表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
願いが叶うその時まで  作者: 緑樫
第二章 次の拠点へ
34/36

次の拠点へ 終 その4

「はぁ…はぁ…はぁ…はぁ」

 一定のペースを保って呼吸を繰り返し、足を動かす。腰に携えた剣がその度に無駄な動きをして少々邪魔くさい。

 集落のあった森を抜け、俺たちはだだっ広い平原のど真ん中をひた走っていた。

 地に着いた足から伝わってくる地響き。

 周囲は多くの人や動物の足音、時折小石を踏んで跳ねる荷車の音などで満たされている。

 前方にいる集落の人々が力強く駆けていく中、俺たちは少しずつ後れを取り始めていた。

 仲間たちの表情が苦悶に歪んでいる。

 全力疾走を続けているというわけではない。長時間の移動で蓄積された疲労で、全身が悲鳴を上げているのだ。

 特に荷物も背負っておらず身軽なはずの身体は、しかしながら少しずつ言うことを聞かなくなり、それでも前に進もうと顔が歪む。

 かくいう俺も限界が近かった。

 それでも俺が立ち止まるわけにはいかない。

 今の俺にできるのは、せいぜいが仲間たちの先頭に立って走り続ける自分自身の姿でエールを送ることくらいなんだから。

 それでも気を抜けば、後ろを振り返ってしまいそうになる。

 後ろに続く仲間たちの背を押したくなる。

 俺は歯を食いしばりながら前を走る人たちの背を追い続けた。




「全員、速度を上げる!伝令役!先頭の連中に急ぎ伝令!化け物の奴急に速度を上げやがった!」

 突如、痩せぎすの男の大音量が周囲に響いた。

 ふざけんな!これ以上どう速度を上げろと!?

 心の中で叫ぶ。もちろんあの男には届かない。

 次第に前との距離が空いていく。どれだけ足に力を籠めようとその差は埋められない。

「何やってる!お前らはその程度か!」

 前方の荷車から顔を出した痩せぎすの男が俺たちに向かって怒号を上げた。

 怒鳴られようと、無理なものは無理。既に体力など底をき、気力のみで身体を動かしているような状態なのだ。

 すると少しずつ前の荷車との距離が詰まっていく。俺たちは当然速度を上げていない。向こうから速度を下げたのだ。

 そうして俺たちの横に並ぶ。

「なんでこの程度でへばれる!?お前らの尻から生えてるそれは飾りか!?」

 俺たちは罵声を発した男に少し視線を送るだけで、特に反応を返せない。

「ああ?…チッ、ほんとに満身創痍じゃねぇか」

 少し驚いたような声音で呟く男。

「おい先頭の!」

 俺のことだろう。視線だけを男に送る。

「この速度だともうじき確実に追いつかれる。わかってんな?」

 追いつかれる。淡々と発された言葉が、ズシリと重くのしかかってくる。

 わざわざ俺に教えたのは、おそらく俺がリーダーだから。

 追いつかれるまでに対応を考えておけということだろうか。それとも…。

「おい、手助けしてやれ。ただ、死ぬことは許さん」

「はい」

 スキンヘッドの男が痩せぎすの男の乗っていた荷車から飛び降りる。安定した着地の後、俺たちとの並走を開始した。

「俺の部下を貸してやる。生き残って見せろ」

 そう告げた直後、御者の人に合図を出した。どんどんと距離を離されていく。

 軽快かつ無表情に走るスキンヘッドの男。

 非常に心強いが、どれだけの力を持っているか把握できていないことに加え、彼が俺の指示に従うかどうかも怪しい。勘定には入れない方がいいか。

 しかし、疲労困憊の俺たちにできることなんて限られている。

 戦って倒す。それができるのならば全て解決なんだろうが、俺たちよりも身体能力が上であろう集落の人間たちが揃って逃げている。高望みだろう。

 重たい足を必死に動かしながら、なんとか思考を巡らせる。

 しかし、まともな対応策など思いつかない。敵の情報が足りなさすぎるのだ。

 どうする。どうする。どうする。

 このまま無策で追いつかれれば、全滅なんてこともあり得る。

 それだけは絶対に阻止しなくてはいけない。例え俺自身が犠牲になろうとも。

 失うのは嫌だ。泣いてる人を見るのは嫌だ。苦しむ人がいるのは嫌だ。

 誰にも死んでほしくない。

 お願いだ。誰か、助けて。

「春風」

 突然の横からの声。反射的に顔を向ける。

 玄治だった。

「来たぞ」

 彼は後方へと視線を送って、それの存在を示す。

 仲間たちが必死に走るその更に後方。地平線付近に何かがいた。

 ここからではまだ距離が遠く、ごく小さな黒と白のモザイクのようにしか見えない。

「1回止まろう」

 玄治の身体が、あっという間に後方へと置き去りになる。

 それにつられて、俺は足を止めてしまった。

 次々と、足を止めていく仲間たち。さすがに牛車だけはすぐには止まれず、ゆっくりと速度を下げて、俺たちよりも10メートル以上も離れた地点でようやく止まった。

 膝に手をつき、必死に荒い呼吸を繰り返す俺と仲間たち。彼らの目もまるで吸い寄せられるように、あの黒と白に焦点を合わせた。

 驚き、しかしながら誰も声が出せない。

 唯一玄治だけが、仁王立ちして敵を見据えていた。

 さすがに肩で息をしているものの、その背中からは少なくとも俺たち程の疲労を感じさせない。

 座り込んでしまう仲間たちが続々と出始める中、俺は玄治の元へと足を動かし、横に並ぶ。

「なんで、止まったんだ?」

 未だ整わない息。それでも尋ねずにはいられない。

「あれと接触する前に準備せんといかんだろ?どうせ追いつかれるんだから」

 落ち着いた様子の玄治。

「戦う気なのか?」

「まぁそれは向こうの出方によるんだけど…。それよりもさ、さっさと指示出してやれよ。準備が必要だって言ったろ?」

 ハッとする。ただ立ち止まって休んでいるだけではいけない。

「みんな!1度牛車の方へ行こう!水分補給しないと!」

 仲間たちを引き連れ、旋回してこちらに近づいて来てくれていた牛車に向かう。

 俺たちは急いで荷台から水の入った木の樽を取り出し、順々に小さな容器1杯分だけ水を注いで一気に煽っていく。

 コップ1杯にも満たない程度の量だが、それでも気力は取り戻せる。

 そうこうしているうちに、少しずつ少しずつ敵の輪郭がはっきりと見えてきた。

 頭まで被った黒い布を翻し、黒みがかった白色の胴体をした化け物。俺たちを完全に認識したのか、まっすぐこちらに向かって近づいてきている。

「全員が水飲み終わったら牛車を遠くに移動させてくれ!」

 牛車の御者である千尋に指示を送る。

 息は整った。けれども全身を包む疲労感はほとんど残ったまま。

 俺は休んでいる仲間たちを尻目に、玄治の元へと走り寄る。

「玄治、お前はいいのか?」

「ああ、大丈夫」

「そうか」

 気付けば俺の横にあのスキンヘッドの男が立っていた。

 俺は今も近づいて来ている敵を見据えた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