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最終話 柄にも無く日常に感謝しましょうか

 先輩と出会えて良かった――。


 気がつけば、俺達は冬休みを迎えていた。あれから、俺達の関係は何ら一つ変わっていない。俺と先輩の間にも確かな関係があるわけじゃない。今だ停滞状態だ。何かがあったとすれば、遠山に告白された事ぐらいだろうか。

 本人は何故か俺の出す答えを知っていたようで、振られに来た、と言っていた。

 この事で、四人の仲が壊れてしまうような気もしたけれど、遠山はそれを許さなかった。

 告白されたのも、したのもここだけの秘密になっていた。





 冬休みも中盤。元旦。

 昼近くから姫子さんの部屋でおせち料理を食べることになっていたので、俺は寝起きの顔を叩くと支度を済ませ部屋を出た。


「あ」


 そこには、寒さでウサギの様に耳を赤くした遠山。


「明けましておめでとう。菅原、もしかして……今起きたの?」

「うっ……、そういう遠山はどうなんだ?」


 明らかに外出してきた雰囲気の遠山にこんな事を聞くのは野暮だと分かっていたが簡単に引き下がるわけにもいかない。


「朝から美乃里とお参りしてきました! 全く、冬休みだからってだらしないんだから」

「そ、そうだ。遠山ももう行くだろ? 姫子さんの部屋」

「行くけど」


 無理矢理に話をそらし、遠山の腕を引く。


「ちょ、ちょっと!?」

「何だよ? 一緒に行かねーの?」

「こ、こ……この馬鹿野郎!!」


 いきなりの罵声。遠山さん、なんなんですか?

 すっかり機嫌を損ねた遠山はすたすたと俺を追い越し姫子さんの部屋へ向かう。

 しかし、扉の前で足を止める。


「……早く来なさいよ。この距離感で別々に入るなんて、喧嘩してるみたいじゃない」

「確かに新年そうそう喧嘩してる、なんて幸先悪すぎるもんな」


 なんだかんだ、遠山は他人思いなのだ。


「そういう事じゃないわよ」

「え?」


 扉を引きながら、あっさりと否定。

 ふてくされた様な顔で、


「菅原が喧嘩するのは、……本心をさらけだすのは名寄先輩だけで良いっつってんの!! ふんっ」


 これじゃあ、元もこもないんじゃ……。またもや、機嫌を損ねさせてしまったのか遠山は一人で部屋へ入って行った。

 遠山が何を言いたいのか、理解に苦しむばかりだけどきっと遠山の事だ。全部、俺や先輩のための事なんだろう。

 新年だからなのか、無償にそんな遠山に感謝したくなった。


 言葉にはしないけれど、いつだって俺は遠山に感謝している。

 『ありがとう』

 この言葉は俺の胸に留めた。


「はい、全員集合?」


 俺が姫子さんの部屋に入ると美乃里さんが首をかしげる。


「なんで、先生まで!?」

「笹神家のおせち料理を食べずにいつ元旦を迎えられるっていうのよ!」


 じゃあ、笹神兄弟と出会う前はどうやって迎えていたんだ……。

 でも相変わらずの絶賛ぶりだ。


 俺は自然と先輩の隣に腰を下ろす。


「先輩、明けましておめでとうございます」

「うん。あけましておめでとう、虹波君」

「ほらほら、二人だけの空間作らない! ほら、いくよ?」


『いただきます!』


 机の上に並ぶ、艶やかなおせち料理に思わず喉を鳴らす。

 全部、手作りだとは信じられない出来だ。


「んぅん! 美味しい! もう笹神兄弟お持ち帰りしたいよぉー」


 どんどん箸を伸ばす美乃里先生が叫ぶ。

 いっそのこと、その逆でここに住めば良いんじゃ――……そこまで考えて俺は自分の考えを全力で否定する。

 いやいやいや、この人だけは招き入れてはいけない気がする!


「あぁ、この蒲鉾(かまぼこ)おいしいな」

「虹波、それ切っただけだぞ?」

「あ……う……まじか」


 姫子さん辺りが「じゃあ、ここに住めば?」なんて事を軽々しく言い出さないとも限らなかったので、わざと声に出して感想を言ったのだが、運悪く蒲鉾だったとは。

 そりゃ、蒲鉾ですもんね。切っただけですよね。

 おかげで一笑を買ってしまった。


「はぁ……」


 しかし、次の瞬間そんな平和な空気に亀裂が入る。

 この嫌ぁな感じ……。

 心当たりに、苦笑いを浮かべる。


 ――妖魔だ。


「……虹波君!」

「元旦だってのに……。先輩、行きましょうか?」


「――どこに?」


 美乃里先生の存在を忘れていた。

 この人は本当の本当に一般人だった。


 なんとか誤魔化しておいてくれ、という意を込めて直に目配せする。

 しかし、直だ。直なのだ。


「美乃里先生も一緒にいきましょう!」

「こんのっ……裏切り者!」

「良いだろ、別に」


 これだから、これだから本当に――、俺は日常を離せないんだ。


「もう行っちゃいましょう先輩」

「うふふっ。行っちゃおうか」


『クロスエンフォース!』


 星灯先輩の声が軽々しく、冬空に響いた。


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