提案
夏の終わり、担当医から試しに入院する事を提案された。
まあヘラヘラと「腹刺したいです」とか言い出すようなヤツを放置しておくのも危険な話なので、それについては異議は無い。
ただ、場合によっては閉鎖病棟もありうると言われ、個人的に集団生活が苦手な俺にとってそれは精神的苦痛でしかなく、更にゲームでもして現実逃避しようにも行動に制限がかけられてしまうというのも辛い。
と言いつつ、一番の気掛かりは入院費用だ。
「生活費の足しに何か売れる物無いのか?」と空気が読めない父に言われたのは入院を打診された後だったが、それ以前から治療費が掛からないようにと自分なりに気を使って来たつもりだ。自立支援制度だって、自分で調べて自分で手続きした。
精神科の治療は医療費がかさむと知っていたし、それでまた「金をドブに棄てた」などと好き勝手を言われたくないから。
あぁ、ほらまた親の顔色を伺っている。
俺に染み付いた悪い癖だ。
担当医に言わせれば、俺は最初から「危ない」患者だったそうだ。
まるで、脚が出なくて着陸出来ずに空港の上空をぐるぐると旋回している飛行機だ。脚が出るのが先か、燃料切れで胴体着陸、はたまた墜落するのが先か。
それは誰にも分からない。
枕元に置いている包丁を見つめて溜め息をひとつ吐いた。
最近は、電車を見ると飛び込みたい衝動に駆られて困る。