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失われた人達

中学生の頃、駅前の雑居ビルの非常階段から落ちて死んだ奴がいた。

二十年近く経った今、そいつの事を覚えている奴はどれだけいるだろう。

静かで大人しい奴だったし、自分から積極的に友達を作りに行くような奴じゃなかったから、自殺か事故かでちょっとした憶測が飛び交ったが、それも一週間と経たずに消えた。

理由は知らないが、当時すでに不登校だった俺は自殺だと思っている。


成人式を迎える前の夏、高校生の時に割と仲が良かった奴が、高速道路の玉突き事故に巻き込まれて死んだ。

それは茹だるように暑い昼下がりのニュースで報道された事故で、字幕に表示される犠牲者の名前をニュースキャスターが淡々と読み上げていく中、突然馴染みのある名前が目に入った。

そいつは珍しい苗字だったから、すぐに本人だろうと思って、即座に「ニュース見た?」と、数少ない高校時代の友人に連絡した。

すると直ぐに「オレもニュース見た!・・・まさかこんな事で死ぬなんて思ってなかったよ・・・あいつスゲーいい奴だったのにな・・・」と返って来た。

そいつは借りたままだったCDを形見にすると俺に言った。

高校を途中で辞めた俺と、同じクラスでも接点が無かった奴なら、そいつとの思い出の数はどちらが多いだろう。


俺を可愛がってくれた祖母は、俺が中学一年生の時に死んだ。

「今晩が峠だ」と親族から連絡があり、取りあえず家族揃って見舞いに行ったが、すでに全身を病魔に侵されていた祖母の意識は無く、俺達が廊下へ出て担当医に病状の説明を受けている間に容態が急変し、同じく連絡を受けて見舞いに来ていた他の親族達に見守られる様にして、一度も意識が戻る事なくそのまま逝ってしまった。

祖母は俺が小学生の時すでに入院していたが、見舞いに連れて行かされた時、俺はどうしたらいいのか分からず、ひたすら持参したマンガを読んでいた。

当然母には後で怒られたが、同時まだガキだった俺には、見舞いなんていう初めてのイベントでは、どんな行為が最善なのか分からなかったのだ。

あんまり明るい話はしない方がいいんだろうか、ありきたりに学校で起きた話をしようにも苛められているから心配させてしまうし・・・と色々俺なりに考えた結果が、本を読むという行為だった。

あの時、祖母と母が何を喋っていたのかは思い出せない。

母は「長男の嫁」という立場上、祖母の面倒を見によく病院に通っていた。

だから見舞いには慣れていたし、初孫の俺を連れて行けば、祖母も喜ぶだろうと考えたようだ。

俺はと言えば、何か話さなきゃいけないんだろうとは思っていたが、結果はただ時折祖母から飛んでくる質問に答える以外、じっとマンガを読んでいるだけだった。

あの時、もっと話をしておけば、祖母を喜ばせる事が出来たのだろうか。


もっときちんと見舞いに行っておけばよかった、といくら後悔しても祖母は戻らない。

年を経て、祖母との思い出が少しずつ風化していくにつれて、それとは反対に、幼かった俺がどれほど祖母という存在に救われていたのかを思い知る。

今の俺を祖母が見たら何と言うだろう。

とてもじゃないが、恥ずかしくて会わせる顔がない。

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