7話
仕事終わった
サウザンドの冒険者ギルドで、ギルドマスターを呼びだしたユリィはギルドマスターと移動していった。
ボクはこの世界の事を調べるために、ユリィについて行かないでロビーの近くのテーブルへとゼノと向かった。
「ヒカリ姉ちゃん、どうしたの?」
「とりあえずゼノはここで待っててね」
「うん?………待ってればいいの?」
「そうだよ、頼んだよ」
ボクの目的をイマイチわかっていないゼノを空いていたテーブルに座らせる。
情報収集となる拠点は確保できた、次は………。
「ん?」
視線を感じて周りを見れば、こっちを興味深く見守ってる視線があった。
下心がある感じではなく、どちらかというと心配してるような生温かい視線の主に手を振っておく。
心配しなくていいよと、意味を察知したのか手を振りかえしてから視線が外れる。
まずはこの世界の地図、冒険者は様々な仕事を受ける。
商人の護衛とかで各地を回ったりするから地図くらいはあるだろう。
国とかお金、歴史を知っておきたい。
知識は武器になるからね。
調べる事を決めたボクは、テーブルから近いところのカウンターに向かった。
「そっちじゃないぜ」
受付カウンターに向かったボクを呼び止めたのは、案内人と呼ばれた男だった。
はて?カウンターごとに何か決まりがあるんだろうか?
ユリィが声をかけたウサミミ嬢、真ん中に案内人が声をかけた受付嬢がいて、その隣に眼鏡を掛けた美形の男性、そして近くの犬耳嬢。
「何が?」
「こっちだ」
こちらの疑問に、ウサミミ嬢の方を指して言った。
犬耳嬢は担当が違ったようだ。
ボクが行くとウサミミ嬢が薄い金属板のようなものを渡してきた。
光沢があり、鏡面仕上げのようにつるつるしてる面にはボクの顔が映りこんでいるだけで何もかかれていない。
これをどうしろと?
「文字は書けるか?」
「?………出来ないよ」
どうすればいいのかたずねようとしたところで質問がきた。
ボクはこの世界の言葉でしゃべっているみたいだし文字も読めるけど、ミミズがのたうったような文字は書けないと思う。
「属性は、そろそろだな………お嬢ちゃん名前は?」
「人の名前聞くには、まず自分からっ!?」
持っていた謎の板から赤く光る玉が出てきた。
「俺の名はコウメイ、【サウザンド】で案内業を営んでいる………火か」
「ボクはヒカリ………この玉ってなんなの?」
「ヒカリ………っと、この玉は属性の!?」
コウメイが言いかけた時に、板から水の玉、緑の玉、白い玉、黒い玉、光ってる玉が出てきて6色の玉がボクの周りを回っている。
その光景を見てギルド内にいた人が全員目を見開き固まっている。
これはかなりマズイ状況ではなかろうか?勝手な事をしてくれたコウメイを睨む。
「お前達、どうした?」
「あら、ヒカ………リ?」
聞きたくなかった声が背後から聞こえてきたのに振り向くと、話が終わって降りてきたであろうギルドマスターとユリィがボクの周りを回っている玉を見て固まるところだった。
………ボクは悪くないと言いたい。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「………やってくれたな、コウメイ」
「すまなかった」
即座に箝口令がギルドマスター権限において発動した。
事実確認の為にギルドマスターの部屋へと行くことになり、あの状態になった流れを説明した。
ボクが地図を求めて近付いた犬耳嬢は戦士課の受付嬢らしかった。
冒険者ギルドは建物内で戦士課と魔法課に別れており、仕事の傾向が別れているようだ。
魔法課の仕事に図書館での力仕事があったりグレーなのもあるようだが。
つまり、コウメイさんは冒険者ギルドに来たけど依頼をしないでテーブルにゼノと座ったところでボクを冒険者になりに来た子だと勘違いしたらしい。
街中ということもあり、武装は《異空庫》の中ということは知らないから、手ぶらのボクは魔法使いだろうと思い先走って魔法課のウサミミ嬢に冒険者登録の手続きをした。
さん付けじゃなく、コウメイと呼び捨てでいいね。
謎の板は属性を調べるためのもので6色の玉が出たことにより、ボクが全属性持ちのヘキサグラム級の魔法使いということになってしまった。
ちなみに、ヘキサグラム級の魔法使いは神様ぐらいで完全に人外らしい。
「単属性か二属性までなら良かったんだがなぁ………」
「この年の子なら二属性でも騒ぎになりますよ」
「ボクはこれでも16なんだけど………」
「さすがに16には見えないからな、嘘をつくな」
コウメイが年に関しては嘘だと決めつけてきた、できなかった情報収集のこともあるし、ささやかな報復をおこなう事を決めた。
「嘘じゃないのに………ボクは剣士だから魔法より剣のが得意なんだよ」
「剣士?、剣なんて持ってないじゃないか?」
「あるよ………ほら」
《異空庫》を開いて武器を出す事にした。
出す物があらかじめ決まってる時は手の平の先に出現するが、決まってないで使用すると手首から先が何もない空間へと消えるのだ。
手首から先が《異空庫》へと消えたことで、ギルドマスターとコウメイの目が見開く。
この世界の武器レベルはわからないけど、ストームブリンガーやレヴァンティンだと騒ぎになりそうだから、見ため派手じゃない大きなイカリを選択した。
「アンカーバスター、切れ味は悪いけど海の生物に大ダメージを与える大剣なんだ」
「「………」」
この世界には海属性はないみたいだから、きっと水属性特効になるだろう、水の幻獣が出たら試してみよう。
アンカーバスターを見て固まり反応しないギルドマスターとコウメイにちゃんと使える事を示す為にアンカーバスターを振る。
ブンブンと重い風切り音が威力を物語る。
剣士でないと言った相手がちゃんと武器を振り回せる事に絶望したまえ──
「「………収納魔法………だと」」
──ドヤ顔で振り向いた時に、再起動した二人の台詞が異空庫の方の驚きだった。
驚かせるのには成功したけど、そっちじゃないよ。