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願いが叶うその時まで  作者: 緑樫
第二章 次の拠点へ
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次の拠点へ 中 その4

「くっそ!」

 木の幹を、腹の底に溜まった混沌の全てをぶつけるように殴りつける。

 振動は幹を伝い、枝葉を僅かに揺らした。

 木に接触している右拳がじくじくと痛む。

 自身の行動に対する後悔の念が溢れて止まらない。

 仲間が攫われないために講じた策のはずの2、3人で組んでの見張りであったが、その発案者自身がこの体たらく。

 そして、何よりも新見咲という人間がいなくなったことの衝撃が俺を襲っていた。

 今度は左拳を思い切り木の幹に打ち付ける。

 それでも全身を駆け巡る熱は一向に収まらない。もう既に痛みなどどうでもよくなっていた。

「落ち着け」

 背後からその言葉と共に、再び拳を叩きつけようと後ろに引いた俺の右腕を誰かが掴んだ。

「…少し1人にしてくれって言ったろ」

 掴まれた腕を引き離そうと力を入れる。その腕を、俺が加えた以上の力が後ろに引っ張った。

 直後、右頬に衝撃が走る。

 じわじわと口の中に苦みが広がっていく。その苦みの本を地面へと吐き出しながら俺は目の前の男を睨みつけた。

「なにすんだよ」

「なにすんだじゃねぇ。お前こそ、こんなとこでなにやってんだ」

 落ち着いた様子の拓海のその視線につい目を反らす。

「…いいから、今は1人にしてくれ」

 そう言い背を向けようとするも、再び拓海の静止が入った。

「なんなんだよ!いいからほっといてくれ!」

 つい苛立ち声を荒げる。そんな俺の姿を拓海は静かに見据えたまま。

「なぁ。今あっちで、俺たちの仲間がどうなってるかわかるか?」

「わかってるよ!でも今は!」

「いや、お前はなんもわかってねぇよ。あいつらは今、咲が居なくなったってんで動揺してんだぞ。それなのにリーダーであるお前がこんなとこいてどうする」

「リーダーだからこそ!俺は1人でここにいたいんだ!」

「まぁ確かに。お前のこんな姿、他の連中に見せりゃあ場は更に大混乱だろうな。それで?お前のそれは一体いつ終わんだ?咲がひとりでに帰ってくるまでずっとそうしてるつもりか?」

「それは…」

「咲が無事帰ってくるまで、お前のそれはどうせ収まりやしない。だったら、一刻も早く咲を取り戻すために動けよ」

「……」

 言葉が出なかった。全身を駆け巡る熱は、拳を血だらけにしてもなお少しも弱まっていない。

「行くぞ、リーダー」

「…ああ」

 踵を返して歩いていく拓海の後に続くように、俺はあの明かりのもとへと歩き出した。




「まずはみんな、ひとまずテントの中に戻って睡眠をとってほしい。ただもちろん見張りは必要だから、平常通り行ってくれ。これからのことについては明日の朝知らせる」

 一旦場を落ち着かせた後、俺はそれだけをみんなに伝えた。

 日中蓄積した疲労をとるには睡眠しかなく、疲労困憊の中咲の奪還に動いたところで更なる危険を招きかねない。

 犠牲者は1人も出ていないという情報に、今は縋るしかなかった。

「春風、お前寝付けるのか?」

 拓海が耳元に顔を寄せて小声で囁いてくる。

「いや、まず無理だな。何か作戦でも考えておくよ」

「はぁ、こればっかりは仕方がないか…。あんま動き回らず、身体だけでも休めておけよ」

「ああ、わかってる」

「…その言葉、どこまで信用していいんだか…」

 そう不満そうに呟きながらも、拓海はテントへと向かっていく。

「春風君」

 拓海の後ろ姿を見送っていると、横から声がかかった。

「千尋?どうかした?」

「手、出して」

 有無を言わさないその迫力に気圧され、俺は黙って彼女の前に自身の手を晒す。

 暗がりで隠せていることを願っていたが、どうやら彼女にはバレていたらしい。

 俺の拳は、硬い木の幹に正拳突きを食らわせてやったために、接触した間接の部分が所々裂け、滲み出た血が赤黒く固まっていた。

 千尋は手首の辺りをむんずと掴むと患部に自身の掌をかざして治癒魔術を使用し始めた。

 あっという間に拳の傷口が塞がっていく。

「次」

 短くそれだけ発する千尋。治療が済んだということらしく、掴んでいた俺の手首を放してくれる。

 俺は治療の済んだ右手を下ろし、もう片方の拳を千尋の前に持っていく。

 それを再び黙って掴んだ千尋は黙々と治療を施していく。

 少ししてもう片方の治療も終わったらしく、俺の手首を握り締めていた左手の力を抜いた。

「ねぇ、春風君」

「…はい」

「怪我したら隠さないで。絶対に私に言って」

「…はい、すいません」

 つい謝罪の言葉が口を衝いた。

 彼女と知り合って1年と数か月。こんなにも怒る姿を見たのは初めてだった。

 



 やはり昨晩は寝付くことはできず、月明かりの下、涼真から再び受け取っていた例の地図を広げながら、どう咲を取り戻すかについて夜通し考え続けた。

 皺の寄ってしまった地図を折り畳み、起床してテントの中から這い出てきた者たちと協力して出発の準備を整える。

 テントを仕舞い終わり、全員が出発の支度を整え終わったところを見計らい、全員に集合をかけた。

「さて、これからについてなんだけど…」

 その場に座り込む仲間たちの視線が集中する中、俺は彼らの前に立ち、昨晩決めたこれからの方針について話し始める。

「この地図によると、俺たちが今いるこの崖上の一本道をずっと道なりにいけばそこの崖の向こう側に行くための吊り橋が架かっているらしい。だからひとまずはその吊り橋の手前まで行こうと思う。そしてその後もこの地図に従いながらこの地図が指し示す地点に向かうんだけどその後のことはまた、吊り橋に差し掛かったあたりで話すよ」

 多くの仲間たちが俺の話に耳を傾け、咲を助け出すことに一致団結しようという雰囲気の中、ここまで全く口を出してこなかったとある男が口を開いた。

「あのさぁ、1ついいか?」

「カケル…?どうした?」

 カケルの声に俺が反応すると、カケルは立ち上がって俺を見据えた。

「俺たちは今回の件に関して、あんたたちに協力はしない。あんたたちが戻ってくるまでその吊り橋のあたりで待たせてもらう」

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