2話 そこは異世界でした、帰ります。
昨日投稿予定だったものが、投稿予約されていませんでした。
申し訳ありません。
逃げるのは早かった。
まさに黒い風となって走り抜けた。
オレはもう必死だった。後ろは振り返らない。直感の赴くまま、走る!
小脇に抱えた男が、「ぶわぁぁぁあああああ!」と奇声を上げていたが、無視!
途中から静かになったのも、無視!
とにかく、直進から左、右、大ジャンプ!
怖さなんて逃げる前には霞むものさ!
って、気づいたらどこかのビルの上。
息切れなし。
体験したことない爽快感。
そういえば、車も追い越していたので、相当なスピードを上げていたんだろう。
……まあ、とにかくだ。
とりあえず、逃げ切れたってことだ。
周囲を見渡して、怪しい騒ぎもないことを確認する。
「で、この変身を解きたいんですが」
「逃げるなよ! 立ち向かえよ! 戦えよ! 倒せよ!」
大の字に寝ている佐々山が開口一番、空に向かって叫ぶ。
走ってもないのに、息切れしてた佐々山。それでも叫ぶのはたいしたものだが。
そうだとしても。
んなこと言われても。
暴力はだめでしょうが。
でしばらくして落ち着いたのだろう。
佐々山から教えてもらった変身解除を試す。
「アルマレイジェスト、っと」
よく分からない言葉を教えられ、そのままつぶやく。
機械音声が「おつかれさまでした」と言って、……手元にICレコーダーが残る。
超技術だ。なんてICレコーダーだ。
そもそも、ICレコーダーとかじゃなくて、何かがおかしいことは明白だ。
オレじゃなくて、この世界が、だ。
自分自身が正常であることを、確認してみよう。
ついさっきまでの過去を思い出す。
えーと。確か。
残業して、なんとか最終発のバスに乗って、降りて、帰り道を歩いていたら、
車みたいなハイビームが遠くからやってきて、猛スピードで。
車の通りもない住宅街の道だから、つい、気持ちよく道の真ん中歩いてたんだよな。
自分の運動神経考えれば、避けられる訳がなく。疲れてたし。
あ、これは轢かれる。死んだ。もう光を見ないように目を閉じる。手を目の前にやった。
で、気づいたら、太陽がこんにちわ。眩しさついでに、見た腕時計は昼。
立っていたのはどこかの廃工場? の広場で。
夢か? と思ってたら目の前になかなかいいフォームで走る、白衣の変態。
もとい、佐々山。いや、陸上部のフォームだったぞあれ。
オレを見るなり、「我ながら完璧な予測だ! パーフェクッ!」。
で、「説明している暇はない」って言ったとたん、
戦闘員の皆さん、参上! っていう状態だったんだよな。
となると、想定できるのは……だ。天国や地獄ではない限り、だが。
1.夢。
2.2度目の人生中。
3.むしろあっちの事務仕事とかの方の世界が夢。
4.平行世界。
くらいの想定ができるが、
あ り え な い。
なので、
5.この佐々山博士とやらが、超技術でオレをどうにかした。
というのが有力と考えている。
確認終了。平常運転だ。
いかに気弱なオレでも、さすがに身の危険を感じているので、この佐々山をどうにかしないと。
情報を聞く。そして帰って寝ないと。仕事で小言とお叱りの日々だ。
「いや、私をどうこうって……。心の声が漏れているぞ」
「分かりやすいように言ってるんですが」
「まあ、敵は撒いたみたいだしな。分かる範囲で答えよう。その前に」
佐々山が立ち上がる。そして仁王立ちして、オレを指差した。
「今日から君は、ヒーローだ!」
馬鹿で変態がここにいますよ、おまわりさん。
「そんな目で見るな。照れるだろうが」
「いや、褒めてないし。蔑んだから。さすがのオレもちょっと」
確かに、ヒーローとはいい響きだ。
そして、変身ヒーロー。
男の憧れの一つであり、朝のよい子と正義の味方だ。
最近の作品は、正義のヒーローじゃないかもしれないが。
「何だと言うのだ! 変身ヒーローに憧れない男がいようか! いや、いないだろ!」
「その前に色々話をしたいんだけど」
そう、あまりにも問題が多すぎる。
ここはどこなのか。
オレは、なぜここにいるのか。
なぜ、帰り支度のままのスーツなのか。
あと、カバンはどこへ行った?
あれにスマホやら財布やら入ってるんだが。
そして、この世界は何なのか。
あの戦闘員さんは何なのか。
佐々山は一体何をしたのか。
オレに何をさせたいのか。
……まだまだ疑問が多すぎて整頓できない。
変身ヒーローどころじゃないのだ。
いきなり、「変身できるよ! ヒーローになれるよ!」
で、大興奮できるほど、若くはないのだ。オレ、36歳だから。
その純真さはもう眩しすぎるほど過去のもの。
それがないからといって、どうということはない。むしろ冷静に考えられる。
特にこの状況。下手にわーい、ヒーローだ! ってなればマジで死ぬかもしれない。
ヒーローだって死ぬのだ。どちらかというと死にやすいのだ。
「まあ、そのユナイドライブ……、っと君の言い方ではICレコーダーだったか。
それ、君にしか使えないから、どうしようもないけどな!」
「は? なんだって」
「それよりも、しっかり自己紹介からしようじゃないか!
私の名前はヒロシ、苗字はささやま。そう、佐々木の木が山になったのさ。
ヒロシは博士と書いて、ヒロシだぞ!
人は私を、生まれるときと場所を間違えた超天才科学者と呼ぶ!」
かっこいいだろ! という白衣の自称天才。よし、やはりこいつは変態だ。
「では、改めて聞こうじゃないか、ヒロユキ。いや、異世界からのヒーローよ!」
……異世界、だと?
「何をふざけたことを」
「ちなみに異世界人を驚かせるキーワードの一つとして、この世界の年月を知らせるというのがあるが……、っと、今日はユーアト暦で63年、冬の2月。そしてこの国は、日本ではなくヤマトだ」
「なに言って」
「ほれ、千円札と百円玉」
千円札は、日本銀行券と書いてあるところがヤマト銀行券に。
百円玉は、日本国がヤマト国。
他は何も……、いや夏目漱石と書いてある場所が、新井忠一。誰だそいつは。
「ちなみにこの国でも、国および定められた期間でない限り貨幣鋳造は重罪だ」
「本物って、ことか」
「物分りがよくて助かる。異世界人はこの時点でかなり暴れたりするからな」
どうやら、オレ、異世界に来てしまったようです……。
帰れるのかな。戻れたら仕事あるのかな。
変身とかヒーローとかなんて、異世界に来たということだけで、すっぽ抜けたのである。
2話で1セットって感じで書いていこうと思います。
1セット後は閑話を書いていければと思います。
クライマックス近くなるとたぶん閑話は書かなくなってきますが(ぇ