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願いが叶うその時まで  作者: 緑樫
第二章 次の拠点へ
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次の拠点へ 中 その5

 とうとう来たか…。

 カケルの言葉を聞いた瞬間、俺は悟った。

 ジンガの村出発前以降、今の今まで鳴りを潜めていたカケルが、ここにきて例の宣言通り非協力的な姿勢を見せた。

 周囲からひそひそと言葉を交わす様子が目に入る。

「お前、こんな時に何言ってんだ!」

 座り込んでいた弘一が立ち上がり、人を掻き分けてカケルに近づいていこうとする。

「ちょっ、弘一ストップ!」

 慌てて弘一を止めるべく俺が一歩踏み出したその時、彼の隣に座っていた真由がすかさず弘一の腕を掴んだ。

「待って弘一」

「なんでとめんだよ!?あいつには1回ガツンと言ってやんねぇと!」

「落ち着け弘一、真由の言う通りだ。そんな態度で何を言ってもカケルには響かないよ」

「でも、だったらどうすんだよ春風!なんかいい方法があんのかよ!?」

「いや、それは俺にも分からない」

「だったら!」

「それでも、一方的に押し付けるだけじゃダメなんだ。それじゃ奴隷と変わらない」

 俺はカケルに視線を移す。

「なぁカケル、お前戦闘時だけは協力するって言ってくれたけど、それはどうなるんだ?向こうで戦闘が起こる可能性は十分にあるだろ?」

「今回の戦闘はあんたたち次第で十分に回避できるものだ。俺たちの荷物まで盗られる恐れがある以上、俺たちはあんたたちと一緒には行けない」

「それならこの機会に俺たちに借りを作っておくっていうのはどうだ?お前たちだけじゃどうしようもないような問題がいずれ出てくるかもしれないだろ?」

「必要ない」

「そう…か」

 借りなんて仲間内であまり作り合うようなものではないとは思いつつ提案してみるも、すげなく却下されてしまった。

 有効そうに思えたが、迷う間すらないか。

 出鼻を挫かれたような気になり、つい目を泳がせてしまう。

 そうしてカケルの後ろに座っている4人、カケルとほとんど常に行動を共にしている彼らに視線が行った時、彼ら全員が俺の方を全く見ていないことに気付く。

 顔を伏せていてその表情が読み取れない者。我関せずといった風にそっぽを向いている者。

 そしてその誰もが、どこか怯えを帯びているように見えた。

「なに?」

 俺の視線を遮るように、カケルが自身の身体を横にずらして俺の方を睨みつけてくる。

「ああ、いや何でもない」

 俺は慌てて視線をカケルへと向ける。

「ならもういいだろう、話は終わりだ。あんたらは自分たちの仲間をさっさと助けに行った方がいいんじゃないか?」

「…そうだな。みんな頼む!今は咲の奪還に集中してくれ!」

 俺はそう言い仲間たちのカケルに向いていた非難の感情を直近の最大目標へと向けさせる。

「それじゃあみんな!出発しよう!」

 俺の号令にカケルたちを除いた面々が一斉に動き始める。

 手早く荷物をまとめて背負い、地図に書かれた吊り橋を目指して俺たちは歩き始めた。




 出発してから数時間後、その吊り橋の手前まで来た俺たちはその吊り橋を目の当たりにして息を呑んだ。

 老朽化が激しいというわけではない。

 しかし、木でできたそれは日本で見たようなものに比べてあまりにも頼りなかった。

 1枚の木の板を並べて作られた足場には、1枚毎に人1人くらいならそのまますっぽり下まで落ちてしまいそうな間が空けられており、そんな足場の下はそのまま谷底の川、落下防止用ネットのようなものは一切設けられていない。

 加えて全体的な造りもチープというか、有り合わせで作ったかのような印象を受ける。

 俺は仲間たちの方へと振り返り、一旦息を吐き出して気持ちを整える。

「俺たちはこれからこの橋を渡り、向こう側にある盗賊の集落であろう場所に行って咲を取り戻す。ただその際、俺たちがこうして旅を行うために用意してきた物資を奪われることになるだろう。そうなれば旅は続けられず、下手すれば野垂れ死ぬこともあるかもしれない。…それでも俺に、ついて来てくれるか?」

 咲と同じサークルメンバーである俺たち以外の仲間たちと咲との付き合いは、この世界に来てから始まったもの。期間にして約2か月。

 そんな短い付き合いの人間に命を懸けられるのか。

 こうしてここまで文句を言わずについて来てくれた仲間たちの中に、本心では望んでいない人がいても不思議ではないだろう。

 そんな人たちにまで犠牲を強いる必要はない。

 互いに顔を見合わせ、何か相談し合うような様子を見せる者たち。既に答えは決まっていると、俺の方に視線を送ってくれる者たち。

 今は迷っている者たちの決断を悠長に待っているだけの時間がなかった。

「…それじゃあまず、俺が渡ってみるよ。みんなは待ってて」

 俺は牛車から自身が持てるだけの荷物を下ろして背負うと、吊り橋に手をかける。

 耐久性等を確かめるためにも、ひとまず俺が1人で渡ってみよう。

 風に揺られ、ギシギシと音を立てている吊り橋。その足場の板に右足を乗せてみた。

 板が軋む音に加え、橋に使われている木材たちを繋ぎ、支えるための縄がピンと張る。

 そのまま左足、右足と踏み出して進んで行く度に、足元が揺れ、恐怖心を煽るような音が響いた。

 それでも俺の足は止まらない。次第に歩調を速めていき、地面へと足を着いた。

「1人ずつなら問題なさそうだ!」

 俺は向こう岸で待つ仲間たちに声を張り上げる。

 距離も遠く、風の音や風に揺られる吊り橋が軋む音などでこの声がちゃんと届くかは疑わしいため、大きく身振り手振りしながら伝える。

 なんとか俺の意図が伝わったのか、吊り橋に1人足を踏み出す者が見えた。後続もいない。

 そうして俺たちは1人ずつ吊り橋を渡り、数十分かけた後カケルたち以外は全員こちら側まで無事辿り着いた。

 迷う素振りを見せていた者たちも結局、俺について来てくれる気らしい。嬉しい気持ちと同時に、少し申し訳ない気持ちになる。

 そして、やはりカケルたちは吊り橋を渡る気はないようで、その手前に既に腰掛けていた。

 そんな様子に苛立ちを露わにする仲間たちを諫めつつ、地図を広げて次の目的地を確認しようとしたその瞬間、背後から微かに音が響いてきた。

 だんだんと近づいてくるそれは、俺たちに呼び掛けているかのような、それでいてその声の主の焦りのようなもの感情が伝わってくる声音。

 振り向くと、遠くにこちらに向かって手を振り上げながら駆けてくる1つの人影が見えた。

 次第に輪郭がはっきりと、がっしりとした体格の男性であることが分かるようになってきたあたりで彼の声もちゃんと耳に届くようになってくる。

 他の仲間たちもその声の主の方へと身体を向け始めた。

 そうしてその男は俺たちの数メートル先で足を止めると、慌てた様子で口を開いた。

「大変なんです!今すぐ私について来てください!」

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