18話
ストックゼロ
リッタ大森林。
ユミル大陸中央の【神域】を囲む形に広範囲に展開した森で、リッタ氏族というエルフ族の村がある。
リッタ大森林の管理をしているエルフなのだが、大森林全てを管理しているわけではない。
【世界樹】と呼ばれ、世界に魔力を供給する神樹の1本を守るのがリッタ氏族の本来の役割で、神樹の加護を受けたエルフの能力に森の管理があったようだ。
「ヒカリちゃん、そろそろご飯にしましょう」
ユッカの声でリッタ大森林について書かれた本から顔を上げると軽く伸びをする。
テントから出れば、朝に降っていた雨はいつの間にかあがり、日が暮れるような時間になっていた。
「テーブル出すからそこの石どけて」
「はい、これでいい」
《異空庫》からテーブルと椅子を出して料理を並べていく。
「火も使わずに温かい料理が食べられるなんてね」
「いい匂い、ご飯」
ユッカが嬉しそうに言いながら席に着くと、ゼノも匂いにつられてやってきた。
夕飯を食べた後はゼノに稽古をつけながら、ユッカと魔法の練習をするのが日課になっている。
「そうそう、ヒカリちゃんいい感じよ」
「ほらゼノ、そこで無理をするから体勢を崩される……双剣だからって無理しないで」
魔法の練習をしてわかったのだが、単属性でも魔力、威力が高ければ三属性級とか呼ばれることもあるようだった。
ユッカは水の適正が高い魔法使いのようで四属性に届くかどうかってくらいの三属性級らしい。
「ユッカは水に適正があるんだから《アクア・ブースト》くらいは使えるはずだよ、もう少しだから」
巨大な敵と戦うことの多いTWOでは《身体強化》がないとまともに戦えなかった。
誰でも使え、最初にプレイヤーが覚えさせられるのが《身体強化》だった。
《身体強化》は属性の数だけあるメジャーなスキルで海属性の《波強化》や闇属性の《闇纏》等の上位属性強化は絶大な威力をほこっていた。
ちなみにボクもゼノも無属性の《身体強化》だ。
ゼノはアポカリプス戦でレベルアップしたおかげかアッサリとものにしている。
「これで、どうだ!!」
ユッカが気合いの声とともに《アクア・ブースト》を発動させた。
少し強引気味な発動だったが、ユッカの体を水属性の魔力が包んでいる。
「おめでとう、ユッカ」
「出来た、ヒカリちゃん、出来たよ」
我に返ったユッカが自分の体を包む魔力を見てようやく成功したことを実感したようだ。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
ユッカとゼノを鍛えながらの旅は順調でリッタ大森林にあるエルフの村まで後少しのようだ。
【神樹】を守るエルフが施した結界までたどり着いたようで、辺りには霧が立ち込めていた。
「霧の結界ね」
「これが………本当に先が見えないんですね」
ゼノが視界の悪さに不安そうだ。
視界だけでなく気配や感覚もあやふやになっている霧の中を慎重に進んでいく。
「グガァァアアァァ」
霧が少し晴れてきたところで何かの鳴き声が聞こえてきた。
「なに、今の?」
「結界の中にも魔物っているんだ」
「ヒカリちゃん、そんなわけないじゃない」
だよね、言ってみただけ。
結界の中に魔物が入って来たら結界の意味ないもんね。
「とりあえず、先行して様子を見てくるよ………ゼノはユッカを守りながらゆっくり来て」
ユッカをゼノに任せると、《身体強化》をかけて駆け出した。
霧が完全になくなり見えてきた光景は木人と言うのだろうか?、手足の生えた丸太が二足歩行の豚と戦っているところだった。
二足歩行の豚は重そうな鎧を着て身長より長いハルバードを振り回していた。
「どういう状況?」
木人と豚がなぜ戦っているのか?
木人の手が槍の様に鋭くなり豚へと襲いかかった。
豚は急所に当たりそうな攻撃だけ捌いて、他は鎧で弾いてなんとか攻勢を維持してるようだ。
「鎧が凄いのかな?でも……」
鎧の性能でなんとか対等にもっていってるのだろうけど、いずれ限界がくるのは明らかだった。
もう少し様子をみていたかったが豚が良いやつだった場合、取り返しがつかないからね。
「こんなところでなにやってんの?」
「???」
「なっ!?」
鎧に当たりそうな木人の攻撃が不規則に変わり、死角からの攻撃となった。
豚に当たる前に波うつ大剣アースブレイカーで割り込んだ。
豚とお見合いする形で腰に抱きつくような位置に、一瞬で出現したボクを豚が驚いて見つめる。
木人は驚いているのかいないのかよくわからないが雰囲気的には攻撃が当たらなかった事を不思議がってる感じだ。
「キミはいったい!?」
「ボクはヒカリ……それで、どんな状況なのかな?」
「そこの木人が侵入者だ、いきなり襲いかかってきたのだ」
疲れが見える顔をしながらも驚きからたち直った豚から説明を受ける。
「とりあえず、木人の方をやっつければ良いのね?……ちなみに貴方はどんな立場なの?」
「ワレは【神宿りの森】の警邏隊だ」




