病院
出来立ての脂ぎったアスファルトから熱気が立ち昇る。
俺はそれを避ける様にして、一つ手前の曲がり角を折れた。
照りつける日差しが暑い。
こんな中、歩いて病院まで行くのはバカのする事だ。
それでも、車で送って貰うのが面倒な俺は歩いて病院へ向かう。
どうせ歩いて十五分、途中で煙草も吸えるしな。
俺は俗に言う鬱病という奴でーーーーいや、でも担当医は鬱と断定できない境界線にいるって言っていたっけ。
まあいい。
そんなこんなで、俺は精神病院に通っている。
以前通っていた病院は、碌に話も聞かずにやたらと薬だけ処方する病院だったが、今の病院は違う。
何しろ担当医がお喋りなのだ。
一時間喋り倒す事だって珍しくない。
話が楽しいので傾聴しているが、担当医自身は「話が長いと思ったら言ってね。俺、際限なく話しちゃうから」と控え目に自制を試みている。
別にそんな事気にしなくても、話を聞いてる俺は楽しいから、多分これから先もストップをかける事は無いだろう。
薬の量は少し減ったが、最初今の担当医が見て「マッチポンプな処方」と言った処方内容は、あまり変わっていない。
それは、俺が鬱でベッドに引きこもる時とアグレッシブに家出なんかをする、一貫性のない行動をするからだと思う。
不眠症で薬を手離せない俺は、些細な事で憂鬱になったり自棄酒に走ったりする。もちろん、自傷行為なんかも。
最初は小さな引っ掻き傷だったそれは、年を経る事に深くなり、今では首やら顔を切りたい衝動に駆られる時さえある。
力加減が分からず、軽くだが実際に切った事も数回。
警察に通報されるか病院に搬送されれば、間違い無く強制入院だ。
今の精神障害者保健福祉手帳の等級は三級。
うっかりまた酷い自傷をすれば、おそらく二級に昇格出来るだろう。
担当医も上から投薬量を減らすよう言われているらしいが、有り難いことに「これ以上減らしたら死にます」と抵抗してくれているそうだ。
やはり、病院を変えて良かった。