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願いが叶うその時まで  作者: 緑樫
第二章 次の拠点へ
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次の拠点へ 序

 宿の自室。いつものベッドの上で、普段よりも少し早い時間に目が覚める。

 窓の前に立ち、朝の日差しを一身に浴びながら身体を伸ばす。

 今日はこの村出発の日。

 もちろん不安は山ほどあるが、それらが全て解消されるまでこの村に留まっているというわけにはいかない。

 気を引き締めてかからなければ。

 俺は手洗い場にて顔を洗うと、布で水気をしっかりと拭き取り部屋を出て食堂へと向かう。

 食堂には既に玄治の姿があった。

「相変わらず早いな」

「おう、春風か。そう言うお前だって結構早いじゃねぇか」

「まぁね。リーダーである俺が遅刻なんてしてたら目も当てられないよ」

「はは、それも面白れぇけどなぁ」

「いや、笑いごとじゃないでしょ」

 玄治と他愛ないやり取りをしながらも、受付にて食事を受け取って空いている席に腰を下ろす。

「そういえば玄治。新しい槍の使い心地はどう?」

 俺は自分の食事に手を付けながらそう尋ねた。

「特に前と変わんねぇよ。そういう点は考えて選んだからな」

「そっか、それなら安心だな」

 玄治の持つ戦闘スキルはこれからの旅路においても鍵となるもの。それが損なわれようものなら、今日この村を出発することも考え直さなければならないところだった。

「おいおい何言ってんだ。お前が一番大変なんだぜ?油断はすんなよ?」

「うん、わかってるよ。精一杯やる」

「…結構余裕そうだな。例の盗賊の件、なんか対策でもあんのか?」

「ううん、特には。ひたすら陣形を固めて周囲を警戒し続けるしかないと思ってる。玄治はなんかある?」

「いや俺も何も。経験やら知識やらがなさすぎて、効果的な対策の立てようがねぇよ」

 この村にて、盗賊の被害に遭った人間を中心に聞き込みをしてみたものの、得られた情報といえば、盗賊たちが西の国由来の人間であること、特に重装備であったわけではないということ、あまり好戦的なく、剣を交えることさえないまま物資のみを上手く騙し取られたことなど。

 所謂、知略、謀略の類を武器に戦う連中らしい。

 俺たちが今までやってきた鍛錬が全く活かせない可能性があるのだ。

 まぁ血が流れないというのは、こちらとしても望むところではあるのだが。

「それでも俺たちでできる最大限のことをするしかない」

「まぁそうな」

 そうして双方黙りこくってしまう。

「おう、どうした。なんか辛気臭さそうな顔してんな」

 俺たちの沈黙を破る、拓海の元気な声が横から飛び込んできた。その後ろには涼真もいる。

 拓海は俺の隣の席に着き、涼真は玄治の隣の席に座った。

 これでいつもつるんでいるメンバーが勢揃いとなり、その後は他愛もないだらだらとした会話が穏やかに食事終わりまで続いた。

 食事を終え、一度自室にそれぞれ戻ってから、今度は準備しておいた荷物を背負って宿のフロントに集まる。

 それから俺たちは村長の家へと向かった。

 村長の家の扉の前に到着し、扉をノックすると、中から返事と共に、足早な足音が聞こえてくる。

 しばらくして目の前の戸が開き、扉から村長が顔を出した。

「ああ、どうも。牛車の方、既に村の門の辺りに移動してありますので、行きましょうか」

「はい」

 先を歩いていく村長の後に続いて俺たちも進んで行くと、村長の言っていた通り、門を少し出たところに牛車があり、その近くにその牛車の元所有者の人が立っていた。

「どうも、お待たせいたしました」

「ああ、村長さんに旅のお方たち」

「すいませんね、わざわざこんなところまで」

「いやいや、私にも彼らの見送りをさせてもらおうかと思っとったところですんで」

「おはようございます」

 俺たちについての話題も出てきていることだし、ひとます俺も挨拶をしておく。

 この人にはこの数日間、牛車の扱いについて色々とお世話になった。礼儀を欠いてはいけない。

「やあハルカさん。今日はいい旅日和ですなぁ」

 俺たちの天上に広がる青空を見上げにこやかにそう告げる。

「しかしこの頃この先の道にて賊が出没するとか。どうかお気を付けて」

「はい、お気遣いありがとうございます」

 そうして俺が彼らと言葉を交わしていると、だんだんと背後が騒がしくなってきた。

 振り向くと、仲間たちが続々と集まって来て、談笑している様子が目に入った。

「おっと、お仲間さん方が集まってきましたね。そろそろ出発ですかな?」

「ええ。全員集まったことが確認でき次第出発する予定です」

「なるほど。それでは私は少し下がっておくとしましょうか」

「ああいえ、お気になさらず。他の者に任せていますので」

「そうでしたか。それではこの年寄りのつまらぬ話にもう少しお付き合い頂けますかな?」

「はい、もちろん」

 俺はしばらくの間、目尻に深い皺を作りながら話すこの人の言葉に耳を傾け続けた。




「おい、春風。全員集まったぞ」

 拓海の呼びかけが俺の耳に届く。俺は振り返り、了解の意を示した。

「さて、そろそろ出立の頃合いですかな」

「はい、そのようです。…短い時間ではありましたが、大変お世話になりました」

「はは、このくらい。あなた方から頂いたご恩に少しでも報いることができたのであれば幸いです」

 そうして俺たちはにこやかに握手を交わす。

「村長さんも、色々良くして頂きありがとうございました」

「いえ、お礼を言われるようなことはなにも。…それよりも、これまでの数々の非礼、ここにお詫び致します」

 村長が深々と頭を下げた。

「いやいや、非礼なんてとんでもない。…あなたはあくまでこの村を守ろうとしただけ。俺はそれを間違ったことだとは思いません」

「…そう仰っていただけると、私としても心が軽くなる思いです」

「それはよかった」

 俺は村長に微笑み返して一礼し、その場を移動する。

「拓海」

「おう春風」

 俺は拓海の隣に立ち、呼吸を整える。

「みんな聞いてくれ!」

 俺の大声での呼びかけに、一斉に視線がこちらに集まる。

「俺たちはこれからここを発ち、次の拠点となる場所へと向かう。道中には、既に伝えた通り厄介な敵との遭遇が予想されるが、決して怯むことはない。仲間と共に敢然と立ち向かい、絶対に乗り越えよう」

 仲間たちの間で高まる緊張感と、それ以上に満ち満ちる活力と意思。

「行くぞ!」

 俺の掛け声に続き、仲間たちの雄叫びが上がった。

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