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複数の多面体

暗く閉ざされた闇の中、私は膝を抱えて耳を塞いでいた。

それなのに、沢山の声が私を取り囲んで思考をかき乱してくる。




感情の籠もらない少女の声が、淡々と私を責める。

「逃げ込む場所を探してからじゃないと何も出来ないのね」


それに対して、少年は苛立ちを込めて吐き捨てた。

「『逃げるな』って人に言える奴は、帰る場所がある奴だろ」


すると、違う少女が迷い無く断言する。

「拠り所を外に求めるから不安定になる」


追い打ちをかける様に、女性がきっぱりと言い放つ。

「私が本当に必要としているものは、私一人で得られるものではない」


小馬鹿にした様に、また違う少女が言う。

「…男が嫌いな癖に」


それを不機嫌そうな男性の声が否定した。

「違う、男も女も等しく嫌いだ」


すると、どこか事務的な女性の声が指摘する。

「そう言いながら、誰かに愛されたいと思ってる」


少年は明るい溜息を吐きながら肩を竦めた。

「嫌われるよりはマシ」


それを効くと、科学者の様な女性はこう告げた。

「嘘。

必要としているものに形が似ているから、それで自分を誤魔化したいだけ。

…それが本物でない以上、満たされない思いしか残らないのに」


今度は、落ち着いた男性の声がする。

「後味の悪い心理ゲームをしている自覚はある。

その原因も理解している」


女性(わたし)は苛立ちと怒りを抑えながら叫ぶ。

「だから私だけを責めないでよ」


新しい少女の声がする。

「また周りのせいにする」


別の男性は呆れた様に溜息を吐いた。

「事実を考慮しろと言っているだけだ」


女性は嘲る様に呟く。

「…可哀想な子供」


それに苛立ちながら男性は吐き捨てる。

「表面的な傷だけ見て同情するのは、さぞかし簡単だろうな」


少年も攻撃的な皮肉(じじつ)を投げつける。

「婉曲な空想だからそんな風に言えるんだろ。

露骨な現実だったら逃げ出してる癖に」


すると、また別の少女が冷ややかに呟いた。

「そんな風に他人を見下しなから、どこかで受け入れて欲しいと思ってる自分勝手な部分があるのも事実」


立て続けに、違う少女が嘲笑う様に尋ねる。

「ありのままの自分を認めて貰いたい?」


少年は溜息を吐いて答えた。

「否定されたり、文句言われなきゃいいよ」


さっきとは違う少女が、追い打ちをかける様に現実を突きつける。

「歪みごと愛されても、そんな対価払えないしね」


瞬間的な沈黙の後、それまで黙っていた女性がぼんやりとした独り言の様に零した。

「愛されるよりは愛してる方が楽かな」


それを聞いて、楽しそうに幼い少女が笑う。

「あの人の事みたいに」


しかし、即座に機械的な女性の冷たい声が響く。

「あれは限りなく二次元に近い三次元。

例えるなら『ガラテア』。

“こうであろう”という想像と、“こうあって欲しい”という理想。

私が好意を抱いているのは、それらによって作られた偶像でしかない」


それに反して、少女は微笑みながら首を傾げて言う。

「別に、空しくなんかないよ」


ぼそり、と僅かな絶望を滲ませた女性の声が続く。

「私にとって、報われない事よりも傷付かない事の方が重要だから」




不意に、舌足らずな子供の声が混じった。

「…あれ、なにかんがえてたんだっけ?」



そして、いつかの少女の声がする。

「また、見失う」

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