傾いた肩
何だかんだと理由があって、掛け持ちしていたバイト三つ全部を辞めた。
それが六月の終わりの事。
すると自然に外出する事も無くなり、今となっては完全に引きこもりに出戻ってしまった。
あれもこれもと録画した番組は、見る気が起きないのでどんどん溜まっていく。
せっかく買ったゲームもしまったままだ。
創作意欲も無い、というより言葉が出てこない。
仕方がないので、昔やっていたブログに載せた作品を使い回している。
もう自傷行為すら面倒。
眠い訳でもないのに目を開けているのが怠いので、白イルカの睡眠のように片目ずつ開けて過ごす。
親は僕を病院へ車で送るだけで、当然のように診察は一人で受ける。
その病院への送迎だって、いちいち前日に時間指定をして「お願いします」と言わなければ送って貰えない。
それなのに、肝心の診察となると、僕は無意識に「大人しい患者」を演じてしまう。
思考や感情を言語化する事にばかり気を使って、大事な原初の根を掘るのでは無く、すでに落ちた枯れ葉についてしか伝えられていない気がするのだ。
実際、帰宅してから「あれを言い忘れた」「これを言っておくべきだった」と色々思い出す事は多い。
かと言って親に同伴を頼めば、父は自分の意見をベラベラと話して僕に話させないし、外面の良い母は僕を虐待した本人だから、うっかり僕が何か言って機嫌を損ねてしまうのではないかと思うと怖くて気軽に頼めない。
以前僕が暴れた時、仕方ないので親も一緒に話を聞いて貰おうと病院に行った事がある。
その日は偶然担当医が居なかったので他の先生に話を聞いて貰ったのだが、「お父さんはどれくらいの頻度で来られてます?」と付き添いの頻度を聞かれ、父は正直に「年に一、二回ぐらいです」と答えて「少ないですね」とはっきり言われた。
それでも、特別な書類や手続き関係で必要な時以外、未だに父が自分から「一緒に診察に行く」と言った事はない。
全く、呆れる程に無知の無知だ。
僕の事を理解しているつもりでいて、何一つ理解していない。
僕の態度が気に入らないと「手続きやら何やら『やってやっている』んだから感謝しろ」とキレる。
その手続きが必要で、なおかつ一人では出来ない「精神障害者」に対して、感情のままに暴言を吐き、当然「精神障害者」にカテゴライズされている僕を「お前は普通に見える」と何故か「健常者」扱いしては文句を言う。
おそらく、担当医から「もうこれ以上強い薬は外来では出せないから、入院すればもう少し強いの出せるけど・・・」と「入院する」という選択を度々提示されているぐらいには重症なのだが、僕が知らない人の集団に放り込まれるのが嫌なので断っている、という事を忘れているのだろう。
自分さえ答えを知らない本当の心を抱えたまま、今日も僕は片目だけを開いて酒瓶を傾ける。




