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『残念な天才』

 突然だが、考えてみてほしい。

才能がないものは無価値だろうか?

 この世界には何かが、ずば抜けてできる者がいる。

 才能があるものは必要とされ、無いものは凡人としての生活を強いられる。

 つまり聞きたいのは、「凡人は無価値か?」という事だ。

 努力しても、才能には届かないのだろうか?

 そんなことに頭を悩ませることになったすべての原因は間違いなくこいつだ。

(いくら何でもこれはないでしょう…?)

 手に持っているのは、目の前で剣の素振りをしている少女のステータス詳細書だ。


 《生徒名》レミア・レイン・ライアード

 《職業ジョブ剣士ブレイダー

 《職業階位ジョブランク》RANK.1

 《ステータス》

HP 4 MP 0 力 2 防御 1 器用 0 素早さ 3 回避能力みかわし 0 運 0 属性 水

 《取得魔法》なし

 《特技スキル》なし

 《能力アビリティ》なし

 《生徒順位》180位/180人中

 《教員判定》F


 これは酷い。

 ここまでひどいステータスを見たことがない。

 すでにここ、サラスヴァティス学園に入学し1ヶ月が過ぎたはずなのにも関わらず、ステータスの変化が全くない。本当に全くだ。

 ここまで来たら、もうただのダメなやつであってほしい。しかし、もう一つの成績詳細書をみれば、その期待は裏切られる。


 《生徒名》レミア・レイン・ライアード

 《職業ジョブ剣士ブレイダー

 《職業階位ジョブランク》RANK.1


 ここまでは同じくおわかりの通り底辺だ。

 問題なのはこのあとだ。


《中間筆記テスト》

 《選択科目》魔法文学 100点/100点中

 《生徒順位》1位/180人中

 《教員判定》SS


 なんと筆記は完璧なのだ。

 この学園では、基本は実技がメインだが、筆記の試験もあるのだ。教科は『魔法文学』と『魔術文学』と、二つあり、レミアは魔法文学を選択している。

 (こんな天才がなんで、技術の面で成績出せないんですか…………)

 そんな技術の面で周りに遅れをとっているレミアの補修を俺こと、アルス・セネタースが担当をすることになった。

 普段はこの学園で、剣のかたや実戦の仕方の指導をしている。これでも世界に名前をとどろかせるほどの現役剣士プロブレイダーだ。

 素振りを終えたようで、レミアは長い白髪を揺らし、こちらに近づいてくる。

「アルス先生っ……はぁっはぁっ……、す、すぶ…り…!終わりまし…ゲホッゲホッ…!」

「いくらなんでも疲れすぎです。どんな素振りをしてたんですか」

「えぇ…?普通に剣をふっていただけなんですが……はぁはぁ……」

 まあ、この疲れ具合はステータスを見れば一目瞭然いちもくりょうぜんだ。

 HPが4である時点で、素振りを終えただけで戦闘不能になりそうだ。

「今のあなたなら、俺は視線だけでも殺せます。あなたは本当に底辺なんです。自覚を持って、言われたことをしっかりこなしてください」

「しっ、視線だけで!?た、確かに先生()()()()()()()、視線だけで…私…死んじゃうかもです………………」

「はい?何か言いましたか?」

「な、なんでもありません!」

 レミアは、大きな碧眼を見開き、頬を赤くそめている。

「まったく、なんであなたは筆記は完璧なのに、実技が全くもって出来ないんでしょうか……?」

 今一番の問題に、頭を悩ませていると、一人の女の人が話しかけてきた。

「アルス先生、レミアさんの調子はどうですか?」

「相変わらずですよ」

「ふふっ、そうですか」

「ユメカ先生、そこ笑うところじゃありません」

 訪ねてきた彼女にアルスが返答すると、彼女は小さく笑い、レミアはそれに対し、ほおふくらませる。

 話しかけてきたのは、ユメカ・ミシマ先生。

セミロングくらいの綺麗な黒髪が印象的で、何より胸がものすごく大きい。

 しかも、来ているVネックの隙間から谷間をのぞかせており、教員の間ではアイドルのような存在である。

先生との出会いは、レミアが入学してくる三年前で、同じ時期にサラスヴァティス学園の先生として勤務を始めた。じゃぱん、とかいう国から来たと話していた。この学校では魔術を教えており、レミアの担任の先生でもある。

