9話
ユミル大陸の大まかな地図を手に入れた、ボク達がこれから向かうのは大陸北西に位置する場所にある、ユミル帝国の帝都レッドキャッスル。
リッタ大森林を迂回するように北上してから西に少し進めばいいみたいだ。
不穏な気配のある軍国プラネタリアには近寄らないことにしよう。
「あの、ギルドマスター」
「問題ない、入りたまえ」
ある程度情報も集まったのでそろそろ移動しようとユリィに視線を向けた時に、控えめなノックとギルドマスターを呼ぶ声が聞こえた。
魔法課のウサミミ受付嬢が赤い色のカードを持ってきていて、部屋に入るとギルドマスターに渡して出ていった。
「ヒカリさんのギルドカード………この問題が残ってましたか」
「問題?」
「えぇ、いくらヒカリさんが剣士と言ってもカードが出来てしまったので、所属は【サウザンド】ギルド、魔法課ということになるんです」
「それが何か?変えれば問題ないんじゃ?」
ギルドマスターはコウメイを見ながら溜息をついた。
「ヒカリさん個人の魔力を登録してあるので変えることは出来ないのです………しかも赤、つまりは駆けだし扱い冒険者」
「ヒカリ姉ちゃんの実力で駆けだしって詐欺みたいだね」
よく詐欺って言葉知ってたねゼノ。
「その通りです………私の権限である程度なら、上のランクでも受けれるように手配しますけど、限界はあるので早々にランクを上げていただきたいのですが………」
「えー、別に興味ないし」
「ですよね………はぁ、仕方ないですね、コウメイ君、キミはこれからヒカリさん達に協力しなさい」
「っな」
「しばらく案内業は禁止ですよ………確か帝都までに手頃な依頼があたハズです、ついでに受けてヒカリさんのランクアップを手伝いなさい」
「………おい」
「もちろん、ヒカリさん達の邪魔はしちゃいけないですよ………これが今回の罰です」
「わかったよ………」
コウメイはまだ不満そうだったけどギルドマスターに圧されてボク達についてくることになった。
「というわけで、ユリアーナ様のご要望の冒険者はコウメイ君をつけます」
「はい、わかりました。後2名ほど手配してもらえますか?」
「だそうだ、コウメイ君。人選は君に任せる………帝都方面に行っても良くて、秘密を守れる冒険者を2名つけてくれ」
「となると、あいつらか」
コウメイは追加メンバーを探しに行った。
これでこの街でやることはすんだ。
後は宿でもとってコウメイが合流したら出発だろう。
「あの………」
「ん?どうしたのゼノ」
話が終わったから移動する流れになったところでゼノが声をかけてきた。
「ボクも冒険者になりたい………です」
「なんで?」
「ユリィ様達は、ボクを置いて行くつもりだったんじゃないですか?」
「それは………」
ルメリア国からサウザンドまでは逃げ出す為だったからいいけど、こっから先は………ボクは元の世界に戻る為に、幻獣を退治しないといけない。
この世界の人の幻獣に対する認識は災害であって、討伐するものではないのだ。
遭わなければいいのに、自分から遭いに行き、帰る為に退治する………それに、ゼノを巻き込んじゃいけないよね。
「ゼノ………」
「ついてくるにしても、置いて行くのにしても、冒険者になっとくのはいいと思いますよ」
「ユリィ?」
「ここでゼノを置いて行っても、私達が見てないところで無茶されたらどうするんですか?………ヒカリにはアレがあるでしょう」
ヒカリが言うアレはスキルの限界突破だろう、ボクが帰ったあとも幻獣に対抗出来るようにゼノを育ててみようか
「わかったよ………でも無茶はダメだよ、帝都まで行く間にダメそうだと判断したら諦めてもらうからね」
「ありがとう、ヒカリ姉ちゃん、ユリィ様」
「ゼノの登録をお願いします」
「わかりました………一応幼い子だと適正をみたいので試験を受けてもらいます」
「ボクも受ける?」
「ヒカリさんは………受けたかったら構いませんよ」
ギルドマスターから赤い色したカードを受けとる。
駆けだし冒険者になってしまったボクが、いまさら受ける意味はないんだけど、試験内容が面白かったらやってみてもいいかな。
そんなことを考えながら地下にある訓練場へと向かった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「ゼノ君は、冒険者とはどういう者かわかっているかな?」
「魔物から人々を守るために戦う者だと思います」
「そういう面もあるけど、それなら騎士や兵士でもいいよね」
「………じゃあ、いろんなところに行くとかですか?」
「ゼノ君がどんな冒険者になりたいかわからないが、国に縛られずに自分の身体だけで生活するのが基本だよ」
「はい」
「我々、冒険者ギルドは冒険者を権力者から守る………それは冒険者の立場、信頼、信用など先人達が積み上げてきた事を守ることでもある」
「はい?」
「難しいことを言ってしまったかな………つまり評判を落とすようなことはしないで欲しいってことだよ」
「わかりました」
途中から理解しようとするのにいっぱいいっぱいなゼノに、心構えや決まりごとを教えていく座学が終わる。
次は実技だ
「カゲロウ君、頼むよ」
「はい………ゼノ君だったか、私に一太刀入れてみようか」
カゲロウと呼ばれた試験官はゼノの動きを見たいのか実戦を提案してくる。
「あの………」
「何かな?」
「ゼノは病み上がりだから、考慮していただけると」
「了解した………さぁ、はじめようか」
カゲロウ氏と向かいあったゼノは気持ちを落ち着かせるように、深呼吸をするとカゲロウ氏へと突撃した。