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【銀文字の書】神様の杖

作者: 杜野 玖真

 これはセジュと呼ばれる太陽を持つラーヤハの世界で、神様が歩いて旅をしていた頃のお話です。


 世界はまだ石ころと砂の土地が多くて、神様は毎日あちこちに木や花や草の種を撒いて歩いていました。

 とても長い距離を歩くので、よい香りのする木の枝を拾って杖にしていました。

 その杖で地面を引っかいて種を植え付けたり、空をさらさらと撫でて雨雲をかき集めるのに使いました。

 雲の湧かない土地では、地面を突いて小さな泉を湧かせたりしていました。


 ある日、いつものように岩を割って水を呼び、手足を洗った神様はふと眠くなってしまいました。

 ずっと働きづめで疲れていたので、種を撒き終わった広大な荒地の真ん中の岩の上に座ってうとうとし始めました。

 杖はなくさないよう、地面に立てておりました。


 充分に眠って休息し、ふと目を覚ますと、あたりは眠ったときとまったく違う景色が広がっていました。

 岩と砂ばかりだった荒地は鮮やかで豊かな草原となり、泉には動物たちが水を飲みに来ています。

 神様のそばにはとても大きな木が生え、涼しげな木陰をもたらしていました。

 自分の杖を探しましたが、どこにもありません。


 それもそうです。

 大樹は神様の杖が成長したものだったからです。


 神様が眠り始めて幾度も太陽と月が空を渡っていきました。

 日差しは昼はじりじりと暑く、夜は凍えるほどに寒く感じられます。

 (といっても神様なので、それらが何か害になるわけではありませんでしたが。)

 いつまでたっても起きる気配のない神様の様子に、杖は考えました。


 ―――神様は大変お疲れだ。

    雨が降り、雪が積もってもけして起きられないだろう。

    それなら私が眠りを邪魔しないようにしなくては。

    さいわい、私の足元には水があり、広い土地もある。

    なんとでもなるだろう。


 そう考えて、杖は荒れた地面に深く根を張り、芽吹いて、いつしかかつての姿を取り戻したのでした。

 神様が大樹の幹に手を当てると、杖だった木はそよそよと梢を震わせました。


 ―――神様がよくお眠りでしたので、雨風を防いでおきましたよ。

    私はもう貴方と旅はできませんが、これから先もどうぞお気をつけて。


 神様は静かに微笑みました。

「私の杖よ、長きに渡って役立ってくれた。ありがとう。

 私の旅はまだまだ長い。どうか君の種と枝をひとつを譲ってくれないか。

 そうすればこれから先も共に旅ができるだろう。」


 杖の木は花を咲かせる時期ではありませんでしたが、ひとつの枝に白くかわいらしい花を満開にして見せました。

 それはあっという間に実を結びます。

 杖の木はふるふると震えて神様の手元にその枝を落としました。


 神様は小枝と葉で額冠を編み、淡く青みがかった銀糸に見える髪をかざりました。

 種は枝から剥いだ樹皮で袋を編み上げ、そこに入れられました。

 杖が出来上がると、神様はふたたび世界を耕すために旅に出たのでした。


 神様の杖の木は、いまは月桂樹と呼ばれ、各地に大きく繁っています。

 葉と枝はそのよい香りから、人々の食べ物の風味付けに使われ、手足の具合が悪い人々の痛みを癒します。

 鳥たちや人々の手によって種は運ばれ、世界の果てまであまねく広がっていきました。


 こうして、このラーヤハの世界は緑にあふれ、豊かな世界となったのです。

 

 2016.6.19

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