「それで、ユメカ先生。今回は何の御用で?」

「担任として、うちのクラスの生徒の補修の様子を見に来ただけですよ」

「そうですか」

「アルス先生、ちょっとこちらへ来て下さるかしら?二人きりで話したいの」

「わかりました。レミアさん、そういう事なので、ちょっと行ってきます」

「え、ちょっ、まだ補修の途t…」

 レミアが返事を言いかけたところで、アルスはユメカと校内の方へいってしまった。

「あの二人を二人きりにさせたら……!?」

頭の中で色々アウトなことが浮かんでしまった。そしてすぐにレミアは、アルスたちのあとをつけた。

 あとをつけていると二人は、魔術科研究室まじゅつかけんきゅうしつに入っていった。中から話し声が聞こえてくる。

 レミアはそっとドアに耳をあて、かおを真っ赤にして、胸をドキドキさせながら中から聞こえる声に耳を澄ませる。

「どうです先生?これは教えるというレベルではないでしょう?素振り100回だけで完全に息が上がっているんですよ?もうここまできたら、もう笑えてきますよね、ふふっ」

「なっ……!」

 怒鳴どなりたくなったが、ハッとしてすぐに口を手でふさぐ。

「勉強はできても、実技がダメならお話になりませんよね。この学園では、実戦での結果がすべてなんですもの。私ははっきり言って、あの子が嫌いです。才能の無駄遣いな上に、私にとって一番といっていいほどの障害です!アルス先生はムカつかないんですか!?」

 こんな話をするために二人きりになったのか。ユメカは私が先生のことを好きだと知っている。だから、いつも二人きりになろうとすると邪魔をする私に先生の前で恥をかかせようとするのだ。

 でも、返す言葉もない。

 だってユメカの言っている事は、すべて事実なのだから。

 そうだ、私は才能を無駄遣いするダメなやつだ。学園で密かに人気のあるアルスと釣り合うわけがない。

 涙が止まらない。今のレミアにとって、突き付けられた現実は、ナイフで心臓を刺されるよりも痛い。

 もうこれ以上聞いていたくないと感じたレミアがその場を立ち去ろうと耳を離そうとすると、

「ムカつくだなんて、そんなことはありえません。だってレミアは俺の大切な生徒ですから。嫌いな訳ありません。むしろ好きですよ」

 その言葉にレミアはドアに耳を当てたまま、涙でいっぱいの目を見開いて固まる。

「レミアは、一生懸命ないい子ですよ。きっといつか、実技で結果を出せるようになると俺は信じています。今は出来なくても、いつか俺があいつを勝たせて見せます。必ずです。話はそれだけですか?それでは、補修に戻ります。」

「ちょっ!アルス先生!」

 アルスはそれだけ言うと、魔術科研究室を出た。

(部屋の外に誰かいた気がしたのですが…)

気のせいですねと、あまり気に止めず、レミアと練習していた中庭の方へ歩きだした。


「先生は〜♪私が〜好き〜♪好き〜♪」

 アルスが出てくる前に中庭に戻ったレミアは上機嫌に素振りをしながら、即興で歌を歌っていた。

 中から聞こえたアルスにとっては何事でもなく、生徒を褒めただけだが、ドア越しに聞いていた少女にとっては、まるでプロポーズされたみたいな感覚だったのだ。

(いつもは冷たいのに、先生はあんなふうに思ってくれてたんだ……!)

 止まらなかった涙はいつの間にか止まっていた。先生の私への思いを聞けただけで、何もかもがどうでもよく思えた。

「先生は〜♪私が〜好き〜♪好き〜♪」

「何を歌っているんですか?」

「うひゃあぁ!?」

 素振りをしながら歌うレミアにいきなり話しかけたアルスに思わず驚嘆きょうたんした。

「何をそんなに慌てているんですか?」

「な、なんでもないです!」

「そうですか。それで、俺がいない間、練習サボってなかったでしょうね?」

「ギクッ…!」

「はぁ…。サボる余裕があるくらいなら、もっと練習ハードにしても大丈夫そうですね」

「お、鬼ぃ〜!」

「なんとでも言ってください。はい!素振り100回5セットいきますよ!」

「ご、5セット!?し、死ぬぅ〜!」

「嘘ですよ。1セットでも息が上がっているのに、あなたにできるわけないとわかっています」

「それはそれでひどいですね!その通りですけど!」

「今日の練習はここまでです。お疲れ様でした。明日からは、まず素振りを続けられるようになるために体力をつけます」

「具体的に何をするんですか?」

「学園で研究のため、飼われている三首犬ケルベロスから逃げてもらいます。体力をつけるにはやはり、走るのが適任だと思うので」

「先生は私を殺す気ですか!?」

 そんな鬼で少し冷たい先生だけど、自分のことを思ってくれている。それがわかっただけで、辛い練習にも耐えられそうだ。流石に三首犬ケルベロスに追いかけられるのはゴメンだけど(笑)

「それではまた明日。お疲れ様でした」

「はい。ありがとうございます」

そう言って、先生は校内に戻っていく。

「先生ー!」

「はい?」

「私のためにありがとうございまーす!これからも、よろしくお願いしまーす!」

 レミアは、今までにないほどの満面の笑みで、少し離れた先生に、手でメガホンを作り、大きな声で叫ぶ。

「はい!こちらこそよろしくお願いしまーす!」

 アルスも満面の笑みでレミアと同じく手でメガホンを作り、返答した。

 レミア以外の生徒はみんな帰った学園。日が暮れた中庭には、まだ少し夕日がかかっていた。

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