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琥珀と紫
携帯灰皿に押し込んだ吸殻を芥箱の中へ叩き落とす。
煙管の灰より無駄に重い其れ等は、密やかに僕の胸を黒く染め、けれど燻る想ひを燃やしては呑み込んで慰めて呉れた。
嗚呼、今日はもう此れ以上酔えさふに無い。
「命の水」等と大層な名前を持ち乍ら、僕一人酔わせる事が出来無いとは、酒の癖に聞いて呆れる。
グラスに残った琥珀色の其れを勢ひ良く飲み干して、寒々しく冴えた月を見上げれば、彼方の方がまだ僕を酔わせて呉れさうだ。
屹度、今晩も眠る事等出来無いのだらう。
朝焼けに急かされて漸く目蓋を閉じ、ゆっくりと偽りの死を迎える。
然し、其処に安らぎは無い。
唯、無意に紫煙を吐き出して、其れが空へと消えて逝く様を眺めて居る時は、何故だか凡てから解き放たれた様な気がする。
だからこそ、僕は此の自堕落な生き地獄から逃れる事も出来ずに、虚しく永らえて居るのだ。




