心因
少し時間を遡って、去年の話をしよう。
九月に入る前から、母と会話らしい会話をしていない。もちろん意図的にだ。
とは言っても顔は合わせているので、父は一ヶ月以上経って俺がメールで知らせるまでは気がつかなかったらしい。
二ヶ月以上経った今日も、未だ会話らしい言葉は交わしていない。
俺としてもなるべく接触を避けるように昼夜逆転の生活を送っているが、母がリビングで寝起きしているので、どうしても顔は合わせる事になる。夜になったらさっさと寝てくれればいいのだが、母は宵っ張りなので実際のところ効果は薄い。それに、あんまり昼夜逆転の生活をしていると、規則正しい生活を送っている父から「最近、顔を合わせていない」と鬱陶しい文句が飛んでくる。
お前は子供か。少しは空気を読んでくれ。
数年前、三日程食事すら面倒になって部屋に閉じ籠もった時にキレられたので、取りあえず作ってある飯は残さず胃に押し込んでいるが、一日一回しか食べるタイミングがないので量が多くて仕方なく翌日に回す事もある。
これについては仕方ない。俺だって逆流性食道炎が再発するのは避けたいのだ。
酸っぱいものが込み上げてくる、なんて表現では足りない程、ガッツリと胃酸が逆流してくるので、胃酸が喉へ逆流する度に食道の粘膜を焼かれるような感覚がするし、出来ればあれは味わいたくない。
しかし、少し前に原因不明の微熱が続いた際に胃カメラを使って検査した時は、医師に「本当に何も食べて無いよね?」と何度も確認される程、胃の中には食べたものがはっきりと残っていた。
俺は喋れないので一生懸命限界まで首を振って目で訴え、全力で「食べてません」と否定した。
「んー?この赤いの何だろう・・・トマトかな?血じゃなさそうだから大丈夫かな」と医師が言ったのだが、残念ながらそれはトマトではなく赤いパプリカだと伝えたかったものの、看護士がしっかりと身体を押さえ、胃カメラ自体も口から入れているので、結局真実は伝える事が出来なかった。
その時は結局微熱の理由も分からないまま、更に追加で謎の消化不良が発覚しただけだったが、一応病気ではなかったので良しとした。
急性腎盂腎炎で緊急入院した過去があるので、医師も念を入れて検査してくれたのだが、その医師が「特に問題ない」と診断したのだから、多分大丈夫だろう。
ちなみに、恐らく心因性と思われる微熱は今でも続いている。