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僕の全ては誰かの記憶。  作者: 荒崎 皐月
3/3

外の景色。


何度か扉をくぐり、かなりの年季を感じるエレベーターに乗った僕は、今までいたのが地下2階だったと知り驚いた。


どうりでどこもかしこも、温かみのない無機質な光りしか漂っていなかったわけだ、と僕は思った。


僕と車椅子を押している男と他に2人の男が乗り込むと、エレベーターは結構な密度になり、他の者たちを残して扉が閉まった。


最後に乗った背の高い比較的ーあの男の集団の中ではー若めの男が、大げさに大きな音を立てて"2階"のボタンを押した。


エレベーターがゆっくりと上がっていく機械音だけが響き、誰かが唾を飲み下した音がとても大きく聞こえた。


やがてチーン、と場違いな音が鳴り響き、扉が怠そうに二階の廊下を覗かせた。


先程の長身の男が最初に降りエレベーターの扉を手で押さえて、どうぞ、というような顔を僕たちに向けた。


男達が軽く礼を言いながらエレベーターを降りたので、僕も一応頭を軽く下げた。

長身の男は、すごく不自然に口角を上げて笑顔に似せたような顔をした。




窓のある廊下に出て、僕はある意味では初めて外の景色を見た。


そこから見える森はどこまでも広がっており、生い茂った木々の緑はあまりにも濃い色だった。

まるで深緑色のペンキを空から撒いたような、そんな色がどこまでも続いていた。


この建物の付近は、少しだけ舗装されてなんとか道にはなっていたが、自然の中にできた獣道をほんの少し綺麗にしたようなものだった。


土が慣らされただけの土地だが、車が多数駐車されており、その中には外車などの立派な車もあるくらいだった。


自然の真ん中に外車……。

奇妙な光景ではあったが、この施設はそういうところなのだと僕は割り切って眺めていた。


というのも、僕の頭はとっくに限界容量を突破しており、正常に物事を認識できているかすらわからない状態だった。


「外が気になりますか?」と車椅子を押していた男が突然微笑みかけてきた。

僕は頷いて、それからも窓が続く限りずっと外を眺めていた。




「この辺りには昔小さな集落があったんだが、30年以上前に廃してね」と、唐突に長身の男が窓の外を見ながら話し始めた。


「老人ばかりの集落でね、ある日起こった火災で半分もの民家が焼けてしまったんだ。

必死の消火活動、といっても老人と数名の若者ではどうにもできず、大勢の人間が焼け死んでしまった。

生き残ったものたちは、集落を捨てて新しい街へ移住することを決めて出て行ったそうだ。

この森で人が集まるのは、それ以来この施設くらいなものだ。だからね、ずうっと先まで森が健やかに広がっているんだ」

そう言って男は、果てしない何かを見据えるように目を細めた。


「人間の手が届いていない自然は素晴らしいものだろう? それとともに、我々人間など虫けら同然のように呑み込むパワーがある。この森は生半可な気持ちで入ってはいけないよ。何人もの人間が、この森に入って戻ってはこなかったんだ」

口角を吊り上げ、腹の底で笑っているような顔で僕の顔をギロリと男は見下ろした。


僕は背筋がゾクッと寒くなって、思わず足元へと視線を落とし、早くなりかけた鼓動を落ち着かせようとゆっくり呼吸を繰り返した。


そうこうしているうちに、僕ら4人は僕が収納されるらしい部屋の前までたどり着いていた。

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