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縷縷血落
流れた血の数だけ強くなれる気がした。
生きのびる為に、干からびて汚れた血を洗い続けた。
増えていく傷は「生きている」という命の証だった。
痛みを忘れる為に酒を呷り紫煙を吐き出す。
自堕落と蔑まれ疎まれ、それでも銃口は咥えたまま、人知れず遺書を書き換えていく毎日。
覚束ない呼吸を繰り返して酸素を浪費する。
野蛮な心臓は拍動するだけの機械でしかない。
滴る赤い雫を舐めとり、その酔いそうな程の甘さに躰が震える。
濡れた唇は乾いて、小さな嗤い声を漏らすと、壊れた人形のように童唄を歌い出す。
My mother had killed me,
My father is eating me...
その続きが思い出せず、同じフレーズを何度もループしながら、白かった筈のシャツを洗う。
たとえ袖に付いてしまった血は白く消せたとしても、すでに覚えてしまった感覚は死ぬまで忘れられないという事くらい知っている。
未だ、血の流れは止まらない。
きっと、総てを失った時、ようやく絶望も終わりを迎えるのだろう。




