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詩集 ―Migratory Bird―

音ノ鳴ルホウヘ

掲載日:2016/03/07

突発的に創作意欲が湧いたので勢いに任せて上げた作品です。

多少意味不明な点があるかと思いますが、どうか暖かい気持ちで読んでください。

初めは何もなかった。




全ては混沌とした"無"であった。

























一体どのくらいの時間、あるいは空間の流れがあったのだろうか。






突如として「僕」は生み出された。


果てしない世界にひとりぼっちに。






きっかけが何だったのかなんてわからない。






それは瞬間に。突然に。

思いもしないところから。






最初は1つの小さな《うねり》だった。






暗く、深く、まだ世界が"無"であったところに、短く単調な。






やがて小さなうねりは《波》を形成しはじめ、混沌の世界を旅し始めた。


僕という存在が何なのかを探し求めるかのように。






どこへ行っても暗いばかりの退屈な世界。






波はさらに大きくなりながら行く先のない旅をする。






そのうち、僕にある変化が起きた。


大きくなった波が急に小さく穏やかになり、やがて1つのまっすぐな線となって歩みを止めた。






僕は僕に何が起こったのかわからなかった。


そのうちにだんだんと意識が薄れていって…―――――
























次に僕が目を覚ました時、僕は僕でなかった。


何かとてつもない大きな力によって無理やり起こされたようだった。






起きた先は以前のような暗い世界ではなく、白くて、明るくて、とても心地のいい世界。






しかし僕の波は相変わらず小さく単調なものだ。


いや、決して《小さい》わけではない。


僕にしてみたら、この前の一番大きかった時よりも大きい。


じゃあなんで《小さい》?






―――それは、僕の大きさと比較できるものがあったからだ。


辺りを見渡すと、僕よりもはるかに大きく、それでいてものすごく速い波が横を過ぎ去っていく。


形も様々で、波の頂点がまるいもの。鋭くとがっているもの。

広く穏やかなもの。小さく細かなもの。

ひたすらに長いもの。僕より短くてすぐに消えてしまうもの。

僕の波をかき消してしまうほどの強く巨大なもの。


また、赤や黄色などの《色》を持ったものもあった。


ちょうどすぐ横を僕と同じような形の緋色の波が過ぎ去ろうとしたので、僕は意を決して問いてみた。


彼の近くによると何故か《暖かった》。






君は誰?


―そっちこそ誰?


僕は………わからない。


―そうなんだ。僕もだよ。


君は何をしているの?


―わからない。


君はなんで緋色をしているの?


―わからない。


これからどこへ行くの?


―わからない。


何もわからないの?


―君の方こそどうなの?今僕に聴いたこと、全部答えられる?


………。






時を忘れるほどの沈黙があった。






―だけどね、僕は君なんだ。


え…?


思いもよらない答えが返ってきた。


―僕は君で、君は僕。ここに見える全ての波は僕であり君なんだ。


それってどういう―――


―いつかわかるときがくるよ―――


そう言い残して緋色の彼はだんだんと褪せてゆき、やがて色は見えなくなり僕の前から姿を消した。


途端に感じていた温もりが消えうせ、元の暗い世界へ引き戻された。


僕は緋色の彼が残した言葉の意味を理解できぬまま、再び暗い世界へと消えていった―――



























僕はそのあとも生まれては消えを繰り返しながら旅を続けた。


途中、何度も姿、形を変えながら。


細くしなやかな時もあった。太く力強いときもあった。


赤、青、緑、黄、様々な色も経験した。


しかし、僕という存在が何なのかは一向に掴めない。


彼の残した言葉の意味も分からなかった。







ある時、僕は緋色だった。


それはかつての彼と同じ波、長さをしていて、まるで僕が彼になったかのように。






僕がいつものように旅をしていると、近くにある小さな波が近づいてきた。


よく見ると、その姿は過ぎ去ってしまったいつかの僕にそっくりだった。







―君は誰?






