12話
サウザンドを出てレッドキャッスルを目指すボク達の旅は順調だった。
中間辺りの町【ルーリク】で補給をすませて、すぐに出発した。
街道を進んでいるからか、モンスターにもあまり遭遇せず、遭遇しても弱いモンスターばかりなので、ゼノに経験を積ませたり依頼を達成しながら進んでいた。
「そろそろ【シルニス】が見えてくるんだけど………」
「【シルニス】?」
「ヒカリちゃんは知らないのね………【シルニス】はクワレイとか言う食べ物が人気なのよ」
レッドキャッスルの最寄りの町【シルニス】、シルニスまで来ればレッドキャッスルまで三日らしい。
はじめは怯えていたユッカも今ではすっかり仲良しさんになっていた、ちゃん付けはよして欲しいのだけどね。
「ユッカ姉、クワレイって美味しいの?」
「クワレイを食べるならパンよりライスよ、そして食べるならアツアツのうちによ」
「ユッカ、よだれ、よだれ」
ゼノに説明していて食べたくなったのか、よだれが出ていたユッカを注意した。
ユッカが熱くなるくらいには美味しい食べ物なのだろう。
「【シルニス】に寄る前に依頼があるけどな」
「依頼?」
「難易度が高いくせに旨味があまりないから、ギルドで死蔵していた依頼だよ」
そういえばレッドキャッスル方面の依頼を受けてくれって言ってたね。
コウメイがギルドカードを操作して表示させた依頼をこっちに送ってくれた。
「見えないんだけど」
「悪い、赤じゃ制限あんのか……ほれっ」
「え~と、マッドグリズリー……討伐危険度Bランク!?」
Bランクって言うと国が滅ぶレベルだったはずだ、軍隊を出して早急に対処しないとまずい案件が死蔵?
「【シルニス】近くの川を縄張りにしていて、他に移動しないらしくてな、緊急性はないと判断くだされたんだ」
「あぁ、わからなくはないけど……」
「前に1度だけ討伐の動きがあったんだけど、軍が動いたところに運悪く幻獣に遭遇して軍が壊滅して討伐はされなかった」
危険度オーバーSの幻獣もいるし、定住している魔獣の討伐に軍はもう出せないってことなのだろう。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
ちらほらと現れる小型の魔獣を倒しつつ進むと川が見えてきた。
この川まで来れば、目と鼻の先くらいにはシルニスが近いらしい。
ボクにはマッドグリズリー退治があるからユリィ達には先にシルニスに行ってもらうのがいいだろう。
「ユリィ達は先に進んで………コウメイ、上流の方に向かえばいいの?」
「ああ、って俺も行くから」
「ユリィの護衛はどうするのさ?」
フリッツ君やユッカだけじゃ心配だ。
実力はそれなりにあるから大丈夫だろうけどボクが安心出来ない。
「ヒカリ姉ちゃん、ボクも一緒にいきたい」
「じゃあ、私も」
Bランク相手だってわかってるはずのユリィまでが一緒にくると言い出した。
「縄張りの手前までならいいのではないですか?」
「そうね………それなら」
「じゃあ、こっちだ」
フリッツの一言に渋々とユッカが賛同し、ユリィ達も納得したので進路をマッドグリズリーへと変えることになった。
少し上流の方に行くと開けた場所に出た。
ここからさらに上流に行くらしいのだが、馬車で行けるのはここまでだ。
なおもついてきたそうなユリィ達を残して上流へと向かった。
結局コウメイもユリィの護衛に残してきた。
ボクくらいの背丈の草が鬱陶しかったが、かきわけたり斬り倒しながらして進むと目印の白い花が見えてきた。
この白い花の蜜がマッドグリズリーの好物であるらしい。
土壌によって、花を餌としてるマッドグリズリーの属性が変わるとかで、魔法都市【アカデミー】では研究対象にしてる学者もいるそうだ。
『GRRwwwwww』
自分の縄張りに侵入されたのがわかったのだろう、マッドグリズリーの唸り声が聞こえてきた。
相手に気付かれているので警戒のレベルを引き上げて慎重に進んだ。
氷の大剣デュランダルを構えながら進む。
どこから襲いかかられても対応できる状態を維持するのは大変だから、出来れば岩場があると助かる。
大きな岩を背にして後方を警戒しなくてすむようにしたい。
「あった………って何だ?、沼?」
条件に合う大岩を見つけた、大岩へと近づこうとした時に不意に足元が柔らかくなり膝辺りまで埋まって、せっかく買った服まで泥だらけになる。
「ユリィに怒られるかな?、魔法で綺麗になるんだろうか………」
シルニスの洗浄屋の腕がいいことを祈るしかないね………って考えていた時に泥弾が飛んで来た。
「っわぷ!?」
咄嗟にデュランダルを構えて泥弾を斬ると、斬った泥弾が弾けるように割れて頭から泥を被り、全身泥だらけ状態になってしまった。
泥弾は牽制だったのだろう、草を掻き分けてマッドグリズリーが姿を現した。
「泥だらけにされた恨み………ってわけではないけど、覚悟してよね」
「GRWWWWW」
この世界に来てから初めてのBランクモンスターとの戦闘がはじまった。




