握り潰す。
それは本当に突然だった。
何の前触れも無く涙が溢れてきて、バイトに行きたくなくなったのだ。
勿論休む訳にはいかない事は重々承知している。
それでも涙は止まらなかった。
どうしてバイトなんかしなきゃならないんだろう。
どうして辞めたいなんて思ったんだろう。
どうして、どうして?
何故なのか考えようとしても、暴れる負の感情がそれを遮って余計に混乱するだけだった。
分解出来ない感情は、丸ごと握り潰さなくてはならない。
そんなもの認めない。
そんなもの無かったんだ。
何度も何度も、繰り返し自分に言い聞かせて否定する。
眠ればこんな感情は無くなる。
眠ればこんな感情は忘れている。
眠ってしまえ。
今は早く眠ってしまえ。
窓から射し込む忌々しい朝日が、何もかもを燃やしてくれる。
昨日と同じようにアラームに起こされた時、何の感情も無かった。
ただ、機械的に身体を起こして身支度を整え、朝食を摂り、靴を履いて家を出る。
そこには何の感情も必要無い。
一歩、また一歩とバイト先へ近付いていく。
今日もまた、あっと言う間に時間が過ぎ、あんな感情があったなんて事はすっかり忘れて、「お疲れ様です」と挨拶を交わし家へ帰る。
眩しい程に降り注ぐ陽の光に照らされ、真っ黒い影が足元から伸びていく。
そこには、何もかもを焼き尽くされた灰ひとつ無く、ただの影があるだけだった。