突然問われた。


…わからない。


そりゃそうだ。それを探し求めているのだから。







そっちこそ誰?


―僕は………わからない。


そうなんだ。僕もだよ。


―君は何をしているの?


わからない。






何をしているかなんて最初から考えもしていなかった。

当然答えられるはずもない。






―君はなんで緋色をしているの?


わからない。






そもそも自分の色について気にしたことなんてなかった。

生まれた時にはすでについていたのだから。






―これからどこへ行くの?


わからない。






行く先なんて決めてない。というか無い。

たまに何かにぶつかって方向が変わるときはあったがそれでも終着点と呼べる場所に到達したかは定かではない。






―何もわからないの?






なんだかわかりきったようなことばかり聞かれるので腹が立ってきた。






君の方こそどうなの?今僕に聴いたこと、全部答えられる?






………。






黙り込んでしまった。


少し言い過ぎたかなと思った時、僕ははっとした。






同じだ。あの時と。


彼が僕にした質問は、僕が緋色の彼にしたことと全く同じではないか。


ということは、彼の正体は―――かつての僕?


いや、でも僕は僕で今ここにいる。


それは紛れもない事実。


一体どうゆうことだ…?






―――僕は君で、君は僕―――






ふと、その言葉がよぎった。


これは…緋色の彼の言葉…


そうだ、彼ならこんなときなんて言うのだろうか…?















一瞬、何が起こったのかわからなかった。


急に僕の持っている熱が大きくなり、次の瞬間2つに分かれたのだ。


分かれたもう一つの僕は、紛れもなく僕であり、緋色の彼だった。


今さっきまでいたかつての僕の姿は消え、いつのまにか僕と彼の2人だけになっていた。






君は…いつかの君なの?


―そうだよ


君は…いったい誰なんだ。


―僕は君で、君は僕。






確かに、彼は今僕の目に前で僕から生まれた。


でも一体なぜ…






彼は続ける。






―僕らは初め、一つだった。覚えているかい?あの混沌とした世界のことを。






《覚えている》。僕の生まれた空間だ。





―それから僕らはたくさんの旅をした。たくさんの色を経験した。様々な波になって世界を渡った。

でも最後はいつも決まって小さくなって元の波に戻りやがて消える。





それも何度も経験したことだから言われるまでもなく《知っている》。





―君、最初に僕を見たとき、『緋色』だと思わなかった?

生まれてすぐの君がなんで『緋色』だとわかったんだ?





そりゃあなぜって…僕は…





―――――緋色を、知っていた(・・・・・)…か……ら…?


わかっているような、わかっていないような、疑問符のついたトーンで答えたその時、僕の意識の中で何かが割れる音がした。

と同時に、僕が僕であった時に体験したことのない《記憶》が意識の中に濁流のように渦を巻いて流れ込んでくる。


僕が、僕でなくなる…

僕が、僕に消される…


意識が朦朧とし始める。

膨大な量の記憶、経験、知識が僕の意識をかき回し、押しつぶされそうになるが不思議と拒絶や苦しみはなかった。




 






















やっとのことで意識の混乱は収まった。


しかし、朦朧とした思考はいまだ回復しきっていない。


しかし、膨大な記憶を手に入れたおかげで分かったことが1つだけ。






『僕は君で、君は僕』

その答えは…―――






―そう。僕らは1つであり無限の存在でもある。この混沌とした世界に唯一の存在であり幾億にも姿かたちを変えられる。さらに、1つの僕から無限に増え続けることもできる。だけど無数に増えても僕の本質である波―生まれては消える運命(さだめ)―は変わらない。たとえ僕のある1つの波が消えても、他の僕が、僕の意識をを繋いでくれる。消えてしまった僕を、今の僕が、これから生まれてくる僕へ、繋ぎ、紡ぎ、伝えていくんだ。それが僕の、僕たちのいる理由。僕が君で君が僕である理由。





ああ、そうか。そうだったのか。

だから君は―――





















ふと意識が戻ると、目の前にはかつての僕が沈黙していた。


ああ、これは夢だったのかと理解するのにそう時間はいらなかった。


長い、とても長い夢のように感じた。

幾億の年月をいっぺんに叩き込まれたのだから。


しかし、僕の意識は迷うことも、悩むことも、一片の曇りすらない晴れやかな気分だった。

それは、あの夢の中でかつての緋色の《僕》が答えを教えてくれたから―――






だけどね、僕は君なんだ。


―え…?






そう、僕は君。かつての緋色の僕ならきっとそう答えるだろう。






僕は君で、君は僕。ここに見える全ての波は僕であり君なんだ。


―それってどういう―――






ああそうだ。すべての波は、僕。

君もその1人なんだ。

僕も、君も、全て、僕が、君が、紡ぐもの、繋いだもの。

そしてこれからも…―――――






いつの間にか、僕の体は鮮やかな緋色を失っていて今にも消えそうなくらい闇に染まっていた。


ああ、もうすぐだ。僕の、ここでの役目は終わったんだ。


じゃあ、今度は君が、僕を紡ぐ番だ―――――






いつかわかるときがくるよ―――






意識は薄れ、色も何も見えない。

波は落ち着きやがて消える。

でももう僕は怖くない。

僕は僕として、永遠に存在するのだから…

































幾億の月日が経った。


あれから僕は何度も僕に会った。


そのたびに僕は、僕に、僕を教えた。


あるものは電子レンジの中で


あるものは大きな機械の小さい歯車の中で


あるものは狭い真鍮の管の中で





いつの間にか"無"から始まったこの世界は時間をかけ、形を変え、色を含み、鮮やかで美しい世界へと変わっていた。


僕は楽しんでいた。


様々な場所でこの綺麗な世界を自由に飛び回って。


多くの僕が姿かたちを変え、至る場所で思い思いに自由を謳歌している。


それは僕を通して僕に伝えられているので、生まれ変わるごとに新鮮な記憶が刻まれていく。


僕の身体の長さは、時を経るごとに得る記憶の分だけ伸び続けている。

今はもうどれほどの長さになっているのか自分でもわからないくらいで。




でもそれが楽しくて、うれしくて、仕方がないのだ。






僕が生まれた理由。それはこれを見たかったからなのかもしれない。


僕が存在している理由。それはこれを聴きたかったからなのかも知れない。


でももうそんなことはどうだっていいさ。















波は生まれ育ち、やがて無数に数を増し、最後は空間の隙間に溶けて消える。





























さあ、次の僕は一体どんな景色を見せてくれるんだい?



生まれ始めた新たな僕の意識は、音のなるほうへ――――――――――

















ちなみに、この作品の題材は「音」です。

普段聞きなれている音楽、声、音は一体どうやって生まれて今この瞬間に響いているのか。

そんな不思議な、とある音のひとつの目線に立ってみました。


作中の緋色の彼が出てくる場面は超新星爆発の瞬間をイメージしました。(理由はないです)

爆発の瞬間に生まれるのは膨大な衝撃波、爆音、熱、放射線など。

その中で緋色の彼=赤外線という位置づけにしてあります。(ちょっと無理やり感がありますが…)

音も光(赤外線)も波長があるという共通点があります。

なので元をたどったら生まれは同じ波長であったと仮定してこのストーリーを組みました。


生まれては消える、肉眼には見えないもの。でも遥か昔から確かに存在し受け継がれている。そしてこれからも紡ぎつながっていく音はとても神秘的なものだと思います。


最後までお読みくださりありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
[一言]  ラゥさん、お久しぶりです。葵枝燕です。  「音ノ鳴ルホウヘ」、読ませていただきました。  生まれては消える波、その一つ一つが「僕」で「君」なんですね。  てっきりテーマ(題材)は波かと思っ…
[良い点] 音にも光にも波がある。その事実を忠実に小説で表現されていて、読後に不思議な味わいがありました。 [一言] ありがとうございます。
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