10話
ゼノの試験が終わった。
ゼノの年を考えると冒険者には早いだろうというのがカゲロウ氏の認識、ゼノの境遇を考えると冒険者になれないと孤児院にでもいれるしかないらしい。
「踏みこみは良かった、魔法も少しは使えるか………」
「えぇ」
「武器が悪かったのでしょう、剣には向いてないようです………違いますね、まだ入り口にすら立っていないので磨けばどれ程光るのやら」
ゼノは未熟なりに頑張ったようで、カゲロウ氏に才能のような何かを感じさせたようだ。
「絶対に一人にしない、ヒカリさんと一緒という条件付きなら良いでしょう」
「任せて」
ゼノの試験が終わった後に、ボクも軽く試験受けた。
ゼノの分までお返しをしてやりましたとも。
カゲロウ氏に逆に稽古をつけた感じになってしまい、カゲロウ氏が尊敬の眼差しを向けてくる。
今にも師匠と言いながら跳びかかって来そうなカゲロウ氏から少し距離を取る。
「こんな所にいたのか」
声がした方を見るとコウメイだった、後ろにいる2人が一緒に行く人だね。
「ボクはヒカリ、よろしくね」
「フリッツです、よろしく」
「ユッカだよ、よろしくね」
フリッツ、ユッカはなぜか怯えた様子だった。
コウメイが変な事でも吹き込んだんだろうかとコウメイを睨む。
「違うからっ!!、お前さんがカゲロウと模擬戦してるのを見てだな………」
冒険者ギルド、サウザンド支部でも実力派のカゲロウ氏を軽く捻ったから引いているみたいだ。
コウメイのせいでボクは魔法課所属の駆けだしになってるしね。
「まぁいいか、帝都までよろしくね」
コウメイ達も来て、ゼノもギルドカードを受け取った。
これでゼノも冒険者になった、デメリットもあるけど身分の保証など、メリットの方がでかい。
後は装備を整えるくらいだろう。
試験を済ませて地上へと戻って、ユリィにゼノの装備を整えたいことを伝えるとユリィも買い物したかったみたいだった。
宿取りをコウメイに任せてボク達は買い物に行くことにした。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「すいません」
ギルドで武具店を紹介してもらった。ギルドの紹介だけあって優良店なのであろう、店内に置いてある武器をひとつ手に取ってみた。
「はい、なんでしょう?」
「これって、この店でどんな扱い何ですか?」
店主らしき男はボク達を怪訝そうにみた後に、すぐ商売人の顔になり対応してくれた。
「え~と、これは普通の剣ですね」
「強化とか出来ないんですか?」
「強化?………軽い付与くらいなら別途料金もらえばできますが」
店主の言葉にガッカリした。
この世界の武器レベルは全然らしい。
こんなおもちゃのような剣が普通とは。
TWOには強化システムがあった、失敗すると壊れて無くなってしまう諸刃の強化システム。
だが素材をつぎ込んで成功率をあげて、ある程度までは安全に強化できる。
安全に強化したバンブーブレード+6にこの世界の普通の剣は負けるのだ。
この武器レベルじゃ、レヴァンティンなど迂闊に見せられないね、神話クラスの武器になりそうだ。
「防具コーナーってあります?」
「防具は奥にあります」
ゼノを連れて奥に行き、良さそうな防具を見繕う。
鎖帷子は重かったみたいなので、動きを阻害しないで防御面を考えると胸当てがいいのか?
「ゼノ、これは?」
「今度は大丈夫だよ」
マントは属性耐性のついたものが、《異空庫》の中にあったから良いだろう。
「これは………?」
店を出ようとした時にセール品のように様々な物が乱雑に置かれたコーナーがあった。
その中に強化品らしき小剣が2本置かれていた。
「おっ、軽い!?………【軽減】の付与かな………ゼノ」
ゼノに持たせてみたら問題ないようだった。
小剣は2本セットらしくて、離そうとすると付与効果が無くなり重くなった。
「おじさん、これは?」
「2対で1組の剣だから売れないんだ………あと、まだ30前なんだ、おじさんは勘弁してくれよ」
「ごめんなさい………お兄さん、これちょうだい」
「!?っと買ってくれるのかい、おまけして銀貨60枚でどうだ?」
胸当てと小剣2本で銀貨60枚ならいいのかな?
店にある普通の小剣が銀貨6~10枚だから、付与の効果があること考えるとだいぶ安い。
セール品コーナーにあったし、在庫処分したいからかなり値引きしてくれたんだと思う。
小金貨1枚と銀貨10枚を背負い袋から取り出す振りをした。
背負い袋に手を入れて異空庫から取り出せば、背負い袋から出したように見えるはずだ。
「はい、お兄さん」
「ちょうどだね」
見ためが小さくても普通に武器を売ってくれるのは、ギルドからの紹介状が効いてるんだろうね。
会計を済まして店を後にして、今度はユリィの買い物に付き合う予定だ。
「お待たせ、ユリィは何買いたいの?」
「まずは服かな、着替えが欲しいわ」
ユリィが今着ている服は若草色のワンピース、顔を隠す事ができるフード付きマント。
これはエステロさんに助けられた時に、着ていたユリィの服を売って得たお金で買った物だ。
人通りの多さに参りながらも、3人はぐれないように手を繋いで服飾店を探す。
「服ならカイルさんの店がいい品揃ってるよ」
屋台の串焼きの香りに負けて、小腹を満たしつつ服屋の場所を屋台主から聞きだした。
少し離れた場所にあるらしく、生活用品の出店などをみたり、買ったりしながらカイルさんの店にたどり着いた時には服以外の必要な物はだいたい揃った後だった。
「ここね」
「もっと良いところに、店を出せば良いのにね」
お世辞にも立派な外観ではないこじんまりとした店は、賑やかな大通りから外れた場所に目立たないように建っていた。
「いらっしゃいませ」
「私たち三人分の着替えを買いたいの、あなたに任せるから似合いそうなの持ってきてちょうだい」
「「えっ!?」」
店内に入るとすぐに従業員が明るく挨拶をしてくる、ユリィが用件を告げるとすぐに大量の服が運ばれて来た。
「似合いそうなの探しましょうか、ヒカリはまずはコレとコレ着てみて………ゼノは──」
ゼノとボクはしばらくユリィの着せ替え人形になることが決定した。
気がついたら服を運び終わった店員もファッションショーに加わっていたけどね、ゼノとボクは二人からの指示に大人しくしたがった。




