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願いが叶うその時まで  作者: 緑樫
第二章 次の拠点へ
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次の拠点へ 中 その6

 男の発言に、俺たちは顔を見合わせた。

「えっと、ちょっと落ち着いてください。何が大変なんですか?」

「すいません、全てを話している余裕はなくて。あなた方のお仲間もお返ししますから、どうか早く!」

「!仲間って…。もしかしてあなた、ここら辺一帯で通行人たちから盗みを働いている賊の一味なんですか」

「そうです!文句は後で聞きますから、早く!」

 今にも走り出しそうな姿勢で俺たちを急かす男。

「…素直に従うわけないだろ」

 俺は腰に携えた剣を鞘から引き抜き、男に向けて構えた。

 見たところ武器のようなものは持っていないようだが、そんなことは関係ない。

「春風、1回落ち着け。さすがに様子がおかしくねぇか?」

「落ち着いてるし、おかしいのもわかってる。だから剣を抜くだけに留めてるんだ」

「こんなところで争っている余裕はないんです!急がなければあなた方のお仲間も危険なんですよ!」

 相変わらず慌てた様子の男は俺と拓海の会話を遮るように、訳の分からないことを言う。

 そんな男に、拓海は武器も構えないまま少し近づく。

「なぁあんた、頼むから一度落ち着いて訳を話してくれ。別に1から10まで話せってんじゃない、なんで危険なのかだけ、教えてくれればいい」

 拓海の言葉にハッとするような表情をした男。

「…化け物が、私たちの集落に近づいてきているんです。襲われれば、まず全滅する」

 このままでは俺たちの理解を得られないことを悟ったのか、男は努めて冷静な声音で発言をした。

「化け物…か。どうするよ春風」

 振り返った拓海が怪訝そうな表情で尋ねてくる。

「…もう少し質問してみる」

 俺は一旦武器を下ろし、拓海の横に並ぶように前に出た。

「…どうして、俺たちを連れて行こうとするんです?」

「私は領主様にあなた方を連れて来いと言われただけです。理由まではわかりません」

「俺たち全員があなたについて行かなけらばいけないんですか?」

 男の口から気になる単語が聞こえたものの、一旦は無視して必要なことを尋ねる。

「はい。あなた方全員を、その荷物ごと連れて来いと、領主様は仰っていました」

「……」

 罠の可能性は十分にある。

 だが結局のところ、盗賊の集落に行かなければ咲は返ってこないのだろう。

 ならば行くしかない。

「あの、先に戻っていてもらえますか。俺たちだけで行けますから」

「…はい、わかりました」

 少し諦めたように踵を返して去っていく男。

 その後ろ姿をしばらく確認してから俺は振り返り仲間たちに呼び掛ける。

「行こう!」

 俺たちは重たくなった荷物を背負いながらも、小さくなった男の後を追うようにして、左右を生い茂る木々に挟まれた一本道を足早に進みだした。




「はぁ、はぁ」

 息を切らしながら、それでも進む速度は落とさない。

 次第に、盗賊たちの集落だと思われる建物群が見えてきていた。

 もう少しで咲を助けられる…!

 その思いが俺の足を更に加速させる。

「おい、春風!後ろ、遅れてきてるぞ!」

 背後から拓海の声が届いた。逸る気持ちを抑え背後を振り返る。

 確かに、拓海を含む数人以外は俺と大きく距離を開けた地点で歩いており、少し読み取りづらいがかなり疲弊しているように見える。

 完全に頭から抜け落ちていた。深呼吸をして気を静め、立ち止まって仲間たちを待つ。

 突然、大きく息を吐きながら、拓海が肩を強く組んできた。

「…まぁ、お互い落ち着こうぜ。あそこに到着する前にバテてたんじゃ話になんねぇぞ?」

 今も急いでこちらに向かって来ている仲間たちから視線を外さず、苦笑いを浮かべた拓海はそう呟いた。

「…ああ」

 俺も仲間たちに視線を送りながら、この後のことについて思考をまとめる。

 あの男が言っていたこと。

 化け物が近づいて来ているということを俺たちに知らせた理由はなんだ。

 俺たちの戦闘能力を当てにしているということだろうか。

 それならばなんとかカケルたちを説得して連れてくるべきだったかもしれない。

 あの男の発言に信憑性もあったものではないため、ただの時間の浪費になってしまうことを恐れてカケルたちには声をかけなかった。

 このことが仇とならなければいいが。

 そうこうしているうちに、遅れていた仲間たちが追い付いて来ていた。

 やはり疲労は相当なもののように見える。

「ごめん、みんな!ここからは歩くペースを落とすから、もう少しの間頑張ってついて来てほしい!」

 膝に手を突き、息を切らしている人間がいる中、願うように発破をかける。

 そんな俺の思いが通じたのか、気力を振り絞り身体を起こす仲間たち。

「行くか」

「ああ」

 拓海が俺から離れると同時に俺たち2人は身体を反転させ、遠くに見える建物群を目指す。

 なんとか頭を冷静に保ち、時折後ろの仲間たちの様子を見ながら歩く速度を調整して前へ。

 後ろから聞こえてくる仲間たちの足音を常に気にしながら前へ。

 どんどんと重くなっていく両足を、それでも前へ。

 目的の場所は、もうすぐそこだ。

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