながらゆっくりと、時折近くの仲間と軽く衝突しながらもこちらに近寄ってくる仲間たち。

 そうして玄治とスキンヘッドの男以外の全員が俺の周りに集まった。

「この中の誰か1人でもあの敵の金縛りを受けなかった人はいないか?」

 俺の質問に、仲間たちは縮こまりながらもチラチラと視線を左右に動かして周囲の人の反応を窺う。しかししばらくしても名乗り出る人間はいなかった。

 これで俺たちがまともに戦うことはまず不可能、少なくとも全員で立ち向かうべきじゃないことはわかった。

 ならもう俺にできることは1つだけ。

「拓海」

「どうした?」

「ごめん、みんな。少し外す」

 俺は拓海を引き連れてその集団から少し離れる。

「頼みがある」

「!…なんだ」

「みんなを連れてここから全力で逃げてくれ。もう見えなくなったけど、あの集落の人たちが向かった方向に…」

「ふざけんな」

 怒気を抑え込んだような拓海の言葉が俺の話を途中で遮る。

「時間がないのは分かってるだろ?…頼む。拓海しかいないんだ」

「断る」

「分かってくれ。もうこうする以外に、みんなを助ける方法はない」

「なら俺が戦う。今までみんなを引っ張ってきたのはお前だ。最後までお前がやれ」

「それはだめだ。拓海が犠牲になることは許さない」

「そんなんこっちのセリフだ!」

 とうとう声を荒げる拓海。俺の胸倉に掴みかかり、鋭い視線を向けてくる。

「もしお前が本当に心からあいつらの生存を願うなら、お前こそ生き残るべきなんだ。リーダーとしての資質も経験も人望も、お前の方が上なんだから」

「……」

 彼の言葉は素直に嬉しい。だが俺が今までやってきたことなんてたかが知れている。

 それにその気になれば拓海にだって問題なく務まるはずだ。

 なぜならば彼は、俺の働きをいつもすぐ隣で見てきたんだから。

「ちょ、2人とも!喧嘩してる場合じゃないでしょ!?」

 涼真が俺たちの間に割って入ろうとする。他の仲間たちも心配そうな表情で近寄ってきた。

 涼真がなんとか拓海を羽交い絞めにしてくれたおかげで拓海の拘束が解ける。今だ。

「涼真、拓海を頼む」

 その言葉を告げると共に俺は駆け出し、鞘から剣を引き抜いて、そのまま戦いの気配のする方へと走る。

「「っ!」」

「春風!くっそ涼真離せ…!」

「ちょっと待って拓海!今お前までいなくなられたら…!」

 後ろの2人の様子は、詳しくは分からないが少なくとも俺を追いかけてきている気配はない。

 涼真と拓海の他にも、俺の行動に驚き、声を上げるたくさんの仲間たち。

 ふと村で出会ったあの衛士の男の言葉の数々が脳裏に蘇る。

 結局、俺には我慢することが出来なかった。心の中で仲間たちに謝罪をする。

「ああああああああ!」

 大声を上げる。

 奴の金縛りに遭った時の感覚。あれは恐怖だ。それも下手したらショック死しかねない程の。

 しかしながら恐怖とは、自分自身の身を守るために脳が発する警告のようなもの。

 ならば大声を上げることで、一時的に麻痺させることができるはず。

 明らかに分の悪い賭けであることはわかっている。それでも俺は戦う。

 絶対に誰も死なせない。

 敵の姿を視認する。それと同時に襲ってくる金縛り。

「ぁぁぁああああああ!」

 動く。

 鉛でも詰め込まれているんじゃないかと思うくらい身体が重い。

 それでも前へ進める。

 飲まれるな。一度でも飲まれればそこで終わり。

 喉が枯れようと叫び続けろ。

「ああああああああ!」

 迫ってくる白い濁流。それらが細部まで目に映る。

 それは黒みがかった白色をした、無数の人間の腕だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